44. 経験値の違い
茂みをかき分けると、そこでは三人の青年が飛竜の群れに襲われていた。抵抗してはいたが、飛竜の数が多すぎた。
「大丈夫ですか!」
トールは青年らに近づこうとする。しかし飛竜に阻まれ、進めなかった。
「…っ」
トールの顔が歪む。トールは飛竜の攻撃をよけつつ、一体一体倒すので精一杯だった。
「…ニコラ、ちょっとここで待ってて」
アーサーがニコラに言う。
アーサーは少し膝を曲げ、勢いを貯める。そして勢いよく飛び出したかと思うと、トールの横を通りすぎ、目にも止まらぬ速さで飛竜たちに斬撃を加えていった。短剣から滑り落ちた飛竜の血で、アーサーの短剣が通った軌跡が見えた。
アーサーは体の右側に剣を振り抜きながら、軽やかに地面に着地する。飛竜の群れが、ドサッと音を立てて地面に落ちた。
「…!」
アーサー以外の全員が、唖然としてそれを見守っていた。わずかに残っていた飛竜は、急き立てられるように森の奥へと逃げ飛んで行った。
「君…、一体、何者なんだ…?」
ニコラが驚きを顔に表したまま、アーサーに尋ねる。
「…各地をめぐって魔物を倒す、狩人みたいなものかな」
アーサーはそう言ってにこっと笑った。
飛竜の群れに襲われていた青年らは呆然としていたが、ニコラを見て目を見開く。
「! ニコラじゃないか!」
青年らが叫んだ。三人ともあちこちに切り傷がついていて、ぼろぼろだった。ニコラは安心したように、顔をほころばせた。
「みんな…!」
ニコラと青年たちは駆け寄り抱き合った。
「よかった、無事で…」
「お前こそ…!はぐれて、もうだめかと…」
一人がニコラの右腕に気付き、表情が固まった。
「ニコラ、その腕…」
「…小ドラゴンにやられたんだ」
「嘘だろ…」
ニコラの右腕を見て、青年らは言葉を失った。
「あ、でも、ちゃんと処置はしてもらったんだ。しかも、ジェナスが助けを呼んでくれたんだよ。この人たち」
ニコラは落ち込んでしまった仲間を見て、明るく言った。青年らはアーサーとトールを見る。
「ジェナスが…?」
「ああ」
驚く青年らに、ニコラがうなずく。
「トールです」
「アシルです」
トールとアーサーは青年らに名乗った。
「ニコラ、この人たちがはぐれた人?」
「ああ。一緒にいたやつは、みんないる」
ニコラはほっとしながら、アーサーの質問に答えた。
「すぐに合流できてよかった」
アーサーはほほえんだ。
「えっと、みなさんは今、どんな状況で…?」
トールは青年らに尋ねる。青年らは困ったような、悲壮感漂う表情をした。
「とりあえず村を目指してたんだ。でも、だめなんだ…。ここから抜け出そうとしても、いつの間にかここに戻って来ちまう。飛竜にも襲われるし…。ドラゴンに遭遇してからこうだ。一体何なんだよ…」
その人は頭を抱えてしまった。彼らが陥っている状況は、トールたちと同じだった。
それを聞いて、トールは前に気付いたことを思い出した。
「あ…。アシルさん、俺、さっき気付いたんですけど…」
「ん?」
アーサーはトールの方を見る。
「アシルさんがニコラさんに気付いて森の奥に進んだとき、なんか、膜みたいなのを通った気がしたんです。そこを通過したら、空気が変わったみたいで…」
トールが話すのを聞いて、アーサーは目をすっと細めた。
「ああ、そういえばトール、何か言いかけてたね」
アーサーは顎に手をあて、少し考えた。
「…どうやら、この結界、あんまり質が良くないみたいだ」
「え?」
アーサーの言葉に、その場の全員が思わず聞き返した。
「結界って、質がいいものほど魔物だけを閉じ込めるらしいんだよね。でも、質が悪いと、容量がある限り何でも中に入れて、閉じ込めちゃう。たぶん上位の魔物のドラゴンが出現して、結界の容量がオーバーして中下位の魔物が結界から押し出された。まあ、その結果、人間が入れるくらいの余裕ができてたんだろうね」
トールはアーサーの言わんとしていることが、自分の考えていることと同じであることを悟った。
数人は、現在自分たちの置かれた状況がわかったようで、顔が青ざめていた。
「つまり、どういうことだ?」
遠回しなアーサーの言い方に、一人が理解しきれず尋ねた。
「つまり、俺らは今結界の中にいて、閉じ込められてるってこと」
アーサーが平然と言ってのけた。
改めて口に出して言われると、比にならない現実味が襲ってきてトールは震えた。他の人も、ドラゴンとともに閉じ込められている絶望的な状況に絶句し、顔面蒼白だった。
「それ、どうするんだよ…。ここから逃げられないってことだろ?ドラゴンもいるんだろ?最悪じゃないか…!」
狼狽が他の人にも伝播し、絶望感が漂った。
――まずい、この雰囲気、なんとかしなきゃ。
トールは負の方向へ向かうその場の雰囲気に焦る。
「とりあえず、残りの人を探そう。それで、ドラゴンを倒そう。抜け出す話はそれからだ」
アーサーが言った。落ち着いた声だった。
「でも…」
「…仲間が残ってるんでしょ?結界から抜け出せるかはわからない。ドラゴンがいる中で結界から抜け出す方法を探すは危険すぎる。なら、まずは残りの人を探しつつ、ドラゴンを倒すべきだ」
アーサーの言うことは真っ当だった。渋っていた青年も納得したのか、黙った。
アーサーはやはり魔王討伐パーティーの一員だったのだと、トールはアーサーの慣れた様子を見ながら実感していた。経験値が違った。
「あまり離れすぎず、手分けして探そう」
アーサーの言葉に、全員がうなずいた。
「あいつら、どこにいるんだろうな」
一人がぼそりと呟いた。
探し始めてから一晩を越していた。ニコラたちはずっと不安げな顔をしていた。誰も口には出さないが、もしかしたらもう、と思ってるのが見てとれた。木々の葉が怪しげに揺れる。
唐突に、アーサーがばっと右斜め前方を見た。鋭い視線だった。
「…いた」
そう呟くとアーサーはその方向へと走り出し、あっという間にトールたちから遠ざかった。
「え、どこ行くんだよ!」
突然走り去ったアーサーに、一人が驚いて声を上げる。
「きっと向こうに何かあるんです。行きましょう」
トールは残された四人を促し、アーサーを追って行った。
走っていくと、少し開けた場所に出た。
「…!」
そこの光景を目にし、トールらは絶句する。
そこには、ぼろぼろになって戦いつつ、なんとか逃げ回っている青年らがいた。
そしてその中心にいたは、真っ黒な巨体のドラゴンだった。
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