鎌倉へ
『鎌倉』という町に行ったことがあるだろうか。オレはない。もしかしたら中学の修学旅行で立ち寄ったかもしれないが記憶にない。
古代より地域の中心地だったらしいが、注目を集めたのは、やはり鎌倉幕府からであろう。
昔はいい国作ろう鎌倉幕府と教わったらしいが、最近は1185年と教わる。1192年は頼朝が征夷大将軍になった年でその頃にはすでに幕府は存在していたらしい。
幕府とは征夷大将軍を首長とする政庁だ。征夷大将軍がいなかったのに幕府があったってどゆことって思うかもしれない。
これは卵が先か鶏が先かみたいな話だ。幕府の首長である頼朝が征夷大将軍に任命されたので、それ以降征夷大将軍の居館が幕府と呼ばれるようになったということである。たぶん。
何はともあれ、オレと五郎はその鎌倉に行く。身重のさよを置いて。
皆に何度も言った、子供が生まれてから行きたいと。しかし、さよも含めた皆に言われた。出産に男は必要ないから行ってこいと。
時代ギャップというやつだ。今までもたまに感じてきたが、今回は強烈だった。オレは渋々行くことにした。
オレには褒美以外に行かなければならない理由があった。それはなぜか思い出してしまったのだ、元寇は2回あると。しかも五郎の本名竹崎季長が有名な武将かどうかも分からない歴史音痴なオレが元寇の年号を思い出してしまった。
1274年と1281年。あれから年が変わったので今は1275年だ。6年後もう一度蒙古が襲来する。そのことをとっても偉い人に伝えなければ。オレとさよのため。そしてこれから生まれくる子供たちのためにも。
「さよ。」
「太一。」
オレとさよは三井家の門の前で抱き合った。オレが単身赴任の間、さよは三井家に預かってもらうのだ。往復1~2ヶ月くらいの旅路なので出産には間に合うと思うのだが…
「子供が生まれたら、名は太郎に…」
何郎っていっぱいいるのに太郎がいないのだ。長男だし、太郎がいいよな。
「もう、間に合わすってうそなの?」
「あ、いや、何があるか分からないし…」
「それに女かもよ。」
「それもそうか。女なら…あやかな。」
オレの母親が綾子だ。そこから頂こう。元気にしてるだろうか。この時代からしたら、まだ生まれてないのか。なんか不思議だ。
「ほらほら。二人並んで。」
一向に離れないオレに痺れを切らしてあきさんが言った。
オレは仕方なくさよから離れ、五郎と二人三井家の門を背に並ぶ。
かんかんかんと切り火の音が聞こえた。
「さあ、行っといで。手ぶらで帰ってくんじゃないよ。」
「わかっとる。」
「任せてください、行ってきます。」
オレと五郎は皆に見送られ三井郷を後にしたのであった。
ーーーーーーー
元寇のさいに馬で通った道を今回は徒歩で進む。この時代の九州はど田舎だなあ。景色が全く変わらない。
やっと太宰府が見えて来たときだった。
「爪音。」
五郎が言った。またか。
「多いぞ。」
五郎は来た道を振り返り腰を低くする。臨戦態勢だ。遠くから5騎走ってくるのが見えた。
「ぬ、あれは隆盛か。」
「誰?」
「わしを菊池におれなくしたやつじゃ。」
敵じゃん。あれ?でも五郎の親戚か?
5騎は近付いてきてオレたちの前で止まった。一番前を走っていた五郎をしゅっとした感じの男が馬に乗ったまま前に出た。
「季長。どこへ行く。」
「どこでもええじゃろ。お前らには関係ない。」
「関係はある。縁が切れたとはいえ、お前は元は菊池の人間、無礼があっては、こちらにも飛び火する。」
「ほう、わしらが何処に行くか知ってるかのような口ぶりじゃな。」
「阿呆なお前のことだ、どうせ、鎌倉に行くとか言うのであろう。」
「さあ、それは言えんな。」
五郎と隆盛さんが目から火花を散らして口喧嘩してる傍らでオレは何気なく残りの4頭の馬に乗る男たちの顔を見た。そこに見覚えのある顔があった。
「五郎、あいつ。」
「太一郎、ちょっと黙っとれ。」
「黙っとれん。超大事。あいつ見て。」
そいつは元寇のあと、オレたちのところに来て、生首を受け取った頭の良さそうな兄ちゃんであった。
五郎はそいつの顔を見た瞬間固まった。そして徐々に顔が真っ赤になっていく。膨れ上がる殺気。
「おま、お前がっ、お前!」
止める間のなく刀を抜いてそいつ目掛けて跳び上がった。
「ひぃ。」
そいつは滅茶苦茶びびっている。五郎の刀がそいつに届こうとしたとき、そこに隆盛さんの刀が割って入った。きんと甲高い音が鳴る。
「どけ、隆盛。そいつが殺せん。」
「むざむざと殺させるわけなかろう。引け。」
「では、お前ごと殺す。」
「俺に勝ったことないお前がか?」
「今なら負けん。」
勝てる、じゃないのね。オレからしたら五郎は滅茶苦茶強いのに、五郎より強いってどんだけだよ。鎌倉武士は化物か。ここが潮時かな。
「五郎、止めよう。」
「お前は悔しくないのかっ。」
「悔しい、死ぬほど悔しいよ。」
だって死ぬ思いで上げた手柄を無かったことにされたんだから、腸煮えくり返る思いだ。
「でも、ここで怪我でもしたら目的地に辿り着けない。」
オレは褒美以外に目的があるからな。このことがなかったとしても、なんとか言って鎌倉へ行っていたかもしれない。
「ふん、今回は見逃してやる。次はないぞ。」
五郎はふんと鼻を鳴らして踵を返した。
「本当に行くのか。」
隆盛さんがしつこく聞いてきた。
「行く。」
「一門の反対を押し切って鎌倉に直談判に行った阿呆と記されることになるぞ。」
こいつら、歴史書捏造しまくってやがるな。
「構わん。わしの風評より大事なもんがある。お前には分からんだろうがな。」
五郎をそう行って歩みを進めた。五郎かっけぇとか思いながらオレは後を追い掛けたのであった。
ーーーーーーー
博多の端っこから船で海に出た。こんなので海に出るの?って感じの船だ。滅茶苦茶揺れてげーげー吐いた。だが、なんとか陸地にたどり着いた。考えてみたら、元軍って大陸からやって来たんだよな。どんな船に乗ってただろう。ちょっと興味沸く。
そこからはひたすら歩いた。この時代にくる前のオレならあっという間にリタイヤしてただろうが、この時代に来て約1年、何事もなければ毎日20キロ以上走ってきた。筋力も体力もついた。大丈夫だ。
昼間は海沿いをひたすら歩き、暗くなったら野宿を繰り返した。山賊や海賊王なんかに出くわすかと勝手に思っていたがそんなことはなかった。まあ、熊みたいな風体で腰に刀二本差しの強面を襲おうという馬鹿はいないだろう。
3日目、遂に海が見えなくなった。近畿地方に入ったようだ。ん?広島、岡山、兵庫の順だっけ?岡山から近畿?兵庫から?すでに近畿には入っていたようだ。
古の都京都、この時代なら京と言うのかな。綺麗な街並み、小綺麗な人々。田舎者丸出しのオレたち…
ちょっとお店に寄って団子とか頼んでみたけど、店員さんに凄い顔で見られた。団子は…まあ令和とは違うよねって感じ。ここから彦根の山越えだ。
6日目、遂に故郷の名古屋に帰ってまいりました。しかし、全く違う街並みになんの感慨にも浸れなかった。
ここから右手に海、左手に富士山。絶景なのだが、7日以上歩き通しなので、疲れで頭がチカチカして何も考えれなかった。だって五郎が止まってくれないんだもん。五郎から離れると山賊の恰好の的だろう。オレは五郎に必死に付いて行った。
出発から12日、さよが編んでくれた草鞋が底をついたころ、ようやく鎌倉にたどり着いた。まあ、京の方が都会だが、まあ言うまい。三井郷から見たら大都市だ。
「やっと着いたー。」
「何を言うとる、これからじゃぞ。」
そうだよね、これから令和でいうところの大臣クラスにアポ無しで面会しようというのだ。まさにこれからである。




