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修行開始

『犬も歩けば棒に当たる』ということわざは皆さん良く聞いたことがあるだろう。子供頃から良く耳にしたことわざではないだろうか。では、その意味はご存知だろうか。犬が歩いたら棒に当たるんだぞってことではない。何かをしたら何かが起こるってことだ。要は犬畜生でも歩いたら棒に当たるんだから、人間様も何かしたら何かあるはずだってことだ。だから『も』なのだ。しかし、良い意味というより悪い意味で使われることが多い。つまり棒とは災いだ。何かをしたら、災いに当たるリスクがあるってことだ。これだと災いに当たりたくなければ何もするなって言われているように思う。人生はトライアンドエラーだ。リスクを恐れては何もなせない。だから、このことわざは『犬も歩かねば棒にも当たらない』にすべきではなかろうか。


つまり何が言いたいかというと、オレは今、犬みたいに四つん這いになりゲロを吐いている。そして…


「こら、太一郎立て。立たぬか。」


棒で頭を殴られる。まさに『犬も歩けば棒に当たる』だ。


まだ夜明け前、空が白みがかってきたころ、やっと眠れたと思ったら腹を思いっきり蹴られた。


「太一郎、朝だ。起きろ。」


こんな暗いときを朝とは言わない。オレは知っている。


「腹、痛い。」


「なんじゃ?病か?」


「違う。誰かに蹴られた。」


「それは大変じゃな。ほれ、起きろ。」


お前が蹴ったんだろうが。く○短足が。


「顔を洗って歯磨きを。」


「いらん。川ですりゃいい。」


五郎はそう言いながらまたオレを蹴ろうとしたのでオレは急いで立ち上がる。


「行くぞ。」


「どこへ?」


オレの言葉を無視し土間に下り玄関を開ける。外は薄暗い中、さよが竹箒で玄関先を掃いていた。今日も今日とてさよはかわいい。


「おはよう、さよ。」


「おはよ、太一。」


「はよこい、太一郎。」


にこやかにさよと挨拶を交わしていたのにもう道を走り出した五郎が振り返って叫ぶ。近所迷惑じゃない?


「いってきます。」


「いってらっしゃい。」


うわ、凄く良い。家族みたいだ。オレたちは家族だ。ってもう五郎が見えない。オレは急いで五郎を追いかける。てか、オレまだ裸足何だが。


オレと五郎は田んぼと田んぼの間の道をひたすら走る。


「基本は足腰じゃ。走れ、走れ。」


五郎はそんなことを言いながら、腕組みするように逆の浴衣の袖に腕を突っ込んだまま、足だけ動かして走る。めっちゃ速い。足の回転が速い。


「はっ、はっ、はっ、もう無理、ちょっと止まって。」


「ダメじゃ。走れ。戦場で止まったら死ぬぞ。」


「そんなこと言っても、はっ、はっ、足が、動か、ない。」


オレは減速してから立ち止まり膝に手をつきぜいぜいと息を吸う。そしたら、頭にこつんと衝撃。


「あいたー。」


五郎はいつの間にか木の棒を持っていた。おい、叩いたのか、体罰反対!


「止まっとる場合か、ほれ、行くぞ。」


「ちょっと聞いて。ちょっと休ませて。」


「うるさい、行くぞ。」


「あいたー。ちょっと叩かないで。」


「なあ、太一郎。さよは…」


「行くぞ、五郎、休んでる場合じゃないだろう。」


なんか力が漲ってきたー。行ける、行けるぞ。


「ふむ、扱いやすいな。」


五郎が何か言ってるがそんなの関係ねぇ。おっぱっぴー。やれる、オレはやれる子だ。


しかし、2年ほど全く運動していなっかった弊害がもろに出てオレは倒れて動けなくなった。


「ほれ、まだ少ししか走っとらんぞ。」


嘘をつけ。もう1時間は走っている。全力疾走でだ。なのになぜこいつは息が切れてないんだ?こら、棒でつつくな。オレは何とか四つん這いになる。いろんな思いが込み上げてくる。いや、違う。昨日食べた物が込み上げてくる。これはさよの手料理だ。リバースするわけにはいかない。おえー。


「それはそこの畑に出せ。栄養になる。」


そんな余裕ないって。てか、棒で叩くな、痛い。


「仕方ないのう。」


五郎はそう言ってオレを抱えた。お、助けてくれるの?と思ったら草むらに投げられた。


「あいたー。」


「よし、休憩にすもうじゃ。」


「は?」


五郎は浴衣を脱ぎ捨てふんどし一丁になった。ムキムキの彫刻のような体が出てきた。あ、でも体毛が濃い。え?すもうが休憩?それって休憩?


「さよがほしくば掛かってこい。」


はあ?やってやんよ。さよはオレがもらう。オレはふらふらと立ち上がり着物を脱ぐ。


「さよはオレのもんじゃー。」


オレは胸から五郎に突撃する、がぴくりとも動かない。そして横に投げられる。


「こなくそ。まだまだ。」


「お、いいぞ。なかなか根性あるな。」


オレは立ち上がりまた突撃。オレを動かしているのは根性ではない。愛だ。


また投げられ立ち上がり突撃。


「さよは、はっ、はっ、オレが、はっ、はっ、幸せに、する。」


「がっはっはっ。そんなにさよが気に入ったか。」


「気に入ったどころじゃねぇ。好きだ。愛してる。」


「がっはっはっ。わしに言われてものう。ほれ。」


「ぐへ。くそ、まだまだ。」


オレと五郎は日が完全に登るまでぶつかり合ったのであった。


ーーーーーーーー


ざぶーん、と小川に飛び込む。そして汗を流す。うわ、めっちゃ水きれい。


「水きれいだな。」


「下流の方はくそが流れてるから飛び込むなよ。」


夢も希望もなかった。まあ、下水道がないならそんなもんか。


「ほれ。」


川に入った五郎に草を渡される。


「何これ?」


「太一郎は何も知らんのう。こうやってやるんじゃ。」


五郎はそう言って草で歯を磨き出した。あ、オレ歯磨きしたいって言ったわ、寝起きに。オレも見よう見まねで歯を磨く。ああ、歯ブラシが恋しい。百獣の王万歳。


「五郎、腹減った。」


「よし、ひと泳ぎしたら帰るぞ。」


まだ運動するのか。もう1年分くらい動いた。しかし、高校時代しっかり部活に取り組んだお陰か食欲がなくなるということはない。


「川で泳いだら溺れて死ぬんですよ。」


「うるさい、じゃあ、くそにまみれて死ね。」


「ぐへー。」


五郎はオレを抱き上げて水の中に叩きつけた。なんか楽しそうだ。こいつ28歳の癖に子供なんだ。オレとさよの養子にしてやろう。オレは潜水し、五郎の足を思いっきり引っ掛ける。


「どわっ。」


五郎は水に沈んだ。はっはっはっ、オレの勝ちだ。これでさよはオレの…


「ぐへー。」


やり返された。オレと五郎は少しの間、川で遊んだのであった。


ーーーーーーー


家にたどり着いたときはもう日がずいぶん高くなっていた。玄関先でさよが腕を組み仁王立ちをしていた。いかにも怒ってますって顔だ。それがまたかわいい。


「もう。遅い。私お腹すいた。」


「ごめん、さよ。」


「すまんすまん。」


オレと五郎はさよに謝る。お腹すいたって、ああ、なんてかわいいんだ。待ってくれてたんだ。


「よし、あさげにしよう。」


「もう、お昼だけどねっ。」


「だから、すまんって。」


「その前に、はい。」


さよはオレに草鞋を差し出した。こ、これをオレに?


「ひまだったから作ったの。ひまだったからなんだからね。」


うわ、ツンデレみたいなこと言ってる。かわいすぎかっ。オレは震える手で草鞋を受け取る。


「一生大切にします。」


「草鞋ってそういうものじゃないよ?」


「いや、草鞋じゃなくてさよをです。」


「は?」


「がっはっはっ。よし、あさげ、じゃなく、ひるげにするぞ。」


オレたちはさよの手料理に舌鼓を打ったのであった。

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