チー牛は小さな勇気を持つ
路地を5分ほど進んだ真の前に突如として現れたのは、西洋風の立派な木製のドアだった。ドアの上には洒落たウォールランプが暖かなオレンジ色の灯りを煌々と放っている。
ドアの傍にはずんぐりとした番犬らしき真っ黒なゴールデンレトリバーが眠っていて、マコトの足音に一瞬ぱちりと片目を開いて何者であるかを確認したが、真が怪しい者ではないと知るとすぐにまた眠り始めた。
一瞬民家の前まで来てしまったと思い引き返そうとしたが、よく見ると木製のドアには『OPEN』と書かれたプレートが掲げられている。
驚いた真はスマートフォンを取り出してマップで現在位置を調べてみたが、特に目の前の建物に関する店名や情報などは記載されていなかった。
「おいおい、マジかよ…」
ネットに引っかからない、看板のない店という点で和田の言っていた特徴と一致していたが、此処がその『不思議な質屋』であるという確証は持てない。だが『OPEN』と書かれたプレートが掲げられていて、表札やポストなどがない時点で民家ではないことは確かだ。
ここでそのまま踵を返してしまえば、ずっと何の店だったのか夜も気になって眠れないかもしれないと思うと、ここで確かめてしまえという気持ちが沸き起こった。
もしかしたら今流行りの隠れ家的なレストランなのかもしれない。間違えたら間違えたで、素直に謝って扉を閉じよう。
黒い犬を横目に真は意を決してドアノブに手をかけると、そっと扉を開いたのだった。