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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
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17. 匿名の告発

「あ、やっと来た」


部屋にやってきたのは、ロベルトだった。


吹っ飛ばされたドアに呆然としつつ、焦りをあらわにしたロベルトが入ってきたのを見て、アーサーが楽しそうに言った。


走って来たのか、ロベルトは汗だくで息が上がっていた。トールが最後に見た時にはぴっちりと整えられていた髪が、あちこちに飛びはねていた。


「お前…!何をしている…っ」


ぜーぜーと息をしながら、ロベルトはすごい形相で尋ねる。


「んー、探し物かな」


アーサーは机に腰かけたまま、机の引き出しの中身をがさごそと探った。引き出しから分厚い封筒を取り出した。


「これ、なーんだ?」


アーサーは封筒をロベルトに向かって見せ、にこっと笑った。


ロベルトの顔からみるみるうちに血の気が引いていった。と思うと、今度は沸騰しているかのように顔が赤くなる。


「それを返せ!」


ロベルトがアーサーの持つ封筒めがけて飛びかかってくる。


アーサーはそれをひょいとよけ、机から降りた。ロベルトは机に突っ込む。机の上のものがガシャン、と音を立てて転がった。どこか打ったのか、ロベルトはうめき声を上げた。


「これ、大事なの?」


アーサーが煽るように尋ねる。


「ああ、大事だ!お前らのような平民が持つ権利なんてないのだよ。だから、早く返すんだ」


ロベルトは机から起き上がりながら、半ばやけくそに口走った。


「へえ、そっか、大事なんだ」


アーサーの目がすっと細くなる。


アーサーは唐突にトールの方を向いた。


「さて、トール君。この国の騎士団は、ちゃんと仕事するかい?」


騎士団という言葉に、ロベルトがビクッと反応する。


「騎士団ですか?すると思いますけど…」


突然の質問にトールは困惑しながら答えた。


アーサーはそれを聞いて満足そうにほほえむ。


「それは良かった。ところで、これ、いい矢だね」


アーサーは、壁にかかっている飾り矢に目をやった。


話があっちこっちに行くアーサー。


トールもロベルトも、アーサーが何を言いたいのかわからなかった。


「ちょっと使うね」


アーサーは壁から飾り矢を取り外す。


「おい、触るんじゃない!」


ロベルトが駆け出そうとする。近くに立っていたトールは、しれっと足を出してみた。ロベルトは見事にトールの足に引っ掛かり、顔面から転んだ。バタン、と痛そうな音がした。


「トール君、よくやった」


嬉しそうにアーサーが言う。


「そうですかね」


トールは少し恥ずかしくなって、そっけない答えになってしまった。


アーサーは特に気にする様子もなく、飾り矢に封筒をくくりつけていた。


何するんだろう、とトールは不思議そうな顔をしてそれを眺めていた。


怒りで震えながら、ロベルトが起き上がっていた。ロベルトはアーサーが封筒を飾り矢にくくりつけ、壁に飾ってあった弓を取るのを見て、サッと顔が青白くなる。


「お前…まさか…」


わなわなと震えるロベルト。


「ここ、景色いいね。町の様子がよく見えるよ」


片手に弓矢を持ちつつ、ガタン、と窓を開けるアーサー。風が入ってきて、カーテンが揺れた。


アーサーは封筒をくくりつけた飾り矢を弓の弦に引っかける。


「…やめろ」


アーサーのしようとしていることに気づいたロベルトが、震える声で言った。


アーサーは弓を引き絞った。


「さあ、騎士団に一働きしてもらおうか」


「やめろーー!」


アーサーが言うと同時に、ロベルトの絶叫とともに矢が勢いよく窓から放たれた。


飛んで行った飾り矢は、商会の向かいの奥の方にある建物にまっすぐと向かっていく。パリン、という音とともに、ガラス窓を突き破って飾り矢は建物の中に飛び込んで行った。


トールはぽかんとしていた。


--なんで、飾り矢であんなに飛ばせるの?


ただただ衝撃的だった。


トールはちらりとロベルトを見る。


ロベルトは呆然としていた。見開かれた目が、細かく震えていた。


「あ、あ…」


うわ言を発しながら、ロベルトがへなへなとへたり込む。


「お前…っ、何してくれてるんだ…!」


ロベルトが怒りのこもった声でアーサーに怒鳴り付ける。


「あそこがどこかわかっているのか!」


アーサーはロベルトの方を向くと、言った。


「もちろん。騎士団でしょ?」


にこっと笑うアーサー。


ロベルトは怒りで言葉が続かず、口をパクパクさせていた。


アーサーが飾り矢を飛ばした建物には、剣の紋章がついていた。これは王国騎士団の紋章だ。


トールはアーサーのしたことを理解した。あの封筒には、ロベルトによる魔法薬の闇取引の証拠書類が入っていた。それを匿名で騎士団に放り込むことで、自分たちの正体を明かさず合法的にロベルトを失脚に追い込もうとしたのだ。


トールはアーサーの頭の切れとその実行力に舌を巻いた。


アーサーはつかつかとロベルトの方へ歩み寄ると、おもむろにロベルトの髪をガッとつかみ、自分の顔に近づけた。


アーサーは笑顔だったが、目が笑ってなかった。その瞳の冷たさに、ロベルトの背筋が凍る。


「お前こそ、自分が何したかわかってる?」


ロベルトがヒッと悲鳴を上げる。


「別にさ、俺は魔王の痕跡を利用しようとするやつがいても、かまわないんだよね」


「なら、なんで…」


ロベルトの問いに、アーサーはにこっと笑う。


「使い方がよくないんだよなあ。こういうのって、被害を受けるのはいい人たちなんだよね。それは、だめでしょ」


アーサーの脳裏に、赤髪の青年が映る。彼の言葉を、アーサーは思い出していた。


「…」


トールは、アーサーを見つめていた。


--やっぱりアーサーさんって、優しい人だ。


なんとも言えぬ感情が、トールの中にわき上がってくる。


「ねえ、トール君。ロープとか持ってない?」


アーサーはトールの方にくるりと顔を向けると、言った。


「さすがに、持ってないです」


「うーん、そっか。じゃあ、いらない布とかある?」


「これでよければ…」


トールは鞄の中をがさごそと探り、なくなってもかまわないハンカチを取り出した。


「ありがとう。もらうね」


アーサーはにこっと笑うと、トールからハンカチを受け取り、それで器用にロベルトの手足を一つに縛った。


「さあ、トール君。じきに騎士団が来るだろうから、とっととおさらばしようか」


アーサーはトールに言う。


「お前ら、覚えてろよ…!」


縛られて床をのたうち回るロベルトが、恨みがましく吐き捨てた。


「うーん、お前みたいなのを覚えておくのは、ちょっとな…」


アーサーが気乗りしなそうに言う。


ロベルトの額の血管が浮き上がる。


その時、廊下からバタバタと足音が近づくのが聞こえてきた。


「え、これ、まずいんじゃ…」


トールは廊下の方を見て、不安げな顔をした。


「うん、まずいね。ゆっくりしすぎちゃった」


アーサーがトールの隣に立つ。


「トール君、こっち」


「?」


アーサーは手を引っ張って、トールを窓際に連れてきた。


「なんか、多そうだからね。全部相手してたら面倒くさいし、騎士団が来ちゃいそうだから」


アーサーが言う。


「支店長!ご無事ですか!」


警備と思われる人々が、部屋の入り口にやって来た。アーサーの言った通り、大勢いた。警備の人々は吹っ飛ばされたドアと縛られて床に転がされているロベルトを見ると、怒りで顔が赤くなる。


「遅いぞ!早く捕まえろ!」


ロベルトが怒鳴る。


「はっ」


警備がアーサーとトールに向かってくる。


トールはビクッと震える。


「え、これ、どうするんですか」


「ちょっとごめんね」


「!?」


アーサーはおもむろに、トールを肩に担ぎ上げた。驚くトール。


アーサーは窓枠に飛び乗った。


「バイバイ、騎士団の相手はよろしくね」


アーサーはにこっと笑う。


「あっ、おい、待-」


アーサーはトールを担いだまま、軽やかに窓から外へと飛び下りた。


「えっ…うわあああああ!」


トールはあまりの高さから飛び下りられ、悲鳴をあげる。涙が出そうだった。


アーサーは隣の低い建物の屋根に着地すると、屋根づたいに駆け去っていく。


あっという間にアーサーとトールは商会の建物から見えなくなった。


ロベルトの部屋に残された警備たちは、それを呆然と見送るしかなかった。


読んでいただきありがとうございます。

次回更新は10/26です。

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