春が届く(2)
「終わっったぁ~~!!!」
うーんと伸びをすれば、教室内は解放感に包まれていた。先生が居なくなるとクラスメイトが一斉に喋り出す。
「レーゼどうだった?」
「もうバッチリよ。これで一位取れなかったらその時は私の実力不足ね」
後悔はない。やれることは全部やった。
「最後の試験お疲れ様!」
「レーゼもね」
私達は支度をして教室から出る。
「あとは卒業式くらいで、学園生活も終わっちゃうね。四年間楽しかったな~~」
とても充実した期間だった。これからも思い出しては懐かしむだろう。この輝かしい時間は今後手に入らないだろうから。
エステルは穏やかな瞳で私を見る。
「そうね。アレクがウザかったけど」
「おい」
ぽんっと肩を叩かれる。
振り返ればアレクが呆れたようにエステルを見ていた。
「また俺の悪口言ってるのか?」
「ウザかったのは事実よ。悪口ではないわ」
バチバチと両者の間に火花が散るので、私は話題を変えることにした。
「あっ! アレクは文官に内定したんだってね。おめでとう!」
「ありがとう。ま、落ちると思ってなかったけどな」
合格しただけでなく、彼は筆記試験で首席だったらしい。本当にすごい。私も見習わなければ。
「それよりもレーゼも頑張れよ」
「うん。面接も突破してみせるよ」
質問される内容リストはお兄様のおかげで手に入っていた。その時教えてくれたことなのだが、やはり試験内容は流出していたらしい。知らない人の方が少数だとか。
三次に進んだのがほぼ貴族令嬢しかいないらしいから、当たり前といえば当たり前なのだろう。本当はいけないことだけど。
(ここが正念場。合格して侍女として働くの)
それからの私は、卒業試験用になっていた頭を切りかえ、面接の対策をして三次に挑んだ。
面接終わりからもう落ちたらどうしようと不安だけが募り、採用通知が来るまで毎日悪夢を見たり、食事が喉を通らなかったりした。
そうして寒さが和らぎ、陽気な天気が多くなった三の月の中旬。
皇宮からやって来た使者が、今か今かと外で待っていた私に春を届けてくれた。
もう嬉しくて嬉しくて感極まった私はその場で号泣してしまって。使者を驚かせてしまった。
号泣する私に引いた使者がそそくさと帰っていくのをぶんぶん手を振って見送り、自室に駆ける。
ぼふんっと寝台に飛び込み、もう一度採用が間違いないか確認する。
(全部合ってるし、しかも……この最後の署名)
そっと触れる。
──ユリウス・ヘルゲ・ベルンシュタイン
そう筆記体で綴られていた。判子ではなくて、署名で。彼の癖が現れているから、偽物ではない。
「ユースがこの書類を確認したってことよね」
ユース不足の私はそれだけで嬉しかった。バタバタ足を動かす。文章なんて読まず、機械的にサインしている可能性も無きにしも非ずだが。
「ふふふ」
笑みがこぼれる。
早く四の月になって欲しい。待ちきれない。
そう思うのは、侍女として働けるのもあるが、実は新しく侍女となる者は最初の日、一人一人宮の主である皇帝陛下に挨拶をするのだ。
十七年越しの──切に願っていた対面。
考えただけで嬉し涙は止まらなかった。視界はぼやけたままで、うまく見えない。通知を握る手が震える。自然と口元も緩む。
(辿り着くことはできた)
周りに助けてもらいながらも、自分の努力で。だから私は震える声で紡ぐ。
「ああユース、やっと貴方に会えるのね」




