表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/106

52. 手紙

父さん、母さんへ

お元気ですか。俺は、元気です。

心配かけていたら、ごめんなさい。

この前送った手紙に、騎士団をクビになっちゃったことを書きました。

その時に村に戻るって書いたけれど、もうしばらく、戻りません。ごめんなさい。

詳しい理由は書けないのだけれど、やってみたいことができたんです。

わがままな息子でごめんなさい。でも、言い訳みたいにはなるけれど、俺はまだ村に戻れるほど、強くなれていないんです。

俺は元気にやっているので、心配しないでください。

種まきが終わった頃ですか?父さん、母さんも体調には気をつけて。お姉ちゃんとトーマ、メルにもよろしく伝えてください。



「それ、手紙?」


唐突に頭上に降ってきた言葉にトールはびくりと震えた。慌てて手元を隠す。


ばっと顔を上げると、思った以上にトールが反応したからか、ニコラが驚いた顔で立っていた。


「あ、ごめん、驚かせて。中身は見えてないよ」


「俺も、すみません。こんなに驚いちゃって」


トールはそそくさと書いていたものを隠しながら謝る。見られて困る内容ではなかったが、あまり見られたくはなかった。


「手紙です。実家に送ろうと思って」


「へえ。今日でもう教会から出れるもんね。出すにはちょうどいいね」


「はい」


トールとニコラは、今日で安静期間は終わりだった。トールの体調は、すっかりもとに戻っていた。


「ニコラさん、腕の具合は…」


トールはニコラのなくなった右腕をちらりと見ると、おずおずと尋ねた。


「もう平気だよ。村に戻ってもやってけそう」


「なら、よかったです」


ニコラはどことなく暗いままのトールを見て、呆れたように笑う。


「そんな顔しないでよ。これはトールのせいじゃないんだからさ」


ニコラはぽん、とトールの肩をたたく。


「トールたちがいなかったら、こんなんじゃ済まなかったって。君らに感謝こそすれ、責めたりなんかしないよ」


「…すみません、ありがとうございます」


――気を遣わせちゃったなあ…。


トールは反省した。


「そういえばトールは、この後どうするの?」


「今日はライゼルに滞在して、アシルさんを探そうと思います。その後は、まだ決めてないですね…。ニコラさんは、リノア村に戻るんですか?」


「ああ。トールもアシルと合流したら、一度リノア村においでよ。セシルも言ってたけど、みんな二人にお礼したがってるから」


「…はい。行きますね」


トールはほほえんだ。実際行けるかどうかは、わからなかった。まずはどこにいるかもわからないアーサーを見つけなければならなかった。


――難しいことばっかりだなあ。


トールはそっとため息をついた。







「お世話になりました」


「ありがとうございました」


「いえいえ。貴方がたに、我らが母と精霊の祝福があらんことを」


神官に見送られ、トールとニコラは教会を出た。


「じゃあ、俺はこっちだから。アシル、見つかるといいね。またね」


「はい。いろいろとありがとうございました。また」


ニコラはトールに手を振って、リノア村の方へ歩いて行った。トールはその背を見送る。


――ニコラさん、いい人だったな。


だからこそ、所在なさげに揺れる服の右袖が悲しかった。


トールは町の中心部に歩いて行く。久々に動いたが、思ったよりも体は軽く、トールはほっとする。


以前立ち寄った町よりは、ライゼルは小さな町だった。町の市壁が、中心部からも見えた。


――アーサーさん、どこにいるんだろうな…。


トールはそんなことを考えながら歩いていると、ふと町の掲示板が目に留まった。


――ライゼルにも、アーサー・ラングレットが現れたっていう知らせが来てるんだよな。


トールは掲示板に近寄る。そこには、以前見た新聞記事が貼られていた。


腹の奥がすっと冷えた気がした。


『騎士団が捜索を強化しているみたい』


メアリの言葉が思い出される。


――そりゃ、そうだよな…。


納得すると同時に、焦りがわいてくる。


――早く、アーサーさんと合流しなきゃ。


トールは再び歩き始めようとして、ぴたりと止まった。


――俺、本当にアーサーさんについて行っていいのかな。


アーサーは以前、トールについてきてほしいと言った。しかしその時は、正体を知ってしまったトールを目の届くところにおきたいという意図で言ったのだろう。


『君、本当に、俺と一緒に来ていいの?』


あの問いは、トールを気遣ったものだったのか、それとも遠回しな拒絶だったのか。


もしもあれが拒絶であったのならば、アーサーは正しかったのだろう。ドラゴンとの戦いで、トールはドラゴンに手も足も出なかった。


アーサーは、強い。これ以上ないほどに。そんなすごい人に、騎士見習いをクビになるような実力しかない自分が、ついて行ってもよいものか。


「…」


トールの顔から表情が抜け落ちる。何とも形容しがたい感情が、心の中でぐるぐると渦巻いていた。


――わかってる、俺は平凡な人間だって。


トールはぐっと手のひらを握りしめた。


自分は特別なんかじゃない。アーサーとは違う。わかっていたはずだった。けれども、輝いて見えるアーサーに魅せられてしまった。故郷に戻ることから逃げ続ける選択をしてしまうくらいには。たとえ反逆者であったとしても、アーサー・ラングレットという人物について行きたかった。


トールは頭をぶんぶんと横に振ると、ぱしん、と両手で頬を叩いた。両頬にじんじんと痛みが走る。


――くよくよしてちゃだめだ。ついていくって決めたんだ。悩むなら、どうやって足手まといにならないようにするかを悩む方が、よっぽどいい。


トールはきっと決意を持った目をすると、再

び歩きだした。


読んでいただきありがとうございます!


面白かったら下の☆☆☆☆☆から評価、またはブックマークをしていただけると励みになります。


次回更新は1/31です。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ