表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/106

27. 凱旋式

アーサーとトールが出会う、約一年前のこと。


王都は、魔王討伐パーティーの成功と彼らの凱旋(がいせん)に、沸き立っていた。


賑やかで嬉しそうな雰囲気の王都の様子を窓から感じつつ、魔王討伐パーティーの一行は王宮の一角の部屋にいた。


「いやあ、無事終わったな」


ウィルバウナー公爵家次男であり剣豪のレオナルド・セルジュ・ウィルバウナーが、満足げに口にした。


「はい。初めはどうなることかと思いましたが…。魔王も倒せて、無事に戻ってこれて何よりです」


神官エステル・カルマンがほっと息をつく。


「本当にな。子ども四人で魔王討伐だなんて、王家はどうかしたのかと思ったものだ」


史上最年少で宮廷魔法使いとなった天才、マルツァー・ファルダが嘲笑的に言った。レオナルドが笑い声を上げる。


「マルツァー、それを言うのは…」


不敬罪ともとられうるマルツァーの言葉に、エステルが焦る。


「僕が何もせずにこんなこと言うと思うか?ちゃんと防音魔法も張ってある」


マルツァーがふっと笑う。


「なら、よかったです」


エステルは胸をなで下ろした。


「俺とマルツァーは厄介払い。アーサーとエステルはそのとばっちり。散々な始まり方だったな」


レオナルドが楽しそうに言う。


「死んでくれと言わんばかりに追いやった奴らが、まさか魔王討伐までして帰って来るなんて、最高の終わり方だね。王家の顔を見るのが楽しみだよ」


マルツァーが続ける。


レオナルドがあっはっはと笑った。


「でも、お二人の立場は良くなるんじゃないですか?」


エステルが尋ねる。


「どうだかな。どうせ、難癖つけてどっかに飛ばす気だろう」


マルツァーが不機嫌そうに言う。


「あなたはそうなることを望んでいるんでしょう?」


「ばれたか」


エステルの指摘に、マルツァーはにやっと笑う。


「俺はどうなるかなあ。騎士団に戻されるのかな」


レオナルドが独り言のように言う。


「君は、どこに行っても好き勝手やって王家を困らせるんだろ」


「絶対そうですよ」


マルツァーの意見に、エステルが同意する。


「俺、なんだと思われてるんだ?」


レオナルドが不満げに言う。


「聞きたいか?」


「聞きたいですか?」


マルツァーとエステルが同時に尋ねる。


「いや、やめておこう」


形勢が不利だと察したレオナルドは降参する。


レオナルドは、先程からどこか上の空な、魔王を倒した張本人、アーサー・ラングレットの方を見た。


「なあ、アーサー。嬉しそうだな」


「え?」


レオナルドの問いに、アーサーはきょとんとする。


レオナルドは嬉しそうな顔をしながら、アーサーに言った。


「三年も一緒にいたんだぞ?お前のことは見ればわかるさ。やっと、お前の望みが叶うんだ。嬉しくて仕方ないんだろ」


にかっと笑うレオナルド。レオナルドの言葉に、マルツァーとエステルもほほえみ、うなずいた。


「あはは、ばれちゃうかあ」


アーサーは照れくさそうに頬をかく。


「うん。俺、今、嬉しくて仕方ない。だって、やっと、会えるんだ」


アーサーのほほえみは、とても柔らかかった。


「お前、そのために頑張ってきたもんな」


レオナルドは隣に座るアーサーの背中を、ばしっと叩く。


「あとは、凱旋(がいせん)式を乗り切るだけだ。もう少しの辛抱だ」


「うん」


レオナルドの励ましに、アーサーはほほえんだ。






数刻後。


王宮の謁見の間は、多くの貴族と騎士で埋め尽くされていた。ちらほらと教会の者もいた。荘厳な雰囲気の謁見の間も、今日ばかりは魔王討伐の成功への喜びで満ちていた。一方で、王宮らしく、それ以外の様々な思惑も渦巻いているのがしかと感じられた。


「いよいよだな」


「ああ」


「はい」


「うん」


レオナルドの呟きに、三人が答える。


凱旋(がいせん)式の開始の音楽の音とともに、四人は正面扉から謁見(えっけん)の間へと足を踏み入れる。


凱旋(がいせん)式のために着飾った四人は輝きをまとっていて、まさに王国を救った英雄そのものだった。四人の胸につけられた勲章が、彼らこそが王国を、世界を救った英雄なのだと言わんばかりに輝いていた。


王座へと続く絨毯(じゅうたん)の上を歩く四人を、両脇に控える貴族や騎士らが、拍手で迎える。


王座の前に着くと、四人は(ひざまず)き、頭を下げた。


「よい、直れ」


数段高いところに設置された王座から、声が降ってくる。


「はっ」


四人はその場に直った。


王座には、ウィシュタル王国国王が座っていた。その横には王妃が座り、二人の少し後ろに王太子と王女が控えていた。


「此度は、我が王国を脅かす魔王の討伐を成功させたこと、誠に大義であった。誉めて遣わす」


「ありがたき幸せに存じます」


国王の言葉に、四人は頭を下げる。国王がその表情に苦々しさをにじませていたことを、四人はしっかりと気づいていた。


「魔王を倒したことにより我が王国に与えた影響は、計り知れない。よって、魔王討伐パーティーの各人に褒美を与える」


謁見(えっけん)の間が沸き立つ。


「レオナルド・セルジュ・ウィルバウナー公爵子息」


「はっ」


国王の呼名に、レオナルドは前に進み出る。


正式な場でのレオナルドは、貴族を体現したかのような高貴さだった。


「そなたは、此度の討伐でその剣の腕を存分に奮った。よって、王国騎士団副団長に任命する」


「…拝命致しました。我が剣、王国のために存分に奮わせていただきます」


レオナルドは(ひざまず)いて感謝の言葉を述べる。一礼すると、レオナルドはもといた位置に戻った。


「次、マルツァー・ファルダ伯爵子息」


「はっ」


マルツァーが進み出る。マルツァーは外向きの笑みを顔に張り付けていた。


「そなたはその魔法の才で魔王討伐に貢献した。よって、上級王宮魔法使いへと任命する」


「拝命致しました。…王国に貢献できるよう、精進して参ります」


マルツァーも(ひざまず)いて礼を述べると、一礼してもといた位置に戻る。


「次、神官エステル・カルマン」


「はい」


エステルが前に進み出る。


「そなたはその光魔法で多くの者を救った。よって、そなたの功績を代表して、教会に金貨三千枚を進呈する」


エステルはふわりとほほえむと、両手を胸の前で握り、言った。


「我らが母なる女神様のしもべたる教会にお気持ちをくださりましたこと、感謝申し上げます」


エステルは一礼し、もとの位置に戻る。


「最後に、アーサー・ラングレット」


「はい」


アーサーは自分の名を呼ばれ、前に進み出る。

アーサーの胸は高鳴っていた。ついに、三年越しの願いが叶うのだと。あの日の約束が、果たされるのだと。


「そなたは、その手で見事魔王を討ち取った。よって、その功績を称えて、名誉騎士に任ぜよう」


「…」


「今後も、王国のために魔物を倒してくれたまえ」


国王が口角を上げる。嫌な笑みだった。


アーサーは頭を下げる。


「…承知いたしました。我が身に余る名誉、光栄に思います。ところで」


アーサーはすっと顔を上げる。


レオナルドとマルツァーが、アーサーが言おうとしていることを察し、まずいという表情を浮かべる。しかし、彼らに背を向けているアーサーがそれに気付くことはなく、アーサーはそのまま言葉を続けた。


「国王様。約束の方は」


「約束…?」


国王が怪訝(けげん)な顔をする。謁見(えっけん)の間にいる人々も、なんのことだとざわめきだした。


「三年前の、約束です。俺が魔王を倒せば、彼女を、ジリアンを返してくださると…」


アーサーは必死に訴えた。その顔には焦りが浮かんでいた。


ああ、とつまらなそうに言った国王は、面倒そうにアーサーに言い放った。


「あんなもの、本気で信じたのか?そもそも、あの娘は我が王国に莫大な利益を与えるのだ。そんな娘を、お前みたいな平民ごときに返すわけがなかろう。これだから、平民は愚かで嫌なのだ」


アーサーの顔から、表情が抜け落ちた。


アーサーは、心の中に、何か熱いものがふつふつとわいてくるような気がした。一方で、すっと心が凍りついたようでもあった。


アーサーの息が荒くなる。


「…っ、恐れながら申し上げます、陛下」


レオナルドが焦りをにじませて奏上する。


「控えろ、ウィルバウナー」


「私は三年前、約束が成された場におりました。たしかに、彼女は王国にとって重要な人物でしょう。しかし、陛下が約束を成されたこと、しかとこの耳で聞いております。陛下といえど、約束を反故にするのはいかがなものかと。せめて、会わせてやるだけでも…」


「黙れと言っている、ウィルバウナー!」


「陛下!」


制止も聞かずに話し続けるレオナルドに、国王が怒りをあらわにする。しかし、レオナルドはひるまなかった。


謁見(えっけん)の間に不穏(ふおん)な空気が漂う。


そんなレオナルドと国王の応酬(おうしゅう)も、その場に固まったアーサーの耳には入っていないようだった。


「国王である私が、平民ごときと約束などするわけがなかろう。あの娘をそいつに返すことなど、断じてない」


国王の言葉に、アーサーの中で何かが切れる音がした。


アーサーは反射的に、王座へと飛び出していた。


そして、アーサーは国王の顔面を、力一杯殴り飛ばした。


一瞬のことだった。


殴り飛ばされ王座から転げ落ちた国王と、それを冷たい目で見つめるアーサーの姿があった。アーサーの右手の拳からは、血が滴り落ちていた。


王妃の甲高い悲鳴が、謁見(えっけん)の間に響いた。謁見(えっけん)の間がどよめく。


「…アーサー」


レオナルドらは、衝撃と絶望に目を見開いてその光景を見つめた。


アーサーは国王の胸ぐらをつかんだ。


左頬が腫れ上がった国王は、ヒッと悲鳴を上げる。


「ジリアンを返すことはないって?…ふざけんなよ。じゃあ、俺はなんのために三年も戦ったんだよ」


アーサーは怒りのこもった冷たい声で言い放つ。その瞳は、刺すような冷たさで見るものをぞっとさせた。


「…信じたお前が、悪いのだ」


「は?」


アーサーは国王の腹を蹴り飛ばした。


うめき声とともに、国王は後ろに控えていた王太子の足元まで吹っ飛ぶ。


「父上、大丈夫ですか」


王太子は国王を受け止めると、きっとアーサーをにらむ。


「騎士団!何をしている!早くこの反逆者を捕らえよ!」


王太子が命令を放つとともに、騎士がはっとしたように一斉にアーサーへと向かってくる。


アーサーは王太子をにらむ。鋭い視線を向けられた王太子は、ビクッと震えた。


アーサーはすっと視線を騎士団の方に向ける。アーサーの口角が上がった。


その後は、凄まじい戦闘だった。


一対大多数、しかも相手は王国屈指の実力を持つ集団である王国騎士団。そんな圧倒的不利な状況を、アーサーは見事に(くつがえ)した。


次から次へと向かってくる騎士らを、アーサーはなぎ倒していく。


しかもアーサーは、鞘にしまったままの剣で戦っていた。


これが最恐の魔王を討ち取った英雄、アーサー・ラングレットなのだと、その場の全員が畏怖し、その強さに震える。


狂気に満ちた笑顔を携え、狂ったように騎士を倒していくアーサーの姿は、見る者に恐怖を与えた。


「…アーサー」


謁見の間で戦うアーサーを、レオナルドら三人はただ呆然と眺めることしかできなかった。三人には、アーサーの顔が悲痛に歪んでいるように見えた。


あらかた騎士を倒し終わると、アーサーは謁見(えっけん)の間に広がる光景を見渡した。


謁見(えっけん)の間は、散々たる状態になっていた。

アーサーに倒された騎士らが床に転がっていた。倒されていない騎士も、震え上がってもはや戦えそうにはなかった。王座の方では、国王らが思ってもいなかった惨状にわなわなと震えていた。


血まみれになったアーサーの目に、レオナルドとマルツァー、エステルの姿が映った。


アーサーの目が見開かれる。


剣を持つ手がだらんと落とされた。


「あ…、俺…」


アーサーの瞳が揺れる。しかし、唐突に何かに気付いたように、アーサーはふっと笑った。


アーサーは視線を下に向ける。


「これは、いらないや」


アーサーは胸に付けられた勲章を引きちぎると、床に落とした。カラン、と乾いた音が響く。


アーサーは、レオナルドらの方を見る。


レオナルド、マルツァー、エステルは心配そうな顔でアーサーを見ていた。


「ごめんね、みんなにとって大事な場を、めちゃくちゃにしちゃって」


アーサーはにこっと笑う。悲しい笑みだった。


「今まで、ありがとう」


「アーサー!」


呼び止めた声にも気を留めず、アーサーは(きびす)を返すと、謁見(えっけん)の間から出ていった。


そして、アーサー・ラングレットは姿を消した。


その後、アーサー・ラングレットは反逆者として王国のお尋ね者となり、平和になった王国で騎士団に捕まることなく、一年が過ぎ去ったのだった。


ご愛読いただきありがとうございます。


1章はこれで終わりになります。次回から2章になります。


面白かったら評価、ブックマークいただけると励みになります。


また読んでいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ