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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
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4. 見えない星空

たくさんのホーンラビットが狩れたことに喜んでいる村の人々の様子とは正反対に、アーサーとトールだけ、冷たく張り詰めた様子だった。


「誰かが魔物を操っているってことですよね…。それって、ありえるんですか…?」


トールはおそるおそる口にした。信じられなかった。そのような方法があるであろうことも、そのようなことをする人がいることも。


「『誰が』はおいといて、魔物を操ることは不可能ではないよ」


アーサーが静かに言った。トールにはアーサーが怒っているように見えた。


「おーい、二人とも!」


二人のもとにマックが走ってきた。


二人はマックの方に顔を向けた。


「晩餐を用意するから、ぜひ食べてくれ!いろいろ用意するぞ!」


マックが笑顔で言った。


「いいんですか、ありがとうございます」


アーサーが笑顔で答える。


「もちろんだ!こんなに村に貢献してくれたんだからな」


マックは二人の肩を叩きながら、積み上がったホーンラビットの山に目をやった。


「とりあえず、ご馳走になろうか」


アーサーはトールをうながし、二人はマックにつれられて村の中に戻って行った。






村の広場の集会場で晩餐はふるまわれた。


狩ってきたホーンラビットの料理が、テーブルにところ狭しと並んでいる。テーブルの周りにはたくさんの村人が集まっていて、おのおのジョッキを片手に楽しそうに語り合っていた。


「本当にありがとう。感謝してもしきれない」


アーサーとトールに、村長が頭を下げた。


「いえいえ、そんな。お安いご用ですよ」


アーサーがにこにこと笑って対応する。


ほとんどアーサーさんの功績なんだよな、とトールは少し複雑な気持ちで村長のお礼を受け取っていた。なんだか気まずいのでジョッキの中身に口をつける。アーサーは村長に、狩ったホーンラビットの一部を譲ってくれるよう交渉していた。もちろん、快諾してもらっていた。


「いやあ、まさかあんなに狩ってもらえるとは思わなかったよ」


マックが感動して言う。周りの人々も、思わぬ量を狩ってもらえたことを口々に喜んでいた。


「この時期に駆除してもらえてよかったですよね、村長」


マックが村長に話しかける。


「ああ、本当に」


うんうんとうなずいて同意する村長。


「ホーンラビットが大量発生し始めたのって、半年前からでしたっけ?」


トールが尋ねる。


「そうだ。ちょうど収穫の時期でな。ほとんど収穫できずに荒らされてしまったんだよ。早めに収穫できていた分と急きょ買いだめた分で冬は越せたんだがなあ、春になってもまだ荒らされるとなると種をまけない。今年も収穫できなかったら本当にまずかった。我々の生活が立ち行かなくなってしまうところだった」


村長は酒が入ったこともあり、饒舌に語った。最悪の事態をまぬがれることができたことにほっとしたのか、目が少しうるんでいた。


マックもそれに深くうなずき同意した。


「狩ったホーンラビットをこんなにおいしく食えるのなんて、久々だ」


「本当にそうだな!」


マックが言うと、笑いが起こった。被害の元凶をやっつけた喜びからなのだろう。


トールはそれを見て、村の人たちがやっと安心できたことに嬉しくなった。けれども、まだ解決したわけではないことにもやもやとした。


酒が入り村の人たちがつぶれ始めた頃、ジョッキを片手に机に突っ伏したマックがぼそりと言った。


「…前の領主様だったら、こんなことは起こらなかったんだろうなあ」


アーサーとトールはそれを聞き逃さなかった。


「どういうことですか?」


トールが尋ねる。


「いや、前の領主はさ、すごくいい人だったんだよ。村にも足を運んでくれるし、俺らの話も聞いてくれるし。困ったことがあれば助けてくれた」


マックの顔は酒で赤くなっていた。


「けど、死んじまった」


マックは悲しそうに言った。


「…どうしてですか?」


トールは少しためらいながらも聞いてみる。


「…俺らを助けてくれたからだよ。まだ魔王が倒される前、この辺は魔物が多くてさ。被害がひどかったんだよ。それで、領主みずから魔物の駆除に駆けつけてくれたんだ。でも、魔物が強すぎた。魔物を倒したけど、同時に領主もやられて死んじまった」


「…」


トールはなんと言えばいいかわからなかった。アーサーも、ジョッキに口をつけながら静かに聞いていた。


「で、後任の領主がやってきて、それが今の領主。ロベルト・ダナウェンっていうんだけど。この人がさ、前の領主とは正反対で。超嫌な奴なんだよ」


苦々しい顔をしてマックが言う。


「税は重くするし、俺らの話は聞かないし。魔物の駆除だって、全部こっち任せなんだぜ?たかが農民に何ができるってんだよ。ふざけてる」


ばん、とテーブルを叩いた。堰が切れたように話していた。しかし、自分がテーブルを叩いた音ではっとしたようだった。


「すまない、こんな暗い話しちまって。…今俺が言ったことは、秘密で頼む」


切実な目で訴えてきた。アーサーとトールは深くうなずく。


「でも、本当に、二人には感謝してるんだ。みんな口には出さないけど、すごく不安だったんだ。ホーンラビットを駆除してくれて助かったよ。本当に、ありがとう」


マックが頭を下げる。


アーサーもトールも、思わず顔をほころばせた。


マックはそのままへろへろとテーブルへ突っ伏すと、いびきをかいて寝始めた。疲れから解放されたような穏やかな寝顔だった。


「あはは、みんな寝ちゃったね」


アーサーはそう言うと、夜空を見上げた。


「ですね」


トールは周りを見渡しながら同意した。ほとんどの村の人々は、ジョッキを空にして酔いつぶれていた。少数起きている人たちもいたが、だいぶ酔いがまわっているようだった。


トールはアーサーを真似て、夜空を見上げてみた。そこには数多の星が光輝いているようだった。しかし、そのほとんどが雲で隠されてしまっているのが残念だった。


「星、隠れちゃってますね」


トールは言った。


「そうだね」


アーサーが答える。


しばらくの間、二人は黙って夜空を見ていた。二人の髪を、夜風がさわさわともてあそんでいった。


「…あの、アースさん」


トールはアーサーに話しかけた。誰かが聞いているといけないので、アース呼びにしておいた。


「何?」


「さっきの話の続き、してもいいですか?」


トールはアーサーの様子をうかがいながら聞いた。誰かが魔物を増やしているということが、頭に引っかかって離れなかった。


アーサーは、トールの方に顔を向けた。


「…そうだね。続きを話そうか」


アーサーは静かに笑うと、言った。トールに緊張が走った。


読んでいただきありがとうございます。

次回更新は10/11のつもりです。

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