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初めての戦場

『首級』という言葉をご存知だろうか?物騒な話になるが、討ち取った敵の首のことである。首と言っても首ではない。首をちょん切った頭である。生首ともいう。とあるアニメで首首言ってるあれである。


武士たちは何も趣味で首を持ち帰ったのではない。活躍の証拠として必要だったのだ。カメラやスマホがない時代なのだ。仕方ないのだろう。


しかし、実際に見てしまうと仕方ないと思えるものではなかった。


オレたちはたまに休憩を挟みながら、昼すぎに太宰府という町を通りすぎた。太宰府とは九州の重要拠点らしい。オレが太宰府と聞いて思い付くのは天満宮だ。この時代にあるかどうかは知らない。


太宰府を少し過ぎた辺りで太宰府に向かう伝令さんとすれ違い引き止め、現在の状況を聞いた。


現在、元軍は上陸し麁原というところに布陣。対する鎌倉軍は元々博多に布陣していたのだが、赤坂に移動。まだ陣が整っていないということだった。


オレたちも赤坂というところに向かうことにした。少し行くとすぐに小高い山が見えてきた。これが赤坂らしい。で、遠くに見えるのが麁原か。丘が人で埋めつくされている。あれが元軍と。


麁原の方から騎馬隊の一団がやってきた。味方のようだ。全員腰に何か丸い物を大量にぶら下げている。


その一団に近付くとそのぶら下げている物が何か分かった。首だ。頭部だ。人の頭だ。青白い生首だ。


「おえー。」


「おい、吐くな。」


太助に言われたが勘弁してほしい。吐きたくて吐いているわけではない。こればかりはどうしようもない。


「お、五郎ではないか。」


その一団が分かれ、奥から一騎近付いてきた。強面のいい歳したおっさんだ。反社の人みたいな近付き難いオーラがある。


「叔父貴…」


「ほれ、見よ、入れ食いじゃぞ。なんじゃ、お主らはないのか。」


叔父貴さんは腰の生首のひとつを誇らしげに掲げ自慢気に言った。


「ぐぬぬ。」


「なんじゃ、お主ら5人しかおらぬのか。」


五郎がめっちゃ煽られている。すごく悔しそうだ。


「わしらはこれからまた赤坂で合流じゃ。お主らも一緒に行くか。わしらの隊に入れてやろう。」


「行かぬ。」


「そうかそうか。では少弐殿が到着なされたらお主らが来たと報告しておいてやろう。がっはっはっ。」


このおっさん、五郎の血縁だな。笑い方がそっくりだ。それにしても嫌みな人だ。オレを拾ったのがこういう人じゃなくて良かった。


「いくぞ。」


おっさんはそう言うと一団を引き連れ、赤坂に登って行った。五郎はその一団を見えなくなるまでじっとにらんでいた。


「どうする、五郎。」


「……」


オレが聞いても返事がない。どうしようか、と思ったそのとき。


「はっ。」


五郎は気合い一閃馬の腹を蹴って走らせた、麁原に向かって。


「ちょ、三郎さん、これまずいんじゃ?」


「ああ、まずいな。追うぞ。」


オレたちも馬を走らせ、五郎を追う。


「止まれ五郎、止まらぬか。」


三郎さんが叫ぶが五郎は止まらない。このままではオレたち5人だけで敵陣に突っ込むことになってしまう。


何度呼んでも無言で突っ走る五郎。三郎さんはなんとか五郎の馬に並ぶ。そして片手で五郎の馬の手綱を取り強引に五郎を止めた。五郎の馬は暴れ二人は振り落とされそうになるがなんとか踏ん張った。危ない。戦場を前にうちの主力二人を失うところだった。


「止まれというに。」


「ほっておいてくれ。」


「放っておけるか。お主あきから太一郎を頼まれたのだろう。このままでは二人とも死ぬぞ。さよをひとりにする気か?」


「ぐぬぬ。」


「分かったな。しかし、だいぶ来てしもうたな。」


三郎さんは辺りを見回す。麁原の方をみると元軍が大量の矢を赤坂に向かって放っている。ぜんぜん届いてないが。あれがこっちに向いたらオレたちはあっという間にサボテンだ。


「あの森に入るぞ。」


そう言うと三郎さんは馬ごと近くの小さな森に突っ込んだ。オレたちもそれに続く。馬を降り、茂みから顔だけ出して辺りを伺う。


ここは赤坂と麁原のちょうど中間点のようだ。集落か何かがあったようで壊れた家がそこいらにある。そして元軍の死体、それから日本人の農民のような死体…おえー。


「蒙古の略奪ですか?」


「いや、たぶん違う。元軍に略奪される前にここいらの武士がやったのだ。」


太助の疑問に二郎さんが答えた。元軍に略奪されたら困るからって自分たちの町を略奪するのか…倫理観が違いすぎる。


武士が腰に吊るした生首、壊れた建物、転がる死体、いつ弓矢の弾幕射撃が飛んでくるか分からないこの場所。頭がおかしくなりそうだ。


「どうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなった」


「まだ、そんなことを言っておるのか。」


半分はお前のせいなんだぜ、五郎。おえー。


「こいつまた吐きやがった。」


「ずうたいでかい割に肝っ玉小さいのう。」


うるせぇ、太助、五郎。


「もうすぐ蒙古軍が赤坂を攻めるじゃろう。しかし、今からでは赤坂に間に合わん。わしらはその間ここで息を潜めて待つ。言うとる間に蒙古軍は敗走するはずじゃ。それを横から狙うぞ。」


五郎が作戦を話した。麁原の元軍は約1万、対する赤坂鎌倉軍は三千いないくらい。なぜ、元軍が敗走すると思うのか?


「どうしてそう思う?」


三郎さんも同じことを思ったようで五郎に聞いた。


「よう見てみろ。蒙古の矢はぜんぜん届いておらんのに蒙古には矢は届いておる。」


よく元軍の方を見てみると首がぱんと飛んだりぱたぱた倒れたりしている。赤坂からの弓矢の攻撃らしい。けっこう離れてるのによく届くな。しかも当たる。鎌倉武士は化物か?そして我慢できなくなった少数が麁原をかけ降りる。その小集団目掛けて赤坂から騎馬隊がかけ降りあっという間に元軍の小集団がいなくなる。叔父貴さんが持ってた首はこれか。おえー。


「このままだとじり貧じゃ。突撃しかないわい。数では勝っているんじゃ。」


なるほど。五郎はよく見ている。


「それにな、弓矢を持ってるのと持ってないので装備が違うじゃろ。持ってないのはたぶん滅ぼされた高麗兵の生き残りじゃ。蒙古からしたら消耗しても問題ない戦力というわけじゃな。」


「なるほどのう。して作戦は?」


「この先に確か湿地があったはずじゃ。敗走する敵兵をそっちに押し込めたいのう。」


「5人でか?」


「ちと難しいのう。」


五郎と三郎さんが二人で作戦会議してる横でオレは顔を真っ青にしてぷるぷる震えていた。これまでびびっては奮い立たせてを繰り返してきたが、戦場を目の前にしてオレの心はポッキリと折れていた。


「五郎、三郎さん、オレ、無理みたいです。」


オレは震えながらそう言った。ため息を吐きながら三郎さんがオレに近付き肩を組んだ。


「のう太一郎。蒙古軍は大陸じゅうを征服したそうだ。日ノ本の何倍もある大陸をだ。そのうち兵士が足らんようになる。蒙古はどう補充したと思う?」


「さあ?」


「現地の女を兵士に抱かせて子供を大量に作ったそうだ。」


……


「私たちがここで戦わなかったら、あきやさよはどうなるかのう。」


うがーっ。さよが敵兵に凌辱されるなんて死んでも許さん。殺してやる。皆殺しだ、蒙古ども。


「目に力が戻ったな。」


「ありがとうございます、三郎さん。」


ああくそ、オレはいつも自分のことしか考えてないな。これはさよを守る戦いでもあるのだ。オレの大義名分は立った。


オレはガバッと立ち上がった。そのとき木の枝に着物の袖が引っ掛かり、着物の中から何かが落ちた。なんだろ?今まで入ってることに気が付かなかった。さよが入れてくれたのだろうか。オレはしゃがんで何かを拾う。それは紐の束であった。そのときオレの中に天恵が舞い降りた。さよはこの状況を予測していたのだろうか?そうなるとちょっと恐ろしいが頼もしい。さよは未来視を持っているらしい。


「五郎、三郎さん、作戦があります。」


「ほう。なんじゃ。聞こうか。」


オレの言葉に五郎がにやにやしながら答えた。


オレはさよのことを誇らしく思いながら、皆に思い付いた作戦を話したのであった。

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