102. 物騒な交渉
「え?」
トールは目を見張る。瞳が揺れた。
それを見て、エステルがアーサーに尋ねる。
「それはどういう意図ですか、アーサー?」
エステルの浮かべた笑みには圧があった。
「治療、時間かかるでしょ?トールの治療が終わるまで俺がここにいるのもよくない。トールの耐性が弱まった理由も気になるし、俺はそっちを探ってみることにするよ」
――アーサーさん、俺のために…。
トールは胸が詰まった。
エステルは険しい顔をして言った。
「こんなことは言いたくないですが…。アーサー、お尋ね者のあなたが、どうやって探るというのです?」
アーサーはにこっとほほえむ。
「あいにく、この国にはお尋ね者が歩き回れる場所が残ってる。どうせ、今回もあの組織が関わってるしね。エステルが教会は綺麗な組織ではないって言ったのも、そういうことでしょ?」
「何をする気ですか」
エステルがアーサーに向けた視線は鋭かった。
「探し物の延長だよ。…どうせそのうち、こうなる」
アーサーはふっとほほえんだ。
「アーサー、レオナルドに言われたことを忘れたわけではないですよね」
「忘れてないよ。忘れられるわけがない。…でも、守っていられる状況じゃなくなったんだ」
空気が張り詰め始めた。
「だめです。守ってください。レオナルドがああ言った理由をわかっているんでしょう?」
「…うん。それでも」
「だめですよ。どうしてもと言うなら、気は進みませんが、私も手荒な手段に出ますよ」
「…手荒な手段?」
アーサーが眉をひそめる。
「はい。トール君を人質に取ります」
「え?俺ですか?」
思いがけず自分の名が出てきて、すっとんきょうな声を上げるトール。
アーサーも目を見張っていた。
「トール君を治してあげません。なんなら悪化させます。これでどうです?」
エステルはにっこりとほほえんだ。
「…」
アーサーはすっと目を細めてエステルを見つめる。
「ただでさえ耐性が弱まってるんです。悪化させたらどうなるでしょうね?すぐ死んじゃうでしょうね。どのくらい保つでしょうね?」
――え、エステルさん、ひどい…。
トールの残りの寿命は、アーサーの返答次第らしい。そもそも何でアーサーとエステルが戦っているのかすらわかっていなかったが。
ものすごい剣幕で無言の戦いを繰り広げるアーサーとエステルに何か言うのを諦め、キャロルに助けを求めようとしてトールはキャロルの方を見た。
が、見るなりトールの希望は見事に打ち砕かれた。
キャロルは興味なさそうに、頬づえをつきながらカップの中身を回していた。
――まじか…。
だめもとで、トールはキャロルに助けを求める視線を送ってみる。
トールの視線に気付いたキャロルは、トールの方を見た。そして、どうしようもないとでも言うように肩をすくめてみせると、再び暇そうにし始めた。
――俺、味方いないじゃん…。
がっくりとうなだれるトール。
「…俺がエステルを力ずくで止めるって可能性は、考えないんだ」
アーサーはエステルににっこりとほほえむ。
「落ちこぼれが追い詰められたときは怖いですよ?あなたも知っているでしょう?」
エステルはふふ、と笑った。
「…」
――今も十分怖いって。
トールははらはらとしながら見守るしかなかった。
ふう、とアーサーが息をついた。
ぎくりとするトール。
――見捨てないでくれると、助かる…。
心の中でひたすら祈るトール。さすがにまだ死にたくはなかった。
「…わかったよ、エステル。トールを殺されちゃ困るもん。レオナルドの言ったことを守るよ」
「そう言ってくれてよかったです。ありがとうございます、アーサー」
あからさまにほっとした顔をして、エステルが言った。
「トール君もごめんなさい。人質にしてしまって」
「いえ…」
エステルは申し訳なさそうにしていた。本気ではなかったことを察し、トールもほっとする。
「ではアーサー、私はトール君を預かりません。アーサーも一緒にいてくださいね」
「わかったけど…。エステルたちは本当にそれでいいの?」
「…」
キャロルは不満げな顔をしていた。
――まあ、そうだよな…。
お尋ね者が一緒に行動することになるのだ。いい気はしないだろう。
「というか、俺をとどめようとするエステルの目的は何?」
アーサーの言葉に驚くトール。
――目的なんてあったの?
「ふふ、アーサーにはばれてしまいますよね」
エステルはくすくすと笑う。
「…これは、私のわがままで、一種の取引です」
エステルはにっこりとほほえんだ。しかし目は真剣だった。
「アーサー。私の任務を、手伝ってくれませんか?」
「え?」
アーサーは呆然として固まった。
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