16. 証拠
アーサーとトールは、ロベルトの部屋で無事、ロベルト失脚のための証拠を手に入れた。
「うわあ、すごいですね、これ。すごく詳細に書いてあります」
トールがロベルトと円卓の取引の契約書をながめて、感心する。
封筒に入っていた書類は、契約書だけでなく、魔法薬の提供量や日時、使用状況や円卓に引き渡した後の村の開発計画などが、事細かに記してあった。
「ほんとだ。しかも、円卓、すごいこと考えてるんだね」
アーサーはトールの後ろから書類をのぞきこむと、書類のある一か所を指差した。
そこには、魔王の痕跡から作る魔法薬の複製の研究をする旨が書かれていた。
トールから表情が消える。
「…これは、やっちゃいけないです」
トールの声が怒りで震えた。
そんなトールの頭に、アーサーがぽん、と手をのせる。
「大丈夫。ロベルトを失脚させれば、この計画は頓挫する」
アーサーはにこっと笑った。それを見て、トールも笑う。
「そうですね」
--焦っちゃいけない。
トールはふう、と息をつき、反省する。
トールは、あることに気付いた。
「アーサーさん、そういえば、この証拠はどうやって騎士団に持っていくんですか?」
アーサーは一応指名手配の身であるため、騎士団に近づくことすらできない。トールが持って行くにも、アーサーの存在がばれるため無理だ。その辺の人に頼むのも危ない気がする。トールは手詰まりな気がした。
「うーん、どうしよっか?」
アーサーが笑顔で答える。
「!?」
トールはアーサーが何も考えていなかったことに対する衝撃で固まった。
--…詰んだ?
せっかく証拠を押さえたのに、ここまでだなんて、とトールはショックを受ける。
そんなトールに構わず、アーサーは尋ねた。
「ところで、トール君。君の消音魔法?てどれくらいの強度なの?」
アーサーは書類をまとめ、封筒に入れていた。
「そんなに強度ないですよ。民間魔法なので」
唐突な質問に戸惑いながら、トールは答えた。
「民間魔法?」
「?はい。いわゆる魔法使いが使うような体系だったやつじゃなくて、日常生活で使うようなやつです。消音魔法は、外が騒がしい時に赤ちゃんが起きないように使うような、そんな程度の民間魔法です」
「へえ」
トールの答えに、興味深そうにするアーサー。
トールは不思議だった。
--アーサーさんって、なんか世間はずれしてるよな…。
民間魔法の存在やその強度は、ウィシュタル王国に住む者なら誰でも知っている、常識のようなものだった。それをアーサーが聞いてきたことが、トールは不思議でならなかった。
史上最年少で宮廷魔法使いとなった天才、マルツァー・ファルダと三年もともに旅をすれば、感覚がずれるのかもしれない。もしくは、アーサーの周りには魔法を使える人がいなかったのかも、とトールは思った。
「じゃあ、さっきのドアを蹴破った音、聞こえちゃってるかな」
「たぶん、聞こえちゃってますね…」
トールは目を泳がせる。
アーサーは、窓の外をながめていた。
「そっか。そしたら、もうすぐ誰かやって来るかな」
アーサーは楽しそうに言う。
「もう、逃げても鉢合わせしそうだしね。これは、誰か来てからどうするか考えてようか」
アーサーは封筒を机の引き出しに放り込むと、机に腰かけた。
「…そうですね」
他に何も考えつかないトールは、明らかに危険そうな策に同意するしかなかった。
読んでいただきありがとうございます。
次回更新は10/25です。




