表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/121

死んだはずでは……?(1)

 ぱちりと瞳を開けた私はそこに広がっていた光景に驚いた。何故ならごくごく普通の天井が見え、他人にのぞき込まれていたから。


「奥様、女の子でございますよ!」


 (はい!?)


 まって、誰か状況を説明して欲しい。


 女の子、当たり前じゃないか。私の性別は女だもの。いや、それよりも。


 のぞき込まれていることが怖くて、「やめて欲しい」そう言おうとして口を開いたのだけれど……。


「ふぇっうぅ」

(!?)


 漏れ出たのは小さい小さい泣き声のようなもの。まるであたかも赤子のような────


 そこでようやく気がつく。この状況がとてつもなくおかしいことに。


 (えっえっ私、死んだはずでは?)


 スパッと切られた記憶は残っている。事切れる最後の最後、血飛沫が飛んだのも、首と胴が離れる強烈な痛みも、一秒前のようにはっきり覚えている。


 それなのに何故、目の前に巨人のような大きい女性がいるのだろうか。


(天国でまず最初に迎えてくださる天使様は……人間よりも大きいのかしら。書物の中ではふわふわ周りを飛ぶ可愛らしい容姿だったわ)


 真っ白な羽もなく、生前邸宅にいた侍女達のお仕着せに似たものに身を包んでいる。

 天使様に付くお世話係だとしたら説明が付くが。


 そんなことを考えていると、私が凝視していた彼女はそれはそれは嬉しそうに、正面にいた人に告げたのだ。


「デューリング伯爵、おめでとうございます!」


 (デューリング!?)


 それは、イザベルとして暮らしていたへストリアの名門貴族のひとつ。天に召されたはずなのに、なぜその名前が……。


 状況に頭が追いつかない中、私は寝台に横たわっていた女性へと受け渡される。

 そうして女性は優しく諭すように紡ぐのだ。


「貴女の名前はテレーゼ、テレーゼ・デューリングよ」


 空色の髪を持った女性が愛おしそうに私の頭を撫でた。額には汗が浮かび、少し疲弊していた。

 女性の手も私から見たら大きくて、広げたらすっぽり顔が覆われてしまいそうだ。


「テレーゼ、私達のところに生まれてきてくれてありがとう」

「あう? (はい?)」


 明らかにテレーゼという名前は私を指している。

 だけど、私の名前はイザベル・ランドール。

 ランドール公爵家の一人娘で、罪人として処刑された人間。


 名付け行為は人生で一度きり。生まれた時のみだ。


 だからもし仮に、私の名前が変更されるとしたら……。


(もしかしてこれ、赤ちゃんになって……る……?)


 それしか考えられず、ゆっくり状況を噛み砕いて自分の中に落とし込む。確か、私が死ぬ前デューリング伯爵夫人は第二子を妊娠中だったはず。


「あ、うあ」


 もう一度話そうとするけれど、言葉にならない。伝わらない。代わりにもぞもぞ手を動かして伸ばしてみる。


「あらあらあら。可愛いわぁ! なあに? お母様の手を握りたいの?」


 うふふとデューリング伯爵夫人──レイラ様は花が綻ぶように笑い、ちょんっと私の手のひらに、綺麗に手入れされた右指を入れた。


 反射的にきゅっと握ってしまう。


「お手て、小さいわね~ふふっ」


 今度は頬にキスされる。ちょっとくすぐったくて、顔を動かしてしまった。


(感触があるから夢ではなさそう)


 全部、ぜーんぶ摩訶不思議で信じられないことだけど。まだ騙されている可能性も捨てきれないけど。


 多分、これが現実で。私は生まれ変わったのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ