40. 助け方も好きずき
「…俺は、セシルにメアリと村を託された。騎士団にも見放されちゃ、俺に出来ることは、村の人が危険にさらされないようにすることなんだ。…本当のことを言えば、メアリは絶対にセシルを助けに行くって言い出す。他の村人も森に行かないように、俺はもうだめだとしか言えなかったんだ。というか、ドラゴンが出ただなんて、言えねえよ。俺は、幼なじみの頼みを果たしたかった。幼なじみを守りたかったんだ。まあ、結果はこうだったけどな」
ジェナスは眠っているメアリを見ながら、自嘲的に言った。
「…そうだったんですね」
トールは呟いた。村を守るために森へ赴き、いるはずのない上位の魔物に出くわし、怪我を負ったにもかかわらず騎士団には助けてもらえず、仲間はまだ森の中に取り残されている。なんて悲惨な状況なのだろうと、トールは聞いているだけでもつらかった。
アーサーも何か思うところがあるような表情でいた。
「…よく、メアリに近いところにいた俺らにナイフを投げれたね」
非難するでもなく、単純に感心したようにアーサーが言った。
トールはその言葉に引っかかった。
――もっと至近距離に俺がいたのに、この人短剣投げたよな…。
トールはメルベックのクールノー商会の支店で、アーサーがトールを羽交締めにした敵の額に短剣を投げたことを思い出した。
トールのうろんな視線に気付き、アーサーが目を泳がす。
「…俺は、投げナイフには自信があるんだ。お前らが敵だと思って、思わず投げてて…」
ジェナスが所在なさげに言う。
「いいコントロールだったよ」
ジェナスを褒めるアーサー。
――俺は、アーサーさんにいいコントロールだっただなんて言えないな…。
さらにうろんな視線になったトールをちらりと見ると、アーサーはだらだらと冷や汗を流す。
助けてもらった身であるトールにはアーサーを責める権利はないので、トールはアーサーにうろんな視線を向けるのをやめた。
「俺は怪我をしたのが、利き手じゃない方だったからまだ良かったけどな…。でも、森の奥に残されたあいつらはどうなっているか…」
ジェナスは森の奥に残してきた仲間のことを思い出したのか、うつむいた。
「森の奥からはもう脱出できて、近くまで戻って来てるってことはないの?」
ジェナスはつらそうに首を横に振った。
「たぶん、無理だ。あいつら、ドラゴンの周りしか逃げられてなかったんだ。俺らには、ドラゴンの目をかいくぐって逃げるだけの技量はないんだ」
「…そっか」
アーサーはすっと目を細めた。
ジェナスは顔を上げた。
「…お前らには本当に感謝している。騎士団に見捨てられた俺らは、もうどうにもできなかった。女神様の救済のようだよ。だからこそ、一つ、言わせてくれ」
ジェナスは真剣な目でアーサーとトールを見た。
「本当に、気を付けてくれ。相手は上位の魔物のドラゴンだ。本音を言えば、セシルたちを助けてほしい。だが、無理だったとしてもお前らを責めたりなんかしない。自分の命を、優先してくれ」
ジェナスは頭を下げた。
トールは、ジェナスは責任感のある人なのだと、しみじみと感じた。
「わかった。気を付けるよ、ありがとう」
アーサーはそう言ってほほえんだ。
「村に、寄らなくていいんですか?」
翌朝、ジェナスとメアリを村の手前まで送ったアーサーとトールに対し、メアリが尋ねた。
「うん。早く奥に向かった方がいいでしょ」
アーサーがにこっと笑って答える。
「それもそうですが…」
メアリが言いたいのは、村で装備を整えなくて良いのかということだろう。
「大丈夫ですよ。ちゃんと行ける準備はしてあります」
トールはアーサーの意を汲んでメアリに言った。町ではアーサーの手配書が再び舞っている頃だ。きっとアーサーは、下手に自分の顔をさらしたくないのだろう。
「そういうこと。じゃあ、行ってくるね」
トールの肩にぽんと手を置くと、アーサーはジェナスとメアリに言った。
「アシル、トール、頼んだ」
「お願いします。お気を付けて」
見送る二人に背を向け、アーサーとトールは森の奥へと進んで行った。
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