チー牛は涙を流す
気が付くと真っ白な蛍光灯の灯りが目についた。自分の周りが淡い緑色のカーテンで覆われている。
鼻につく薬品の香り…どうやらここは病院らしいという事が段々と分かってきた。
「あ、真さん!よかった!やっと目が覚めたんですね!」
声の方向に目をやると、ベッドの傍らに陽菜乃がスマイル満開で丸椅子に座っていてぎょっとする。
驚いてのけぞろうとするが、体が金縛りにあったように全く動く事ができなかった。
「真さん、三日間もずーっと眠っていたんですよ。私、もう心配で心配で…あ、そうだ。先ほど看護師の方がお食事を運んでくれましたよ。召し上がりますか?」
陽菜乃は真の承諾を待たずに、お椀にはいった粥を蓮華で救うと、ふぅふぅうと可愛らしく息を吹きかけて真の口元まで持ってきた。
「はい、真さん。あーんして♪」
「あ…う…」
声に出して拒否しようとするが、声帯が接着剤で固められたように動かなかった。
仕方なく口に入ってきた粥を咀嚼しようとしたが、顎の筋肉が全く動かず、ほとんどをだらりと口元からこぼしてしまう。
「あらあら、赤ちゃんみたいに…あ、そうだ♡」
陽菜乃は零れ落ちた粥を拭き終えると、蓮華に入った粥を自らの口に運び、数回咀嚼すると真に口移しで流し込んだ。
米特有の甘みと、ほんのりとした唾液の味に真は思わず吐き出しそうになるが、何をされるか分からないので頑張って何とか飲み干した。
「うん。ちゃんとごっくんできで偉い!真さんはなんでもやれば出来る人です!」
陽菜乃は胸の前で小さくぱちぱちと拍手をすると、お椀の粥が全て亡くなるまで口移しを繰り返した。
食事が終わると陽菜乃は真の耳元に近づき、こしょこしょ声で囁いた。
「真さんは今、全身を動かすことができません。お医者様は原因不明だって言ってましたが、一生治ることはないでしょう…
でも大丈夫ですよ。私が真さんのお世話をします。
お食事やお風呂、トイレも全部私に任せてください。えっちな気分になったら私が口や手でシて差し上げますね…♡
もう真さんは私のものですから」
真の両目から、涙がツツーッと零れ落ちた。