↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の日の願い事 ―星と魔術と、二人の彼―  作者: 小桜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/30

おぼろげな記憶



 目を開けると、そこには見慣れた天井があった。



 私は起き上がり、辺りを見回した。

 クリーム色のカーテン、グリーンの絨毯、そして淡いイエローのベッド。

 ここは、自室のベッドだ。おかしい。私、さっきまで学園にいたはず。

 今日は姉様が学園を休んで、それは私の噂のせいだった。そして姉様を心配したパトリシア様に呼び止められて……

 皆が見ている前で、ヴィクターから好きだと告げられた。



 私は再びベッドに沈んだ。

 あのことを思い出しただけで頭が爆発しそうになる。浮上出来そうにない。

 私の手をとり、「恋人になって」と目の前に迫ったヴィクターの顔が浮かぶ。真剣な顔だった。彼も緊張していた。本気なのだと分かった。

 私はベッド上でのたうち回る。


 だけど、なぜ私はここにいるんだろう?服も、ちゃんとゆったりとしたワンピースに着替えられていた。

 サイドボードには「少し席を外します」と、アンの書き置きがある。アンが着替えさせてくれたのだろうか。


 ……。全部夢だったのだろうか??


 うん、すごい夢感がある。あんな大勢の前であんな派手な告白、流石のヴィクターでもしないだろう。うん、無い。私の隠れた願望なのかもしれない。夢なら夢で、そんな夢を見た自分が少し恥ずかしい。そもそも、学校から家までどうやって移動したというのだ。


 脳内の全私は、あれは夢だった、と決定を下した。

 うんうんと頷いてみたらなんとか正気に戻って、がばりと起き上がって窓を見る。

 空は夕焼け、もう学校は終わっているようだった。


 廊下から足音が聞こえる。少し早歩きなこの音は、アンのものだ。

 ガチャリとドアを開けて、水差しを持ったアンが入ってきた。続けてお母様も来てくださったようだった。


「お母様、アン」

「お嬢様!! お気づきになられましたか!」

「リリー! もう起きて大丈夫?無理しないでいいのよ?」


 パタパタと私の傍までやって来たお母様とアンは、少し大げさなくらいに心配してみせた。


「ええ、まったく大丈夫なの。なぜこんなことになっているのか分からないくらい」

「もう、サリーお嬢様がお部屋に籠りきりに……と思ったらリリーお嬢様までお倒れになるんですから! 皆様心配したんですよ」


 私が倒れた?


「倒れたって、学園で??」

「……もしかして覚えていないのかしら」


 覚えていない?

 私の直近の記憶は、間近で見たヴィクターのせつな顔だ。脳内会議で夢だと判断したけれど。


「ヴィクター達が、あなたが起きたら会いたいって言っていたの。呼んでくるわね」


 えっ。

 待って。お母様待って。


「だ、だめ…………!!」


 思わずお母様を呼び止めた。だって、心の準備が全然出来てない。お母様は目を点にして、真っ赤な顔の私を眺めると、穏やかな顔でくすりと笑った。


「とても心配していたの。会ってあげて」


 お母様は私の髪を優しい手つきで一撫ですると、私の部屋を出ていった。


 どうしたら。とりあえず、私は心の準備をしようとした。ヴィクターのあの顔を、脳内から消去しようと頑張ったのだ。でも駄目だ。忘れようとすればするほど、考えてしまう……。むしろはっきりと思い出してしまう。


「百面相ですね」


 アンがからかう。お母様もアンも、どこか訳知り顔なのは何なんだろう。



 間も無く、扉がノックされた。

 入ってきたのは、少し目元の赤いサリー姉様と右頬が少し赤いヴィクター、そして涙目のヴィクターだった。


「「リリー……!」」

 ヴィクター二人がベッドまで駆け寄ってきた。


「よかった、意識が戻って本当によかった……」

「このまま目が覚めなかったらどうしようかと……」


 二人ともおおげさである。


 ヴィクター達の後ろで、サリー姉様が眉を下げてクスクスと笑った。目元に赤みは残っているものの、昨日よりはずいぶん元気そうだ。私は胸を撫で下ろす。


「リリーが寝ている間、けっこう大変だったのよ。家にいたヴィクターが、学校から帰ってきたヴィクターを殴っちゃって」

「ええっ!?」

「告白をしたヴィクターが意識の無いリリーをつれて帰ってきたの。それを見たうちのヴィクターはもう大激怒よ。なんでそんな告白を、って。そして一発、がつん!」


 私は、思考が停止した。

 ちょっと、情報量が多すぎて処理しきれない。


「ごめん、リリー。あの時は我慢できなくて……」

 右頬を赤く腫らしたヴィクターが、頭を下げた。


「こいつ、あんな勢いで告白を……リリーが困るに決まってるのに……」

 殴ったヴィクターは、心配そうに私の手を取った。


「ちょっと、待って」


 三人が、一斉に私を見る。


「告白とか、夢では?」



 自室が静まり返る。



「夢って……なに?」

 逆に、姉様が私にむかって問いかける。


「俺は裏庭でリリーに告白したよ。困ったリリーは、意識を失って倒れたんだ」

 告白をしたらしいヴィクターが説明してくれた。


「こいつが、意識を失ったリリーを抱き抱えて帰ってきたんだ……心臓が止まるかと思った」

 うちにいたヴィクターは、私の手を握る指に力を込めた。


 そうなんだ……よく分かりました。

 あの観衆の中ヴィクターに告白されて頭がついていけなくて、意識を失ったという私の失態が。

 夢ではなかった。あの真剣な顔も、甘く懇願する声も、夢ではなかった。


「わ……わかった。あれは現実だったということね……」

「「そう、現実」」

「だから、リリーもちゃんとお返事しないとね」


 姉様が、可愛くからかった。

 そう……あれが現実なら、ちゃんとヴィクターに返事をしないと……

 返事。私の気持ち。ちゃんと。


 三人が、じっと私を見つめている。

 部屋中が、風で波打つカーテンさえもが、私の言葉を待っている気がする。



「……私も、ヴィクターが好き」

「っリリー!!」

「本当に!?」


 ヴィクター達が一斉に立ち上がった。

 二人がかりで私に抱きつこうとする彼らに、私は急いで言葉を続けた。


「っで、でも! 今は恋人になれない!!!」


 ヴィクター達が私に向かって延ばす手をぴたりと止める。


「「な……なぜ…………」」


 彼らは天国から地獄に落とされたような顔で私を見る。


「ヴィクター、二人でしょう?私、平等に付き合う自信が無いの。このまま恋人になっても、二人が揉める気がするわ」

「「……そんなこと……。……。…………」」

 二人は一生懸命思案しているようだ。


「……そんなこと、大いにあるわね」

 姉様が腕を組み、大きく頷いた。


 現に、片方がランチした・片方が手を握ったというレベルで嫉妬している彼ら。今回に至っては告白したヴィクターをもう一方のヴィクターが殴ってしまっている。

 恋人となれば抱き合ったり、キ……キスしたり……するでしょう。その度に大喧嘩になるのでは……?

 知らぬうちに顔が青ざめていた私を、姉様が優しく抱き締めた。


「リリーは、ヴィクターよりよっぽど大人ね。ヴィクター、リリーを怖がらせたい訳じゃないんでしょう?」


「……でも」

「せっかくリリーに想いが通じたのに」

 ヴィクター達は、まだ納得できないようだった。それぞれがお互いを睨み合っている。


「あの……、」

 私も、意地悪をしている訳じゃない。

 ヴィクターのことを好きなのだ。頭が沸騰して気を失うくらいには。


「ヴィクター、もし元に戻れたら……その時はちゃんと、私を恋人にして?」



 ……私、恥ずかしいことを言ったぞ。

 顔が上げられない。恥ずかしすぎて直視できなくて……チラリとヴィクター達を見上げると、二人とも両手で顔を覆い悶絶していた。姉様がクックッと笑いまくっている。


「……絶対、絶対だよ」

「元に戻ったら、絶対俺の恋人になってよね……」

「それまで、他の男を好きになったりしたら駄目だからね!」

「いい!? 絶対の約束だからね!!」



 怒涛の捨て台詞を残し、ヴィクター達は部屋を後にした。


「……リリーのことになるとまるで子供ね」

 サリー姉様が、ぽつりと呟いた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。