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彼の願い事、私の願い事


「皆さーん。今夜行う魔術は……『星の魔術』です」

「「「はーい」」」

 親達が、間の抜けた返事をした。



 中庭には円形のテーブルが設置されており、二組の夫婦とサリー姉様、ヴィクター、そして私が、ぐるりと輪になって着席している。

 今日の魔術を取り仕切るのはアルバートおじ様だった。おじ様が、少し演技がかった声で引き続き説明を始める。皆静かに耳を傾けていて、とってもいい子達である。


「この魔術では……なんと! ひとつだけ願いを叶えることができるのです」


 えっ!願いが叶う!?すごい。さすが王立図書館蔵。おじ様は心なしか得意気だ。


「はい! 質問です」

 クリスティンおば様が可愛らしく手を上げている。

「願いが叶うのは一人ひとつ? それとも、この七人で、ひとつ?」

「本当なら一人ひとつ、願いが叶うといいんだけれどね……文献には『願いが叶うのはひとつだけ』としか、記述が無いんだ。

 皆の願いが叶うかもしれないし、この場でひとつだけなのかもしれない。やってみなければわからない」


 なるほど……。自分の願いが叶うとは限らないのか。


「そして。魔術を始める前に、皆さんに守ってもらいたい約束があります。

 ひとつ目。願い事は、他言しないこと。なので、願い事を話し合って決めたり、共有することはできません。

 ふたつ目。自分の願いが叶っても、それも口に出してはなりません。他言したことになってしまいますので。

 みっつ目。幸せになるために願うこと。負の願いは絶対に叶いません。

 魔術書には『制約を守らなければ、魔術は無効となるだろう』とある。いいですか??」


 皆、顔を見合わせながら頷いている。


「あと、願い事はささやかなものにしてね。同好会レベルの。あまりにも壮大な願い事とか、犯罪になるようなことは願わないでね。万が一成功したら困っちゃうからね?いい?わかった??」

「「「はーい」」」


 皆元気よく返事をした。





 おじ様は、しばらく願い事を考える時間を設けてくれた。

 いざ何を願う?髪がもっとサラサラになりますように?もっと頭がよくなりますように?素敵な人と出会えますように?…………

 あれこれ悩んでみるけれど、私にはちょうどいい願い事がなかなか思い浮かばなかった。

 これで頭が良くなってもちょっとズルい気がするし……素敵な出会いを願ってみる?でも姉様とヴィクターを見慣れている私には、彼ら以上の素敵な人が想像出来ない。

 サラサラヘアになるのが、いちばん現実的な願いかな……


 皆は、この星の日に何を願うのだろうか。

 サリー姉様は。ヴィクターは。

 やっぱり、願い事のレベルも違うのだろうか。

 ふと隣に視線を移すと、ヴィクターと目が合った。


「ヴィクターは、決まった?願い事」

「うん」早!

「えっ どんな?」

「教えないよ。父さんが他言ダメって言ってたでしょ」


 そうだった……。他言すると失敗してしまうと、説明あったな。もう忘れていた。


「ずっと、望んでることがあるんだ」


 ヴィクターがきっぱりと言い切った。

 意外だった。天から二物も三物も与えられた万能選手のようなヴィクターに、まだ強く望むことがあるということが。

 約十六年も幼なじみとして過ごしてきたけれど、ヴィクターの「願い」が何か見当もつかなくて……彼の澄んだ瞳を見ていると、心がざわついた。


 よし決めた。私の願い事。





「皆さーん。願い事は決まりましたか?」

「「「はーい」」」


 皆が願いについて悩んでいる間に、おじ様が魔術の準備を進めてくれていた。

 丸テーブルには魔方陣のようなものが描かれており、真ん中に銀色の大きなキャンドルが灯されている。

 各々の前には星の明かりを映す小さなグラスが置かれた。グラスの中は水だろうか?わずかにレモンのような爽やかな香りがする。


「なんだか……どきどきするわね」

 ふふふ と、お母様とおば様が笑っている。


「前に置いたグラスを見てください。それは神殿で祈りを捧げてもらった神聖な水です。それを飲み干したあと、テーブルの上で手を組み、皆で願いましょう」


 なるほど。



「じゃあ、せーの、でやる?」

「そうしよう」

「「「せーの、」」」


 私たちはグラスの液体をぐいーっと一気に飲み干した。

 そして、誰からともなく手を組み、瞳を閉じて願い始める。見渡せば、私が最後の1人のようだった。

 私も急いで目を閉じ、手を組み、願いを込める。





『どうか、ヴィクター・グローヴァーの願いが叶いますように』と。









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