47. 一瞬の焦りが命取り
――しまった。
アーサーはドラゴンが怪我人を背負ったトールを目に入れたのを見て、慌ててドラゴンの前へと飛び出し、腹に一閃を加えた。鱗のない腹は、まだ刃を通せた。
ドラゴンは悲鳴を上げつつも、アーサーをジロリと睨む。トールらからは注意を反らせたようで、アーサーはほっとする。
アーサーが切ったはずの腹は、水蒸気を上げながらふさがっていっていた。
――無限に回復できるわけじゃないと思うんだけど。
アーサーはドラゴンの傷が回復するのを見て、眉をひそめる。
先程から、アーサーはかなりの傷をドラゴンに加えていた。しかし、その度に回復されてしまい、埒が明かなかった。
――あと一人だ。あと少し。
トールは『頼むね』の一言だけでアーサーの意を汲んでくれた。気にするのが一ヵ所で済むのはありがたかった。
――トールは頼もしいなあ。
アーサーの頭に、魔法があれば、という考えがよぎった。
魔王討伐の時はほぼ常に、マルツァーの魔法があったから。
どうしようもなく、アーサーは頼りたい衝動に駆られた。
アーサーはドラゴンの攻撃をさばきながら、トールに向かって尋ねた。
「トール、転移魔法、使える?」
「使えないです」
トールは申し訳なさそうに答えた。
「防御魔法は?」
「すみません、それも無理です」
「浮遊魔法はどう?」
「すみません…」
アーサーは自分の顔が険しくなるのがわかった。自分への嫌悪からだった。同時に、トールがとてもつらそうな顔をしていることもわかってしまった。
内心わかっていた。
マルツァーが使っていた魔法は難易度が高い魔法であり、民間魔法しか使えないというトールには無理であろうことを。
――俺、一人じゃ何もできないなあ。
アーサーはぐっと唇を噛み締める。
魔王討伐の時は、一人ではなく四人で魔物の討伐にあたっていた。主にマルツァーやエステルが人々に被害が及ばないよう安全な場所まで転移させたり、防御結界を張っていたため、アーサーは周りを気にせずに戦っていられた。
しかし、今はそうではなかった。怪我を負った人もいる中で、彼らをかばいつつドラゴンを倒すのは容易ではなかった。結界に閉じ込められた今、彼らを逃がすこともできそうになかった。
アーサーは自分が仲間に依存していたことをひしひしと感じた。
――飛ばれる前になんとかしないと。
アーサーに焦りがつのる。
魔法が使えない中でドラゴンが空に飛んでしまったら、アーサーは手も足も出なくなる。
アーサーは考えながら、ドラゴンの攻撃をさばきつつもドラゴンに傷を刻み込んでいった。
焦りが、アーサーの注意不足を招いた。
一瞬、アーサーは油断した。ほんの一瞬だった。
その一瞬でのことだった。
ドラゴンの尾が、大きく振られた。
「!」
気付いた時には遅かった。
トールが動く方が速かった。
トールは自身に迫る鈍器のような尾に気付くと、背負っていた怪我人を後ろへ放った。トールは右手を剣の柄にかける。しかし、そこまでだった。
次の瞬間、ドラゴンの尾がトールに直撃した。
砕けるような、嫌な音がした。
トールの左腕に尾が直撃し、胴まで尾がめり込んでいるように見えた。
――え。
アーサーは目を見開いた。
目の前の光景が信じられなかった。目の前で起きていることが、とてもゆっくりに見えた。しかし、自分自身の動きも同じく、苛立つくらいに遅かった。
アーサーは自分の体から、温度が消えるのを感じた。
トールはものすごい勢いで吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「っああああああああああ!!」
トールの絶叫が響く。
アーサーの顔が歪んだ。
「トール!!!!」
アーサーは思わず叫んでいた。
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