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彩夢屋へようこそ~どんなくだらない願いも叶えます~  作者: みずひらみなと
プロローグ
2/11

チー牛は徘徊する

「まこっちさー、僕この前すげぇ変な店の話を聞いたのでありますよ」


真が大学の学食で昼食をとっていると、同じアイドルアニメ研究会のメンバーの和田わだが突然妙な話題を振ってきた。


「変な店ぇ?」


「ええ、この大学の近くにですねぇ、どんな願い事も叶えてくれる質屋しちやがあるらしいのですよ。まぁワタクシも信じられないのですが」


脂ぎった体躯をプリンのようにぷるぷる震わせながら、和田は興奮気味に話す。


当然だがこの男の容姿も真同様、モテる男子の部類には入らない。


真は定食のコロッケを箸で割りながら眉をひそめた。子供の頃から占いだのオカルトだのはあまり興味がわかない性質たちだった。


「ふーん。どんな願い事も叶えてくれる質屋さん、ねぇ…」


「いやワタクシも噂程度の認識ですがね…」


和田が話してくれた怪しいお店の詳細というのはこうだ。


自分達が通う明光大学の付近のどこかに『どんな願い事もかなえてくれる質屋』がある。その名も『彩夢屋あやめや


普通質屋とは金目の物を質草しちぐさとして預けてお金を借りることができる店のことだが、その店は金を貸すのではなく『顧客の願いを叶えてくれる』のだそうだ。


ただし、願いを叶えて貰うには高級な物品を預けるのではなく、自分が叶えてほしい願いと『同じ位大切な何かを犠牲にする』必要がある。


インターネットで店名を検索しても引っかかることはなく、店には看板が掲げられていない。


「…という話をオカルト板で読んだのであります。具体的な店の場所とかは、あっしも知りもは~ん」


「なんだよ。情報がアバウトすぎんだろ。肝心の場所が分かんねーと、行きようがねーじゃん」


話の内容からして明らかにデマか作り話の類に思われたので、和田をうさん臭そうな眼差しで見つめる。


「おほ、興味があまり御有りでない? ま、今のは都市伝説だと思ってくだされ…」


和田は真が食いつかない事を悟ると残念そうにうなだれて、冷めたうどんをズズゥとすすり始めた。


その日の夕方、真は五限目の授業を終えるとそのまま家路につこうとしたが、構内で手をつないで楽しそうに歩くカップルの姿を見たとたん、どうしても真っすぐに帰る気が失せてしまった。


どうせ家に帰っても飯を食って風呂に入ってネトゲやってシコった後に眠るだけだろう。昨日と全く同じパターンの生活をするのは少々気が引けた。


真はふと、昼に和田が話してくれた「不思議な質屋」の話を思いだした。


そうだ。散歩がてら、『その怪しい』とやらを探してみよう。手掛かりは『看板がない』ことと『彩夢屋』という名前だけだが。一時間たって見つからなければ、あの話は都市伝説だったと思ってそのまま帰ってしまえばいい。


よく考えるより先に行動に移してしまうのがこの青年の長所であり、短所でもあった。


しかし、かれこれ一時間スマートフォンのマップを頼りに大学の周辺をうろつきまわった真だったが、雑居ビルや飲食店ばかりでそれらしい感じの店は一向に見つからなかった。


西日がアスファルトを強く照らし、汗がとめどなく流れ落ちた。


俺は何をしているのだろう…


急に馬鹿らしくなり、和田の話なんぞ真に受けるべきではなかったと真は若干後悔した。


気晴らしにお気に入りのアイドルアニメのキャラソンでも聞きながら帰ろうと思い、ポケットから取り出したワイヤレスイヤホンを耳に装着しようとしたところ、ふと視線の先に細い路地があることに気が付いた。


何気なしに近づいて覗いてみると、埃とカビとコンクリートが混ざったようなにおいが鼻をつく。どうやら路地はかなり奥の方まで続いているらしかった。


この先はどの道に続いているのだろう。


もしかすると、この路地は駅に出る道に通じていて大学から駅への道の近道になるかもしれない。


よし進んでみよう。行けばわかるさと決心し、真は好奇心の赴くまま薄暗い路地に足を踏み入れたのだった。

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