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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
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13. 白髪の魔法使い

驚くアーサーと嬉しそうな顔をするトールを見て、嫌そうな顔をするユベル。


ユベルはアーサーの足元にディオンの剣が落ちているのを見つけた。ホールの天井を見る。


「うわ、まじ」


ユベルはディオンが天井にめり込んで気絶しているのを見て、目を丸くする。


ユベルはアーサーから向けられる視線に気づいた。その鋭さに、ぞくっと震える。


アーサーはユベルに向けて剣を構えていた。


ユベルは面倒そうに頭をかいた。大きなため息をつく。


「ええ…、これ、絶対俺怒られるじゃん…」


なんで暴れまわってる奴と話聞いちゃった奴が仲間なんだよ、とユベルは愚痴をこぼす。


「なあ、お前、こいつ見張っといて」


ユベルは近くにいた男にトールを渡す。


近くにいた男はうなずくと、トールの肩を押さえ、後ろ側からトールの首筋にナイフを当てた。


「…っ」


首筋に当たるひんやりとした感触に、トールの背筋が凍る。


--しまった。


「…彼を離せ」


アーサーが言い放った。その顔には、心なしか焦りがにじんでいた。


「離させないよ。彼は聞いちゃいけないことを聞いたからね。ちゃんと責任取ってもらわなきゃ」


ユベルがにこっと笑って言う。


アーサーの表情が歪んだ。


トールに動揺と後悔が襲う。


--俺が、もっと注意していれば…。


トールは、アーサーの足を引っ張ることとなってしまったことを、とても後悔した。トールが捕まっていなければ、アーサーはあと少しで相手を倒し切れただろう。迷惑をかけてしまったことが悔しかった。


トールは悔しさで泣きそうになる。


アーサーは構えたままだった、左手に持つ剣を下ろした。


「…っ、俺は、大丈夫です!気にしないで下さい」


トールはとっさにそう言った。精一杯の笑顔を作って見せた。怖かったが、それ以上にアーサーの足を引っ張るのが嫌だった。


トールにナイフを突きつけた男がチッと舌打ちをした。


「…トール君」


そう呟いたアーサーは、突然後ろから斬りかかられた。


アーサーはすんでのところでしゃがみ、よけた。よろけて床に右手をつく。


間髪入れず、再びアーサーの頭上に剣が振ってくる。


アーサーは左腕を振り上げ、振り下ろされた剣をはねとばした。遠くの方で、剣が落ちる音がした。


アーサーに斬りかかった人物は、手から剣が消え、唖然としていた。その隙に、アーサーは両手を床につけ、足を振り上げその人物を蹴り飛ばした。


「わお」


ユベルはそれを面白そうに見ていた。


アーサーはゆらりと立ち上がると、トールらの方を見た。


「トール君、よけてね」


「え?」


アーサーが言うと同時に、何か鋭いものが、ものすごい速さでトールの顔の方へ飛んできた。トールは反射的に顔を動かした。頬のそばを、何か硬く冷たいものが通った感覚がした。


ドスッ、という音がした。


トールの肩を押さえた手が外れる。


何か得体の知れないものがものすごい速さで飛んできた恐怖もさめぬまま、トールは音のした方を見る。


「!?」


トールを押さえていた男の額に、見事に短剣が突き刺さっていた。男はふらふらと後ずさると、壁にぶつかり、そのままずるずると床にへたりこんだ。


トールは反対側を見ると、短剣を投げた姿勢のままのアーサーと、呆気にとられた相手達がいた。


アーサーはよろけて床に手をついた時、近くに落ちていた短剣を拾ったのだった。そして、短剣を握っている手が男の方から見て死角になるように立ち、男の額めがけて投げつけたのだった。


瞬殺だった。


--これ、よけれてなかったら俺もやばかったな…。


今さらながらぞっとするトール。


「ごめんね、トール君」


アーサーが申し訳なさそうに笑う。


「いえ、そんな…!むしろ、俺こそごめんなさい…」


トールは、言わなければいけないことがあるのに気づいた。


「ありがとうございます!」


大きな声が出た。


アーサーはふっと笑った。


「どういたしまして」


「何やってくれてんだよ、まったく」


ユベルが心底嫌そうに言った。


「面倒くさいなあ。もう、まとめてやっちゃっていい?」


ユベルの言葉に、アーサーとトール以外のその場にいた全員の顔面が蒼白する。


「"グレイシア"」


ユベルは杖を取り出すと、唱えた。


すると、ユベルの杖から尖った氷のようなものが放たれた。


その瞬間、アーサーはトールのもとに駆け寄った。


アーサーがトールの前にたどり着き、剣を構えたその時、ユベルの放った無数の氷がトールとアーサーの目の前に迫っていた。アーサーが左手を動かす。


「…!」


一瞬の出来事だった。


アーサーは、すべての氷を砕いていた。


破片となった氷が、パラパラと床に落ちる。


トールらの方へ来なかった氷は、ホールの至るところに突き刺さっていた。それを見て、トールは背筋が凍った。


「うわ、まじか」


ユベルはそう言うと、アーサーの方に向かって行った。


アーサーはトールから離れると、ユベルに向かって剣を構えた。


ユベルはアーサーの前に立つと、そんなアーサーに、にこっと笑って尋ねた。


「なあ、お前、何者?」


アーサーはにこりと笑った。


「お前、全然本気出してないだろ」


ユベルが言う。


アーサーは笑顔のままだった。


「俺の魔法をよけれる奴なんて、そうそういない。ましてや砕ききる奴なんてな。お前、ここにいる奴ら、その気になれば一瞬で全滅させれただろ?」


アーサーは表情を崩さなかった。心なしか、笑顔が鋭くなったような気がした。


「さあね。…答えてほしいなら、まずそっちが名乗ったら?」


アーサの返しに、ユベルは声を上げて笑う。


ユベルはすっと笑い声を止めると、言った。


「円卓の騎士、て言って通じる?」


アーサーの眉がぴくりと動いた。


--嘘だろ。円卓の騎士って…。


トールの顔から血の気が引いた。


円卓の騎士とは、知る人ぞ知る集団だった。


裏社会を牛耳る組織、それが円卓の騎士だった。昔からある組織だが、魔王存命時に急速に力を拡大したと言われている。闇取引や犯罪を扱っているのは確実だが、巧妙に隠れていて実態は謎のままだ。


トールは騎士団にいた頃に、円卓について聞いたことがあった。


アーサーが眉を動かしたのを見て、ユベルはにやりと口角を上げた。


「知ってるみたいだな。俺は、円卓の騎士のユベル・スノーだ」


ユベルは、アーサーに向かって言う。


「なあ、お前、円卓に来ないか?」


「…?」


「!」


アーサーは少し眉をひそめた。


ユベルの言葉を聞いて、トールに衝撃が走る。


「お前、もう円卓が魔王の痕跡を利用してるの、知ってんだろ。どうだ、いっそのことのらないか?」


「…どういうこと?」


アーサーが尋ねる。


「もったいないと思わないか?魔王の力は、絶大だ。利用できるなら利用した方がいいだろ」


ユベルは嫌な笑みを浮かべた。


「力は、重要だ。武力って意味でも、権力って意味でもね。円卓は、裏の世界で最も力を持っている。表の世界にも無関係じゃない。王家にだって勝るとも劣らない力だ。魅力的だろ?」


ユベルの言葉に、アーサーの瞳が揺れたようにトールには見えた。なんだか不安だった。アーサーが、円卓に堕ちてしまうようで。漠然とした不安だった。


「まあ、知ったからには、死か円卓に下るかの二択だ」


ユベルがアーサーに近寄る。


「円卓に下れば、お前は望みを叶えられる。どうだ?良いだろ?」


「良くない!」


トールは叫んだ。反射的にだった。


「魔王の力を利用しようだなんて、やっちゃいけないことだ。行っちゃだめです」


トールは切実な目で、アーサーに訴えかけた。アーサーがトールの方を見る。


「…トール君」


アーサーの表情を見て、トールは驚いた。アーサーは、どこか痛そうな表情をしていた。思ってもいなかった表情からは、トールはアーサーの感情を読み取れなかった。


「お前、黙っててくれない?自分の立場、わかってる?」


ユベルがトールを睨み付ける。トールはそれに震えた。


「お前さ、なんか俺をいらつかせるんだよね。楽には死なせてやらないから」


ユベルの言葉に、トールは真っ青になる。


アーサーの眉がぴくりと動いた。


「あはは、こんなにむかつくとは思わなかった」


アーサーがぼそっと呟いた。


ユベルとトールはアーサーの方を向く。その時だった。


アーサーはユベルの胸ぐらをつかむと、ものすごい勢いでユベルを床に叩きつけた。


「!?」


突然の出来事に、ユベルもトールも驚く。


ガンッ、とユベルが床に叩きつけられる音が響いた。


ユベルは驚きで目を見開いていた。


アーサーは左手に持った剣を握り直すと、力一杯にユベルの顔に向かって突き刺した。


パリン、と軽い音がした。


「!」


その音とともに、トールを拘束していた魔法の縄が消える。トールの腕が自由になった。


アーサーがユベルの顔の横に突き立てた剣が、ユベルの耳飾りを割っていた。


「…」


冷や汗が流れるユベル。思わずトールにかけた魔法を解いてしまっていた。


アーサーは左足をユベルの胸の上にガッと置く。体重をかけられ、ユベルの肋骨がみしみしと音を立てる。


ユベルの表情が歪んだ。


「死か円卓に下るかの二択だって言ったっけ」


アーサーが言う。


「残念。お前を倒すっていう選択肢、忘れてるよ」


アーサーは口角を上げた。


その不気味さに、ユベルの背筋にゾッと悪寒が走る。


「…選択肢を、あげようか」


アーサーはにこっと笑う。


「死か円卓について吐くか、どっちがいい?」


「…はは」


ユベルは乾いた笑い声をあげた。


「ああ、なるほど、そういうことね。やっぱいいな、お前。どこかで見たことあるとは思ってたが-」


アーサーは笑顔のまま、左足にさらに体重をかける。ユベルはうめき声をあげた。


「…っ、あーあ。今日はここまでか」


ユベルはぼそっと呟くと、アーサーに向かって笑いかけた。


「また会おう、トリックスター」


ユベルが何かを呟く。


アーサーははっとしてユベルの口をふさごうとする。


しかし、その努力もむなしく、ユベルはその場から消えた。


ダン、とアーサーの左足が床を叩く音がホールにむなしく響いた。


読んでいただきありがとうございます。

次回更新は10/22です。

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