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新しいクラスメイトは

「私のクラスは~~あった!」


 掲示板に貼られた名簿からテレーゼ・デューリングという名前を探すと、どうやら中位クラスのようだった。

 この学園では上位・中位・下位に別れていて、一年生のクラス分けはランダム。二年からは学力順に変わるのだ。

 私は首席で卒業したいので、もちろん二年生からは上位クラスを目指すつもりだ。


「レーゼも中位クラス?」

「エステル! 貴女もなの?」

「そうよ」


 微笑みかけてきた彼女はエステル・コーレイン。私と同じ伯爵家の令嬢で、私とは違ってクセのないサラサラな亜麻色のストレートヘアが素敵な女の子だ。

 今世での初めて出来たお友達で、入学前からよく遊んでいた。


 私は嬉しくてエステルに抱きついた。


「嬉しい! 本当に嬉しいわ! 知り合いがいなかったらどうしようって、昨日不安になってしまって寝られなかったの」

「大袈裟ねぇ。貴女交流関係広いでしょうに」


 軽く額を弾かれる。


「またまた~そんなに広くないよ」


 皇帝になったユースの様子なども、やっぱり私ひとりで調べるには大変で。


 イザベル時代、いつかユースの役に立つかなと社交場などで集めていた、へストリアの貴族家情報という遺産を使って、それぞれの子女に近づいているだけである。


 デューリング伯爵家より国の中枢で仕事をしている親しくなった家の子に、さりげなく話題を振ると、ユースの噂を教えてくれたりするから何かと重宝している。


 笑いながらエステルから離れる。


「でも、レーゼの所作は高位貴族の方々並に洗練されているし、どこに行っても渡っていけそうね」

「あはは」


(……前世が公爵家の娘なのよね)


 基本的な所作は完璧に叩き込まれていた。イザークお父様はとっても優しかったけれど、公爵家の一員としてマナーを身につけることは厳しかったのだ。

 おかげで今世ではその手のものに苦労していない。意識しなくても身体が覚えているのだ。

 ただ、完璧すぎて家族はまたまた天才だ! とか有頂天で浮かれており、若干居心地が悪い。


「よお」


 手を上げ、近づいてきたのはこちらも小さい頃からの知り合いであるアレクセイ・ヴィルタだ。鮮やかな赤髪にこれまた透き通った紫水の瞳を持つ幼なじみだ。


「一年間よろしくな」

「えっアレクもなの!?」


 まさかのいちばん仲の良い二人が同じクラスで嬉しくなってしまい、その場でぴょんぴょん跳ねる。


「まー腐れ縁か何かだろう。仲良くしてくれよ」

「するに決まってる」


 大好きな友人なのだ。邪険に扱うわけがないだろうに。


 私は二人の腕を取ってウキウキした気持ちで教室へと続く廊下を歩く。


「エステル最近婚約者との仲はどう?」

「何よいきなり」

「ちょっと気になって」


 他人の恋の話はそこら辺のご飯よりおいしいのだ。ドキドキするし、エステルは婚約関係が上手くいっているから、聞いていて幸せな気持ちになれる。


「いつも通りよ。それよりもね、レーゼはどうなのよ」

「私? 私は婚約しないもーん」


 くるんと回って笑う。


 初恋はもう実らない。新しい恋もする気分ではない。


 皇宮の侍女になってしまえば独身でも後ろ指さされることは少ない。デューリング伯爵家はヴィスお兄様がいるから安泰だし、お母様たちは私の好きなようにしていいと言ってくれている。


「行き遅れになってしまうわ」


 エステルが心配そうに言う。この国では女児に生まれた子供は結婚することが幸せだと思われているから。


「じゃあエステルがもらってくれる?」

「馬鹿ねぇ」


 呆れたように、でも優しい瞳で。


「──それなら俺がもらってあげてもいいけど?」


 両手を後頭部に置きながら呑気にアレクは呟いた。突然の爆弾発言に驚きを隠せない。


「え? 冗談でも絶対嫌よ。貴方侯爵家じゃない」


 侯爵夫人だなんてとっても大変なのだ。茶会やパーティーは主催者側になってしまうし、その位の爵位だと、夫は国の中枢の中でも皇帝陛下の側近だったりして多忙なのだ。


(お父様がそうだったもの)


 イザークお父様は騎士団長だったが、それでも書類仕事は膨大で。いつも書斎で丸眼鏡をクイッとしながら唸っていた。


 結婚する気はないが、もしするならのんびりまったり家族団欒が出来る程度の余裕がある家庭を持ちたい。


「アレクは爵位が高すぎてお断り」

「侯爵家と言ったって伯爵家と同じようなもんよ。俺の家、侯爵家の中では貧乏だもん」


 謙遜である。ヴィルタ侯爵家の所領には貴重な鉱石の採れる山がある。宝石にも、機械にも使えるものだ。


「それに、私の家は伯爵家。公爵家のご令嬢でも迎えなさいよ」

「んー家の爵位が高すぎると大人しすぎて話していてもつまらん」


 するとエステルの眉がぴくぴく動いた。


「他の令嬢に失礼だわ。だから貴方も婚約者出来ないのよ。侯爵家の嫡男なのに嫁ぎたいって思えないダメ男だもの」


 辛烈バッサリ言い切った。


「うっわひっどいなぁ。レーゼもそう思わないか?」

「いいえ、私はエステルの意見にさんせーい。ピシッとしていれば顔は整っているし、好青年なのよ」

 

 高身長だし。やはり侯爵家の息子だけあってきちんとした場では言葉遣いは丁寧で、所作も綺麗なのだ。普段がだらしないだけである。


「学園には貴族だけでなく、庶民も入学してくるから新しい出会いが沢山だわ! アレクも一目惚れする令嬢が現れるんじゃない?」


(彼が伴侶に選ぶ子はどんな人かしら)


 先程アレクも言った通り、大人しい令嬢ではなくて、活発で歯に衣着せぬ言い方ができてアレクと対等に渡り合える人だろう。


 考えるだけで楽しみだ。


「あっちょっと何するのよ!」


 にこにこしていると、アレクの手が伸びてきて。遅刻ギリギリまで整えていた髪をぐしゃぐしゃにされる。


「そっちの方がお似合いだよ」


 はっと揶揄われ、カチンときた私が怒りのままに彼をポカポカ叩きつつ、教室に辿り着いたのだった。


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