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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
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104. エステルからの情報

エステルは頭を下げた。


それを見て、キャロルもあわてて頭を下げる。全身からアーサーに対する敵意があふれでていたが。


「…頭を上げてよ」


アーサーが口を開く。


エステルとキャロルが頭を上げる。エステルの表情からは、不安が読み取れた。


「そんなにへりくだらないでよ、エステル。俺を仲間だって言ってくれたのは、エステルでしょ?仲間の頼みを断ったりしないよ」


アーサーはほほえんだ。優しい微笑みだった。


「アーサー…」


「むしろ、迷惑をかけるのは俺の方だよ。俺が得る利益よりも、エステルが得る利益の方が少ないもん」


アーサーはトールを見た。


「ねえ、トール。俺、エステルの頼みを受けようと思うんだけど、いいかな?」


ちゃんと聞いてくれるのが、嬉しかった。


「はい。もちろんです」


トールは笑ってみせた。


アーサーのかつての仲間を助けるのを、断るはずがなかった。むしろ、協力したかった。


「ありがとう、トール」


アーサーは嬉しそうにほほえんだ。


「ということで。エステル、頼みを受けるよ」


「…っ、ありがとうございます…!」


エステルは泣きそうな顔で、笑顔を浮かべた。


「これからよろしくね」


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


天窓から星明かりが射す。


夜空に瞬く無数の星が、新たな冒険の幕開けを祝福しているみたいだった。


トールの顔も、自然とほころぶ。


「…さて、アーサーが味方になってくれたところで」


静かな声で切り出すエステル。


「情報共有を、しましょうか」


トールはエステルの表情を見て、ぞっとする。


エステルは、何を考えているのかわからない微笑みを浮かべていた。一見、優しそうな微笑みに見えるせいで、余計に怖かった。


「情報共有ね。なんの情報?」


いつも通りの飄々とした態度のまま、アーサーが尋ねる。


「アーサーにとって、有益な情報だと思いますよ。…良い情報かどうかはおいておいて」


「…」


含みを持たせたエステルの言葉に、アーサーの視線が少し、鋭くなる。


「キャロル、あれを持ってきてもらえますか?」


「…わかりました」


キャロルはちらりとアーサーを見ると、立ち上がって何かを取りに行く。


「…?」


――何を取りに行ったんだろう?


キャロルが取りに行ったものを考えてみるトール。気になるのもそうだが、何か考えていないとどことなく緊張したその場の空気に耐えられそうになかった。


すぐにキャロルは戻ってきた。


「エステル様、これで間違いないですか」


「はい、それです。ありがとうございます」


エステルはキャロルが持ってきたものを受け取る。


ワインレッドの細長い箱だった。縁にほどこされた鈍い金色の装飾が、高級感を漂わせていた。


エステルはその箱をアーサーの前に置いた。


カタン、と軽い音が響いた。


「エステル、これは?」


「私がアーサーに共有したい情報です」


「…」


アーサーはじっと箱を見つめる。


「…開けても、いい?」


「ええ、もちろん」


エステルはこくりとうなずく。


アーサーは箱にそっと手を伸ばすと、箱を持ち上げ、蓋に手をかけた。


ふう、と息をつくと、アーサーは蓋を開く。


そして、中のものを見て、アーサーは瞳がこぼれ落ちんばかりに目を見開いた。


「…っ」


ガタン、と激しい音がした。


アーサーが立ち上がったはずみに倒れた椅子が床を跳ねる。


アーサーはその場に仁王立ちになって、箱の中身を凝視していた。アーサーの瞳は揺れていた。


――え、何が入っていたんだ…?


アーサーのただならぬ様子を見て、戸惑うトール。


アーサーは信じられないものでも見たかのような顔をしていた。


「…任務で森を捜索しているときに、偶然見つけたものです。魔法陣の中心に、置かれていました」


アーサーの反応は予想済みだったのか、淡々とエステルが言った。しかし、その表情はどこかつらそうだった。


アーサーの顔が歪む。


「…エステル、今、どこに置いてあったって言った?」


アーサーの声は、怒気をはらんでいた。


「…魔法陣の中心です」


バキッ、と嫌な音がした。


アーサーの手のひらの中で、箱が歪んでいた。


それを見て、トールはぞわりと震える。視界の端で、アーサーに引いているキャロルが見えた。


――普段怒らないアーサーさんを、ここまでにするものって。


「…あの、アーサーさん、一体何が…」


おそるおそる声をかけるトール。


アーサーは無言で箱を机の上に置く。


割れた箱の中に入っていたのは、綺麗な一房の髪だった。


光沢のあるハシバミ色のその髪は、光の加減では翡翠色にも金色にもかかって見えた。今まで見たことのない、特徴的な色だった。


――こんなに綺麗な髪って、あるんだな…。


トールは思わず感心してしまう。


が、すぐにはっとする。


――いや、そうじゃなくて。これが、なんでエステルさんがアーサーさんに共有したい情報なんだ…?


「…アーサー。あなたはその髪の持ち主を、知っているで間違いないありませんね?」


「うん。…見間違うはずもない」


アーサーは机の上に置かれたハシバミ色の髪を見て、苦しそうに顔を歪めた。


「…これは、ジリアンの髪だ」


「え」


アーサーの言葉に、トールは目を見張った。


ジリアン。それは、アーサーが取り戻そうとしている、アーサーの大切な人の名。


物語の歯車が、動く音が聞こえた気がした。


読んでいただきありがとうございます!


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