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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
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5. 魔物の操り方

「魔物を操れるのか、て話だったよね。結論から言えば、操れる」


アーサーの言葉に、トールはごくりと息を飲む。


「そもそも、トール君はどれくらい魔物のことを知ってるかい?」


アーサーがトールに尋ねた。


「え、魔物ですか…?」


唐突な質問に、トールは戸惑った。


「魔物は、この世界の守護者たる女神様と、その使いたる精霊の理から外れたものです。人間に害なすもので、その形態はさまざまです。魔王によって強化されるので、魔王が出現したら一気に強くなります」


トールは説明した。この王国に住む者なら誰でも知っていることだ。


「うん、その通り。トール君も知っている通り、魔物は魔王によって強化される。つまり、操れるってこと」


アーサーは、すっと目を細めた。


「だから、魔物を操るには、魔王の力を使えばいい」


「…?」


トールは首をかしげた。


「それって、魔王を操らなくちゃいけなくないですか?」


--なんかさらに難易度上がってない?


トールは疑問に思って聞いた。そもそも、もう魔王はアーサーらによって倒されたので、魔王を操るなんて不可能なはずだ。


「あはは、それは無理だよ」


アーサーが笑って否定した。


「そんなことしなくても、魔王の力は使える。魔王は、いたるところに痕跡を残していたからね。魔王の力の残滓を保存すれば、魔王の力を使える」


なるほど、とトールは思った。魔力の保存は、魔法陣や魔法薬の形で可能だ。魔法使いならば、魔王の力を使うことができる。かなり難しいそうだが。


「理解しました。…でもそれって、かなり危険なことなんじゃ…?」


「うん。魔王の力を使う人も、その効果も、かなり危ないらしいよ。まあ、そんなことできる人もしようとする人も、そうそういないらしいけどね」


--そりゃそうだ。


そんなほいほいと魔王の力を使われたら困る。あっという間にこの世は混乱に陥るだろう。


「ただ、一年前までは魔王の力を取り放題だったからね。誰かしら保存しててもおかしくはない。闇取引の格好の商品になるしね」


トールはごくりと息を飲む。


「じゃあ、この村の異常に増えたホーンラビットは、誰かが魔王の力を使ったことによるものですか…?」


「たぶんね」


おそるおそる尋ねたトールに、アーサーがさらりと答える。


トールは、自分の中にふつふつと怒りがわいてくるのを感じた。魔物は、人間に害なすものだ。魔物のせいで奪われた命は数えきれない。魔物の頂点に立つ魔王の力を使おうなど、許せることではなかった。


せっかく倒した魔王の力を利用されて、アーサーも怒っているだろうな、と思いトールはアーサーの顔を見た。トールの予想に反して、アーサーは飄々としていた。


トールはそれに驚いた。


「アースさんは、魔王の力が利用されること、どう感じているんですか?」


トールは聞いてみた。アーサーはそんなことを聞かれるとは思っていなかったのか、少しびっくりしていた。


「魔王の力が利用されること?うーん、良くないことだとは思うよ」


あたりさわりのない答えが返ってきた。


ちょっと違うんだよな、と思いつつトールは訂正した。


「えっと、そういうことじゃなくて…。魔王を倒したんですよね。自分の倒した魔王を利用されるのって、嫌じゃないのかな、て…」


アーサーの目が細くなる。


「…魔王には、個人的な恨みはあるよ。この手で倒せてよかったとも思ってる。でも、それ以上に、恨みのある奴がいるんだ。魔王は、その人への恨みをはらす手段の一つでしかない。だから、魔王の力を使う人がいることに対しては、特に怒りは覚えないよ」


トールは驚いた。いつもにこにこしているアーサーが、誰かを恨んでいるだなんて想像できなかった。魔王の力を使うことに怒っていないことも、驚きだった。


「まあ、でも、それは相手によるかな」


アーサーはにこっと笑った。笑っているのに、その表情は冷たく、怖かった。トールの背筋にぞくっと悪寒が走った。


「トール君は、ホーンラビットの増殖を止めたい?」


アーサーがトールに尋ねた。いつもの笑顔だった。


トールは少し安心する。


「はい、止めたいです。こんなに困っている人がいるのに、放っておけないです」


トールはきっぱりと言った。


それを聞いて、アーサーがほほえむ。


「そっか。トール君が言うなら、止めてみようか。明日、森を見に行ってみよう」


「はい!」


トールはぱあっと笑顔を輝かせて言った。アーサーが自分の要望を聞いてくれて、嬉しかった。


「じゃあ、今日はもう寝ようか」


アーサーはそう言って、用意してもらった部屋へと向かっていく。


トールもそれに続いた。






翌朝。


アーサーとトールは、森に来ていた。


出発する前に、村長に一応森を調べてみる旨を伝えたところ、感謝して送り出してくれた。


本当に困っていたんだなと、トールはしみじみと実感した。


森に入ってすぐのところには、ホーンラビットはあまりいなかった。


「あんまりいないね」


「昨日あんなに狩ったのに、まだ大量にいたら困りますよ…」


アーサーの感想に、呆れてトールが言った。アーサーがあはは、と笑う。


「ところで、トール君」


「?なんですか?」


アーサーがトールに尋ねる。


「トール君、ホーンラビットを狩るとき、一度突進をよけてから切ってるでしょ」


「え、なんでわかったんですか」


トールは驚いた。その通りだった。昨日は、別々に行動していたためアーサーがトールの狩るところを見ているはずはなかった。


「トール君が狩ったホーンラビット。あれ見たら、わかったよ。角が欠けていて、上から首を切ったのが多かった。突進してくるのをよけて、ホーンラビットが木とかにぶつかったところを上から切ったんでしょ」


どう?とアーサーがトールの顔をのぞきこむ。


「…その通りです」


素直に感心した。狩ったホーンラビットを見るだけで、そんなことがわかるなんて。


「トール君、反射神経いいんだね」


「え?」


「だって、ホーンラビットの突進をよけるの、けっこう難しいよ。あいつら速いから」


「そうなんですかね…。たぶん、俺が怖がりなだけかと…」


アーサーに褒めてもらえたことは嬉しかったが、トールは思わず謙遜してしまった。


トールの頭の中に、騎士団時代の記憶が走る。よけるなと、何度も怒号を浴びせられた記憶。


「怖がるのは、大事なことだよ。怖がらないで何にでも突っ込んでいったら、痛い目見るよ」


アーサーが言った。トールをなぐさめようとしているというよりはむしろ、本気でそう思っているみたいだった。


「そうですかね…、ありがとうございます」


少し自信を持てたトールだった。


「トール君、俺と同じ狩り方やってみない?」


「アーサーさんと同じ狩り方ですか?」


トールは、突っ込んでくるホーンラビットに真正面から剣を突き刺していたアーサーを思い出す。


--え、無理、怖すぎる。


「いや、俺には、無理です」


ぶんぶんと首を振るトール。


「そうかな?ウォーウルフの攻撃はさばけてたのに」


アーサーの言葉に、あの時は別、と思いながらトールは言葉を濁した。


何も考えずに歩いていたトールだが、ふと踏み出した先に地面がなかった。


「え?」


踏み出した右足が空を切る。それに気づいた時には、すでに左足も宙に浮いていた。


トールの顔を冷や汗が流れた。


「うわああああ!?」


トールは叫び声をあげながら、地上から消える。




「え?トール君?」


突然のトールの叫び声に、アーサーが驚いて振り向く。そこには、トールの姿はなかった。


ドサッという音と、トールのものとおぼしきうめき声が地面の下から聞こえた。


「おーい、トール君、大丈夫?」


アーサーはトールの消えた地面を心配そうに見ながら尋ねた。


「痛…っ、大丈夫、です」


どこか打ったのか、地上に痛そうにする声が聞こえてくる。


アーサーはほっと息をついた。


トールの消えた地面は、枝や葉で隠されていて一見するとわからないが、大きめの穴が空いていた。わりと深いようだった。


「あ、ホーンラビットの巣か」


ぽん、と手を叩いてアーサーが呟く。


アーサーはしゃがみこんで穴をのぞきこむと、奥の方で何かがもぞもぞと動くのが見えた。


「トール君、怪我はない?」


アーサーは尋ねた。




「なさそうです」


トールは答えると、上の方を見た。頭上に自分をのぞきこむアーサーの顔が見え、思わず手を振る。


アーサーはそれをほほえましく見ていた。 


「上がってこれそう?」


「うーん、ちょっと厳しそうです」


穴は深く、アーサーとトールが目一杯手を伸ばしたとしても、届きそうになかった。


「うーん、そっか。トール君は剣を持ってるよね」


「持ってます」


「じゃあ、ホーンラビットが出てきても平気だね」


アーサーの言葉に、トールはすっと顔の血の気が引く。頭上からでも暗い穴の中からでも、ホーンラビットがこんな狭い空間で襲ってきたらただでは済まなそうだった。


「それは…場合による気が…」


「そう?大丈夫そうだけど」


トールの泣き言を、きょとんとしてぶった切るアーサー。トールは泣きそうになった。


「俺、こんな狭いところでホーンラビットに勝てるほど強くないですよ…。それに、なんか甘ったるいにおいして、気持ち悪くなりそうですし…」


トールの言葉に、アーサーの表情が固まる。


「…トール君、今、なんて言った?」


アーサーが尋ねる。どこか焦りがにじんでいるような声だった。


「え?俺はそんなに強くないって-」


「そっちじゃなくて」


アーサーがさえぎる。


「えっと、甘ったるいにおいがするって方ですか?」


それを聞いたアーサーの顔が険しくなる。


トールはアーサーが何に焦っているのかわからず困惑した。


「トール君、なるべくそこの空気を吸わないようにして」


アーサーがトールに言う。いつになく強い言い方だった。


「え?アーサーさん、それってどういう…」


トールが言い終わらないうちに、アーサーが穴の入り口から消えた。


「アーサーさん?」


一応アーサーの指示に従い、口元を袖で覆い隠しながらトールはアーサーを呼んだ。しかし、返事はなかった。


「うわ、気付いちゃうんだ」


地上から、聞き覚えのない声が聞こえてきた。


「…誰?」


アーサーが訊ねる声が聞こえた。


「お前が知る必要はないな。お前は、見ちゃいけないものを見たんだ」


スラッと、剣を抜く音がする。トールの心臓が激しく打ち始めた。


「運のなかった自分を恨むんだな」


その言葉の直後に、ズシャッという人の切れる音がした。


「アーサーさん!」


トールは悲痛な叫び声を上げた。


読んでいただきありがとうございます。

次回更新は10/14の予定です。

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