34. 地図の持ち腐れ
「そういえば、ここ、どこなんだろうね?」
アーサーはふと思い出したように言った。
宝石鳥に追いかけられてめちゃくちゃに走りまくり、挙げ句の果てには崖から落ちてしまったため、現在位置が全くわからなくなっていた。
「アーサーさん、地図でわからないんですか?」
トールの質問に、アーサーはにこっと笑った。
「トール、知ってるかい?」
「?」
「地図ってね、現在位置がわからないと、全然使い物にならないんだよ」
「…そうなんですか」
トールはがっくりとした。初めて地図を見たときは、なんて便利な代物なのかと思ったのだが、どうやら万能なものではなかったらしい。
「でもそれは、トール次第かな」
「どういうことですか?」
アーサーの言葉に、トールは首をかしげる。
アーサーは鞄から地図を取り出して広げた。
「この地図ね、マルツァーが魔法をかけてくれてるんだ。現在位置を地図に示すような魔法もね。俺は魔法が使えないから無理だけど、トールならなんとかできるんじゃない?」
「それは、マルツァー様だからできたんじゃ…」
トールはマルツァーのすごさに恐れおののきながら言った。
現在位置を地図に示す魔法など、トールは聞いたことがなかった。そもそも、地図を知らなかったから無理もないのだが。明らかに高度な魔法であった。民間魔法の中でも簡単な生活魔法くらいしか使えないトールには、求められているものが大きすぎた。
アーサーはトールの言葉に、きょとんとしていた。
「レオナルドも使ってたけど…」
「俺は、そんなにすごい魔法使いじゃないんですよ…」
トールは比較対象の人物たちがすごい人物たちすぎて頭を抱えたくなった。
剣士として知られるレオナルドも、魔法使いとしては一流だと有名だった。
「…そっか。ごめんね、変に期待かけちゃって」
アーサーはしゅんとしながら、トールに謝った。
それを見て、トールは後悔の気持ちがわいてきた。せっかくアーサーがトールのことを頼ってくれたのに、何もせずに断るのは悔しかったし、申し訳なかった。
「アーサーさん、地図、貸してください。成功する確率は低いと思いますけど、やるだけやってみます」
トールはアーサーに言った。
アーサーは驚いたような顔をしてトールを見た。
「そう?」
アーサーはトールに地図を渡した。
「ありがとうございます」
地図を受け取ったはいいが、トールは何をどうすればいいのかわからなかった。そもそも、地図に現在位置を示す魔法の呪文を知らなかった。
とりあえず杖を取り出し、トールは地図に魔力を送ってみた。
バチッという音がして、杖の先で光が爆ぜた。
「わ!」
「!」
思わず声をあげるトール。
アーサーも驚いて軽く肩を震わせた。
「トール、今のは?」
アーサーがおそるおそる尋ねる。
「…たぶん、俺の魔力が、マルツァー様の魔力に弾かれました。呪文がわかれば話は違うのかもしれないですけど、俺じゃ、この地図にかけられた魔法を扱えないです…」
トールはうなだれながら答える。わかってはいたことだが、現実を突きつけられると、やはりがっかりしてしまうものだった。
そんなトールの背中を、アーサーはぽんぽんとなでた。
「いいんだよ。試してみてくれて、ありがとう」
「アーサーさん…」
アーサーはトールにほほえんだ。
「さてさて、トール。お腹すかない?」
アーサーが尋ねる。
言われると、先刻までは大したことなかった空腹感が存在感を増してきた。
「すきました」
トールは腹をさすりながら答える。日の暮れ方からして、もう夕飯にしても良い時間だった。
「とりあえず、何か食糧を狩りに行こうか」
「そうしましょう」
そう言って立ち上がった時だった。
「きゃあああああああああ!!」
女性のものとおぼしき悲鳴が響いた。
「!?」
そう遠くない所からだった。
アーサーとトールは、声の方向へばっと振り向く。悲鳴は、二人が落ちてきた崖とは反対側から聞こえてきた。
トールの表情が引き締まる。
「アーサーさん、行きましょう」
トールは剣を手に取り、鞄をつかむと、鞄をしょいながら悲鳴のした方向へと走り出した。
「…さすがだね、トールは」
アーサーはそう呟くと、自分の荷物を取ってトールの後を追った。
悲鳴は二人から近いところで上がっていたようだった。
木々の間を抜けて進むと、トールは女性が地面にへたり込んでいるのを見つけた。
「大丈夫ですか!」
トールはガタガタと震えている女性に尋ねる。
「トール!前!」
アーサーの鋭い声がトールの耳を刺した。
反射的に、トールは前を見た。
そこには、牙をむき出しにした大トカゲがいた。
「!」
トールは目を見開く。
液体の跳ねる音がした。
地面に、赤い液体が飛んだ。
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