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俺だけの幼なじみ ―ヴィクター

「サリー嬢の妹が入学してきたって。見た?」

「見た。なんか、サリー嬢と全然違うタイプ」

「かわいい?」

「かわいい。けど、なんかふつーっぽい」


 教室の後ろで話す男共の声が耳に入ってくる。

 全く分かっていない、リリーの可愛さを。

 別に、分からなくていいけれど。


「ふつーだけど、すごいかわいい。清楚清楚。俺タイプ」


 は?何言ってんの?

 何、タイプとか言ってんの??

 何様の分際で??

 リリーをかわいいって言っていいの俺だけなんですけど???





 幼なじみのサリー・フローレスは、学園一の才媛だ。

 高嶺の花サリーの妹が入学してきた…ということで、入学早々、二つ年下のリリー・フローレスは密かに注目を浴びていた。


 リリーを、ふつうとか言うな。

 勝手にかわいいなんて言うな。

 てか見るな。リリーを見るな。


 俺にとってリリーは、物心ついた時からもう「特別」だった。

 生まれながらにしての天才・サリーと同い年の俺は、なにかにつけてサリーと較べられることが多かった。大人達に悪意なんてなかったことは、今なら分かる。けれど幼い俺は、サリーと並べられる度に落ち込んだ。いつも悔しがった。やさぐれていた。大層面倒くさい子供だっただろう。

 そんな面倒くさい俺の癒しが、サリーの妹リリーだった。

 彼女はいつの間にか俺を見つけては「ヴィクター待って」と、よたよたついて来た。拗ねて隠れていても、悔しくて部屋で泣いていても、「ヴィクターここにいた」と傍までやって来るのだ。

 そして俺のやることすべてに、他意の無い澄んだ目で「すごいねえ」と感動するのだ。

 自身も、サリーの妹として較べられることがあるだろうに。リリーは小さな頃から、そんな女の子だった。


 甘いご褒美のようなリリー。リリーの「すごい」が聞きたくて、何事にもがむしゃらに取り組んだ。成果を出す度に、リリーは「すごいね」と笑ってくれる。そのうち俺はリリーにとって「すごい男」でありたいと思うようになった。

 リリーこそが原動力。俺のすべて。リリーがいなければ俺はたちまち使いものにならなくなるだろう。俺はなんてチョロい男なのだと我ながら笑えてしまう。


 入学式の日。

 リリーの制服姿を見て、俺の中のなにかが弾けた。一言で言うと、可愛すぎたのだ。白と水色の制服がリリーの淡い色彩にマッチして、妖精かなにかのようだった。

 こんな甘い妖精が学園にいては、男共が放っておかないだろう。いつ横からさらわれてしまうか分からない。俺は焦った。今までただの幼なじみでいた自分に、とてつもなく腹が立った。

 これまでの関係を変えたいと、強く心に決めたのだ。


 なのに、リリーが入学してからというもの、リリーからは徹底的に逃げられている。

 廊下で声をかけるとそそくさと逃げられる。

 教室に会いに行っても隠れて出てこない。

 会えない、話せない、リリーが遠い。

 リリーに避けられ続ける日々は俺のHPをどんどん削っていった。





「ヴィクター。かわいいかわいいリリーちゃんはどうだ?学園でもかわいいかい?」


 朝食の最中。父が何気なく俺をからかう。リリーがかわいいのは紛れもない事実なので「当然。天使ですよ」と返した。若干、父が引いているのは気付かないふりをしておく。

 両親達は、俺の気持ちなどお見通しだ。むしろ、俺の気持ちに気付いていないのはリリー本人だけかもしれない。


「……学園にはリリーをよこしまな気持ちで見る奴が多すぎる。リリーを隔離しながら歩きたい。ここ数年、リリーに近寄る男が多すぎると思わない??……入学以来避けられているし…そろそろ俺は限界なんだけど。

 早くリリーと婚約したい……リリーを俺だけのものだって言いふらしたい、公的に」


 フォークを握る手に力がこもる。


「ヴィクター、待った。落ち着きなさい。婚約の話は、リリーちゃんの心を射止めてからと、言っただろう。

 お前のことだから毎日リリーちゃんと会ってると思ってたんだが…避けられてるって…なぜそんなことになってる?」


「…………」


 なぜ避けられているか。

 そんなもの、俺が聞きたい。

 でもリリーの口から「ヴィクターと会いたくないから」とか言われたら、きっと俺は生ける屍と化してしまう。


「そうだな……星の日、フローレス家に集まる予定を立てているんだが…ヴィクターも行くかい」

「行きます」


 俺は即答した。渡りに船とはこのことである。





 当日もサリーと教室へ迎えに行ったら逃げられ軽くダメージを負ったが、フローレス家で久しぶりにリリーと会えて、そんなものどうでも良くなってしまった。

 親達が気を遣ってくれて、俺とリリーは応接室に二人きり。渇いていた心がみるみるうちに潤っていくのが分かる。

 どさくさに紛れてランチの約束もしてしまったし、上目遣いが可愛すぎるリリーに思わず触れてしまった。待ち合わせって。もう実質恋人ではないだろうか?


 ふわふわの淡いブラウンの髪。リリーの甘い香り。ビー玉のような、澄んだグレーの瞳。髪に触れたら恥ずかしそうにそわそわする姿が愛しい。もう……もう、一生、腕のなかに閉じ込めておきたい。


 俺は、リリーとずっと一緒にいたい。

 星に願う。





『リリー・フローレスとずっと一緒にいられますように』


 ただそれだけを。




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