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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
3

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102. 物騒な交渉

「え?」


トールは目を見張る。瞳が揺れた。


それを見て、エステルがアーサーに尋ねる。


「それはどういう意図ですか、アーサー?」


エステルの浮かべた笑みには圧があった。


「治療、時間かかるでしょ?トールの治療が終わるまで俺がここにいるのもよくない。トールの耐性が弱まった理由も気になるし、俺はそっちを探ってみることにするよ」


――アーサーさん、俺のために…。


トールは胸が詰まった。


エステルは険しい顔をして言った。


「こんなことは言いたくないですが…。アーサー、お尋ね者のあなたが、どうやって探るというのです?」


アーサーはにこっとほほえむ。


「あいにく、この国にはお尋ね者が歩き回れる場所が残ってる。どうせ、今回もあの組織が関わってるしね。エステルが教会は綺麗な組織ではないって言ったのも、そういうことでしょ?」


「何をする気ですか」


エステルがアーサーに向けた視線は鋭かった。


「探し物の延長だよ。…どうせそのうち、こうなる」


アーサーはふっとほほえんだ。


「アーサー、レオナルドに言われたことを忘れたわけではないですよね」


「忘れてないよ。忘れられるわけがない。…でも、守っていられる状況じゃなくなったんだ」


空気が張り詰め始めた。


「だめです。守ってください。レオナルドがああ言った理由をわかっているんでしょう?」


「…うん。それでも」


「だめですよ。どうしてもと言うなら、気は進みませんが、私も手荒な手段に出ますよ」


「…手荒な手段?」


アーサーが眉をひそめる。


「はい。トール君を人質に取ります」


「え?俺ですか?」


思いがけず自分の名が出てきて、すっとんきょうな声を上げるトール。


アーサーも目を見張っていた。


「トール君を治してあげません。なんなら悪化させます。これでどうです?」


エステルはにっこりとほほえんだ。


「…」


アーサーはすっと目を細めてエステルを見つめる。


「ただでさえ耐性が弱まってるんです。悪化させたらどうなるでしょうね?すぐ死んじゃうでしょうね。どのくらい保つでしょうね?」


――え、エステルさん、ひどい…。


トールの残りの寿命は、アーサーの返答次第らしい。そもそも何でアーサーとエステルが戦っているのかすらわかっていなかったが。


ものすごい剣幕で無言の戦いを繰り広げるアーサーとエステルに何か言うのを諦め、キャロルに助けを求めようとしてトールはキャロルの方を見た。


が、見るなりトールの希望は見事に打ち砕かれた。


キャロルは興味なさそうに、頬づえをつきながらカップの中身を回していた。


――まじか…。


だめもとで、トールはキャロルに助けを求める視線を送ってみる。


トールの視線に気付いたキャロルは、トールの方を見た。そして、どうしようもないとでも言うように肩をすくめてみせると、再び暇そうにし始めた。


――俺、味方いないじゃん…。


がっくりとうなだれるトール。


「…俺がエステルを力ずくで止めるって可能性は、考えないんだ」


アーサーはエステルににっこりとほほえむ。


「落ちこぼれが追い詰められたときは怖いですよ?あなたも知っているでしょう?」


エステルはふふ、と笑った。


「…」


――今も十分怖いって。


トールははらはらとしながら見守るしかなかった。


ふう、とアーサーが息をついた。


ぎくりとするトール。


――見捨てないでくれると、助かる…。


心の中でひたすら祈るトール。さすがにまだ死にたくはなかった。


「…わかったよ、エステル。トールを殺されちゃ困るもん。レオナルドの言ったことを守るよ」


「そう言ってくれてよかったです。ありがとうございます、アーサー」


あからさまにほっとした顔をして、エステルが言った。


「トール君もごめんなさい。人質にしてしまって」


「いえ…」


エステルは申し訳なさそうにしていた。本気ではなかったことを察し、トールもほっとする。


「ではアーサー、私はトール君を預かりません。アーサーも一緒にいてくださいね」


「わかったけど…。エステルたちは本当にそれでいいの?」


「…」


キャロルは不満げな顔をしていた。


――まあ、そうだよな…。


お尋ね者が一緒に行動することになるのだ。いい気はしないだろう。


「というか、俺をとどめようとするエステルの目的は何?」


アーサーの言葉に驚くトール。


――目的なんてあったの?


「ふふ、アーサーにはばれてしまいますよね」


エステルはくすくすと笑う。


「…これは、私のわがままで、一種の取引です」


エステルはにっこりとほほえんだ。しかし目は真剣だった。


「アーサー。私の任務を、手伝ってくれませんか?」


「え?」


アーサーは呆然として固まった。


読んでいただきありがとうございます!


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次回更新は9/23です。

次回もよろしくお願いします。

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