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性転換薬パニック!

作者: 神崎理恵子

■ 性転換薬その1 ■


「社長、出来ましたよ!」

 と叫びながら社長室に飛び込んで来た女性がいる。

 一見医者のような白いユニフォームを着込んでいるが、うちの会社で雇っている薬剤師の資格を持つ研究員の一人だ。

 手には液体の入った瓶を持っている。

「何だどうした? 何ができたんだ?」

「性転換薬ですよ。社長がご命令なされた薬が完成しました」

「それは、本当か?」

「はい。動物実験でチンパンジーのレベルまで、効果が実証されています。次は、人体への臨床実験に移行します。それでご報告に参った次第です」

「そうか……とうとう臨験までこぎつけたのか。よくやった」

「しかし、困っているんです」

「困る?」

「臨験を実施する相手がいないんです」

「そうだろうなあ……。癌の特効薬とかいうのなら、いくらでも臨験を願い出る末期患者がいるのだが……。性転換となると……」

「どうしましょうか?」

 じっとわたしの顔を見つめる研究員。

「ま、まさか……。私に実験台になれというんじゃないだろな」

「他にいないんです。このわたしはすでに主人も子供もいます。後は社長だけなんです。しかもこの薬は6時間の有効期限しかないんです」

「わ、判ったよ。実験台になればいいんだろ。私もこれまでに多くの男性を女性にする性転換手術をしてきた。その中には本人の承諾なしに無理矢理行ったのもある。まあ、罪滅ぼしのつもりで、女性になってみるのもいいかも知れない」

 私は、性転換薬の実験台になることにしたのだった。


「それでは、注射しますよ」

 袖を捲くった私の腕に、その研究員は性転換薬の入った注射をそっと差し込んだ。


 性転換薬が私の血管の中へ注がれていく。

 どくどくどく。

 鼓動が激しくなるのを感じていた。

 緊張感は最高潮に達していた。

 もはや元の男には戻れない。

 そんな複雑な思いが駆け巡る。


「終わりました。効果は眠っている間に起きるでしょう。明日の朝にはびっくりしますよ。これまでになかった豊かな乳房が出現し、男性性器は女性性器に変身して、女の喜びを満悦することもできます」

 注射器をしまいながら、解説する研究者だった。

「明日の朝か、そんなに早くに性転換できるのか?」

「はい、もちろんです」

「わかった」


 というわけで、その日の夜となった。

 性転換薬が効果を現し始めたのか、お腹の中がおかしい。まるで腸捻転になったような感じだ。おそらく身体の中の前立腺などの男性性器が、子宮や膣などの女性性器に変身をはじめたせいであろう。

 それに何と言っても、股間が……睾丸が激しく痛むのだ。

 女性ホルモンを飲用し始めた男性が、睾丸の痛みを訴えるのはよくある症状だ。

 女性ホルモンは、男性の機能である精子を生産する組織を破壊する。それが痛みの原因だ。

 この時点で、男性としての機能はすでに失われたと言ってもいいだろう。


 ともかく明日の朝を迎えるべく床に入ることにする。

 すべては明日の朝に、生まれ変わる。



 そして朝となった。

 すごい寝汗だった。

 額の汗を拭おうと腕を動かすと、胸に異様な感覚を覚えた。

「もしかしたら……」

 起き上がり、パジャマを脱いで見る。

 そこにはまさしく豊かな乳房があったのである。

「ほんとうだ。研究員の言うとおりに一晩で乳房が膨らんだ」

 両手で、そっと乳房を触ってみる。

 ぷるるん。

 弾力のある乳腺の感覚が手のひらにあった。

 もちろん手が触れている乳房自体にも言いようのない感覚が伝わっている。

「これが女性の乳房か……」

 感激的であった。

 豊胸手術を受けたMTFの人々。もちろん純女性もそうであろう。

「それから……」

 私は、もっと肝心な部分を調べることにした。

 それがなければ、いくら豊かな乳房があっても無意味なことであった。

 パジャマのズボンの中へ手を入れ、さらにパンツをまさぐった。

 股間にあり、朝には元気にしていることもある男性の物。

 しかし、それは影も形も消えうせていた。

「なくなっているな……」

「どうやら下側も無事に変身したようだな」

 私は全身の姿が見たくなって、ベッドを降りて風呂場へ向かうことにした。

 そこの脱衣所には全身を写せる鏡があるからだ。

 服を全部脱いで、自分自身を脱衣所の鏡に映した。


 男を魅惑してやまない豊かな乳房。

 茂みの奥に隠された秘境は、女の最後の砦であり武器でもある。

 女性としての機能は完璧に果たすことができる身体がそこにあった。


 しかし……。


「おい。ちょっと待てよ」

 確かに乳房も女性性器もあるが、骨格も筋肉も、そして肝心な顔は男性そのままだったのである。

 想像してくれたまえ。

 筋骨隆々とした体躯に、たとえ乳房や女性器があっても、女性として生活できると思うか?


 これじゃあ、パロディーじゃないか!



■ 性転換薬その2 ■


「社長、出来ましたよ!」

 と叫びながら社長室に飛び込んで来た女性がいる。

 一見医者のような白いユニフォームを着込んでいるが、うちの会社で雇っている薬剤師の資格を持つ研究員の一人だ。

 手には液体の入った瓶を持っている。

「何だどうした? 何ができたんだ?」

「性転換薬ですよ。社長がご命令なされた薬が完成しました」

「それは、本当か?」

「はい。動物実験でチンパンジーのレベルまで、効果が実証されています。次は、人体への臨床実験に移行します。それでご報告に参った次第です」

「そうか……とうとう臨験までこぎつけたのか。よくやった」

「しかし、困っているんです」

「困る?」

「臨験を実施する相手がいないんです」

「そうだろうなあ……。癌の特効薬とかいうのなら、いくらでも臨験を願い出る末期患者がいるのだが……。性転換となると……」

「どうしましょうか?」

 じっとわたしの顔を見つめる研究員。

「いいだろう。私が実験台になろう」

「あ、ありがとうございます」

「ところで脇にあるベビーカーだが……。子供を連れてきているのか」

「え? あ、はい」

「まあ、連れてくるなとは言わないがね」

「実は……」

 もじもじと言いにくそうにしている。

 何かありそうな雰囲気だった。

「なんだね? 何かあるのか?」

「チンパンジーの動物実感で成功しましたので、次は人間だと思いました」

「だろうなあ。類人猿まできたら後は人間をと考えるのは自然だ」

「そんな時に、一緒に連れてきていた自分の赤ちゃんが目に止まりました」

「おいおい。まさか赤ん坊に性転換薬を使ったのか? それも自分の」

「実は、そうなんです」

「ほんとかよ」

「女の子がどうしても欲しかったんです。でも産まれたのは男の子でした。それでつい魔が差して」

「なんてことを……いくら魔が差したって言ってもなあ……、それでどうなった?」

「成功はしました。素敵な女性に生まれ変わりました」

「ほう……良かったじゃないか」

「ええ……とっても素敵な女性です」

「なんか、奥歯に物が挟まったような言い方だな。何かあるのか?」

「ご覧になっていただければ判ります」

 と言って、ベビーカーの中で眠る赤ん坊を覆っている掛け布をはずした。

「ほう……確かに、とっても素敵な女性だな」

 そう、そこに眠っているのはまぎれもなく素敵な女性だった。

 豊かな乳房。

 きゅっとくびれたウェストからヒップにかけてのなだらかなボディーラインは、まさに理想的な女性像だ。

 これが大人だったら、誰しもが生唾を飲むような超美人だ。

 しかし、体長六十余センチのミニチュア美人だ。

「三ヶ月だったよな」

「はい。薬が効きすぎました」

「みたいだな。その性転換薬使って戻せないのか」

「これは男性から女性への変換にしか効かないのです。手術で元に戻せませんか?」

「こんな小さな赤ん坊じゃ不可能だよ。もっと大きくなってからじゃないと」

「はあ……やっぱりですか」

 研究員も私も、ただ黙って赤ん坊を見つめていた。


 ほんとにこれが大人だったら良かったのに……。



■ 性転換薬その2.1 ■


「社長! 性転換薬ができました」

 先日、三ヶ月の息子を見目麗しき美貌の女性にしてしまった研究員が飛び込んできた。今日も、ベビーカーを押してきている。

「おいおい、まだ懲りていないのか。その子が見世物になるようなミニチュア美人になったのも、君のあさはかさと薬の利きすぎだろう」

「今度は、女性を男性に変える性転換薬なんです」

「女性から男性だと?」

「はい、その通りです」

「おい! 念のために聞いておくが、またその子を実験台に使ったんじゃないだろうな?」

「その通りです」

「おまえなあ……よくもまあ、自分の子供をそうも簡単に……」

「だって、前のままじゃ、人前にも出られず、あまりにも可愛そうです」

「で、元通りになったのか?」

「どうぞ、ご覧になりますか」

「見せてもらおうか」

 研究員は、ベビーカーで眠る赤ん坊の掛け毛布を取り去って見せてくれた。

 豊かな乳房と絶妙なボディーラインを持ったミニチュア美人ではなかった。

 どこにでも見られるようなあどけない寝顔をしたごく普通の赤ん坊だった。


 おや?


「ところで……やけにおしめが大きく膨らんでいるように見えるが……」

「あ、やっぱり気づきました?」

「気づくだろう。これだけ大きければな」

「見てみます?」

「いや、よしておこう」


 見なくても想像はつくさ……。


 たんたんタヌキ……。



■ 女子高生になれる薬 ■


「社長! 新薬ができました」

 いつもながら脈略もなく登場する研究員。

「また、君か……。今度は何ができたんだ」

「はい。女子高生になれる薬です」

「女子高生になれる薬?」

 これはまた突拍子もない内容だ。

 その効能は名前の通りなのだろう。

 それにしても……。


 女子高生になれる薬


 ……とはな。

 いくらなんでも信じがたい。

「それで誰かに試してもらったのか? 動物実験は?」

「いいえ。これだけは動物実験もできませんし、身近にも女子高生になりたいという者もいませんから」

 確かに女子高生したチンパンジーってのはお笑い種なだけである。

「で……。まさか、私に被検体になってくれというんじゃないだろうな」

「ピンポン!」

「おい!」

 私は、専属の新薬の実験役じゃないぞ。

「だって他にいないじゃありませんか。どうしますか?」

 と、じっと私の顔を覗く研究員だった。

 こんな薬……、他の者に試させることなど出来るわけがないだろう。

「わ、わかった! 私が実験台になってやるよ」

「あ、ありがとうございます」


 というわけで、早速「女子高生になれる薬」なるものを、飲んでみることにする。

 その効用を実際に確認してみなければどうしようもないからである。

「それでは椅子に腰掛けてから薬を飲んでください」

「座るのか?」

「はい。これを飲むと、大脳組織に直接的に作用しますので、一時的にですがめまいが生じます」

 立っていると危険というわけか。

「判った」

 言われたとおりに社長用の椅子に深々と腰を降ろした。

「まずは、この写真をご覧ください」

「写真?」

 手渡された写真には、女子高生の制服を着た女の子が映っていた。

「この写真でどうしようというのだ」

「いえ、じっくりとご覧になってくださればいいんです。そしてその女子高生のイメージをしっかりと頭の中にインプットしてください。そのイメージが変身後の姿になります」

「なるほど、この女子高生みたいになれるというわけか」

 写真をよく見ると、その制服には見覚えがあった。

 真奈美の通っている学校の制服じゃないか。

「いいですか? 頭に入りましたか」

「大丈夫だ」

「では、薬をどうぞ」

 と言って、薬と水の入ったコップを乗せたトレーを差し出した。

 トレーから薬を取って、コップの水で胃の中に流し込む。


「何時間で効果が現れるのだ」

「胃の中で融けて吸収される成分で出来ていますから、そうですね……十分くらいです」

「そうか……」

 効果が現れるのをじっと待った。

 やがてめまいがはじまる。

 ぐるぐると天井が回りだした。

「気分が悪いぞ」

「目を閉じてください。椅子にゆったりと腰掛けて楽にしてください」

「判った」

 やがてめまいが治まってくる。

 しかし、何か変な気分だ。

「もういいでしょう。目をゆっくりと開けてください」

「判った」

 ゆっくりと目を開ける。

 さて、どんな風に変身できたのだろうか?

 緊張する一瞬であった。

 一番に目に飛び込んできた映像は、豊かに膨らんだ胸だった。

 おお!

「どうぞ、鏡で全身を映してみてください」

 社長室に置いてある姿見を正面に持ってくる研究員。

 そこにはまさしく、椅子に腰掛けてセーラー服を着込んだ可愛い女子高生がいたのであった。

 別人じゃないかと手を挙げたり、顔を横に振ってみたりするが、鏡の中の女の子はその動きにしっかりと付いてきていた。

 立ち上がって全身像を写してみる。

 なかなかスタイルもいいな。

 セーラー服を下から押し上げて膨らんでいる胸。

 きゅっとくびれた細いウエスト、そしてなだらかなラインを描いてヒップへと続くボディーは理想的なまでに魅力的だった。

 私が理想とする女子高生像がそこにあった。

 くるりと回ってみる。

 ミニスカートの裾がふわりと広がってすぐに元に戻る。

 豊かな胸は、ふるふると動きに合わせて揺れ動き、言い知れぬ感覚があった。

 じかに触ってみても確かな胸の感触があった。

「これがわたしなのか?」

「どうです。可愛い女の子になっているでしょう?」

「そうだな。しかし、いつの間にセーラー服に着替えたのだ」

「まあ、それはともかくすばらしいでしょう」

 うーん。

 研究員の態度がどこかおかしいな。

「なあ、本当に女子高生に変身しているのか?」

「そ、それは……」

 冷静になって考えてみれば、薬を飲んでから一時間と経っていないだろう。

 そんなに短時間に性転換を起こし、セーラー服に着替えさせることが、可能だろうか?

「正直に言いたまえ。もしかしたら……この姿は、ただそう見えているだけじゃないのか? この薬は性転換薬じゃなくて、大脳に働いて女子高生になっている夢を見させる薬だろう。飲む前に写真をじっくり見させたのは、夢を見るためのイメージを植えつけるためだ」

 研究員はうなだれている。

 そしてぽつりと答えた。

「は、はい。社長のおっしゃるとおりです。これは女子高生になる夢を見させる薬なんです。しっかり起きてはいますが、自分の姿のみが変身した架空の姿に見えるようになっているんです」

「やはりな」

「申し訳ありません」

 うーん。確かに実際に変身するわけではないが、気分だけでも女子高生になれるというのも、それはそれなりに便利かもしれない。性転換や女性ホルモンを飲んだりまでは考えていないけど、ごく普通の女装趣味な人々には歓迎されるだろう。

 女装するには肝心な衣服や化粧品を買い揃えなければならない。

 家族と一緒に暮らしている人々にとっては、女装は大きな障害となっている。女装用品をどうやって隠すかとか、家の中ではそうそう女装していられる時間は限られているし。家族が出かけている時とか、寝静まってからということになるだろう。

 女装趣味が、いつばれるかと日々苦悩しているわけだ。

 女装サロンとかいって、女装したまま同じ趣味の人たちと交流を広められる店もあるが、そうそう通えるわけじゃないし金も掛かる。また女装して他人には会いたくないという人には無理だ。

 しかしこの薬を飲用すれば、すべてが解消する。

 そう。

 自分の目からは女子高生の姿に見えるが、他人の目には普段と同じ。

 つまり家族と一緒に生活し、会社や学校などに通いながらも、女子高生の姿でいられるというわけだ。

 単なる自己満足かも知れないが、女装趣味の人にはそれでも嬉しいと感じるかも知れない。


 研究員はうなだれていた。

「よし。いいものを開発してくれた。感謝する」

「え?」

 顔を上げてきょとんとしている研究員。

「この薬を正式に採用しよう。製造・販売を許可する」

「ほんとうですか?」

「ああ、ほんとうだ」

「ありがとうございます」

 研究員の表情が明るくなった。

「実は……、スチュワーデスになれる薬、看護婦や女医になれる薬、婦人警官になれる薬……、とかもあるんですけど……」


 おうよ。

 どんどん、やってくれ!



■ 女子高生になれる薬2 ■


「社長! 新薬ができました」

 いつもながら脈略もなく登場する研究員。

「また、君か……。今度は何ができたんだ」

「はい。女子高生になれる薬です」

「それは、前回の薬と同じじゃないか」

「いいえ。今度のはまた違う薬です」

「どこが違うのだ」

「前の薬は自分の意識を操作して、女子高生になった気分になるものでしたが……」

「ああ、あれは結構売れに売れて、人気商品になったぞ」

「ありがとうございます。それで、今度のは皮膚にある汗腺に働いて特殊な臭いを発するようになるんです」

「特殊な臭い? あまり嗅ぎたくない感じだな」

「ちゃんと聞いてください。臭いというのは、特殊な性行動誘発フェロモンのことなのです」

「フェロモン?」

「このフェロモンを嗅いだ人間は、そのフェロモンを出している人物を女子高生だと思い込んでしまうのです」

「まさしく、前回の女子高生になれる薬の他人誘導版だな」

「フェロモンが利く範囲は、一キロメートルです」

「まるで昆虫並みだな。それじゃあ、視界にいるすべての者から、女子高生に見られるってことだな」

「その通りです」

 しばらく考えてみた。

 前回の女子高生になれる薬は、本人の意識のみを操作して女子高生になった気分をもたらした。そしてその薬は、女装趣味の人々の間に口コミで広がり、大いに売れて会社を潤してくれた。この件に関しては特別賞与を考えている。

 しかし、今回のフェロモン誘発剤に関しては、どのような利用方法があるのだろうか。

「ともかく、実際に試してみなくちゃ判らないな。私が実験台になってやろう」

 自ら進んで研究員に進言した。

「そうおっしゃると思いました」


 というわけで、早速薬を投与する。

 今回は静脈注射用の薬剤だった。

 袖を捲くった腕に、慣れた手つきで注射をする研究員。

 それから効果が現れるまでじっと待っていた。

「気分はどうですか?」

「何にも感じないな……」

「薬が効いてますよ」

「本当か? 女子高生に見えるのか?」

「嘘だと思ったら、外を出歩いてみたらいかがですか?」

「恥ずかしいじゃないか」

「大丈夫ですよ。他人には女子高生にしか見えないんだし、……その……、万が一効果が切れても元のままなんですから」

 確かに研究員の言うとおりだ。

 他人には女子高生に見えるが、本人はまったくそのままで、薬が効いていようといまいと、或いは薬の効果が切れても、元々なにも手を加えていないのだから。何の心配もいらない。

「うーん。心配ではあるが、薬の効果を確かめなくちゃいけないしな……」

 えい、ままよ!

 というわけで、社長室を出ることにした。

 廊下を歩いていると早速声を掛けられた。

「君、君、ちょっといいかな」

 常務だった。

「女の子が会社に何か用かい? セーラー服着てるとこ見ると女子高生みたいだけど、まだ授業中のはずだよね」

 冗談を言っている顔ではなかった。

 常務の目には、セーラー服を着た女子高生に見えているようだった。

「あの……。真奈美といいます。社長さんに用があってお会いしてたんです」

 とっさに知っている名前を言葉に出した。

「真奈美……。ああ、そういえば社長の知り合いにそんな名前の女の子がいたな」

「はい。その真奈美です」

「社長の知り合いならしょうがないけど、学校はさぼっちゃだめだよ。午後の授業にはまだ間に合うだろう、学校に戻りなさい」

 といって、常務の部屋へと向かっていった。

 社内を歩いていると至る所で呼び止められて、

「女子高生が会社に遊びにだめだよ」

 とお叱りの言葉を受け続けていた。

 それじゃあ、ということで、

「会社の外に出てみるか……」

 そう思ったのであるが、受付嬢のいる前を通らなければならなかった。

 今日のこの時間は、

「響子と由香里だったな」

 果たしてあの二人には、どう見えるのであろうか?

 どきどきしながら受付の前を通り過ぎる。

 できれば見つからないことを祈ったがそうもいかなかった。

「あら? ちょっと、あなた」

 先に声を掛けてきたのは響子だった。

「ねえ、こんな時間にどうしたの? まだ授業がある時間だよね」

 セーラー服姿だから当然女子高生だと思い込んでいる。

「あらら、こんな可愛い子が訪ねてくるなんて、お父さんにでも会いに来たの?」

 由香里も気づいていないようだ。

 二人の目には、完全に女子高生として映っているようであった。

 すごいな……。

 フェロモンの効果がこれ程までとは。

「はい。お弁当を忘れていったので届けに参りました」

「あら、親孝行なのね。でも、授業を抜け出しちゃいけないわね」

「これから学校に戻ります」

「そうね。気をつけて行くのよ」

 女の子らしく軽く手を振って別れの挨拶をする。


 そして会社の外へ出てきた。

 さて、どこへ行こうかな……。

 会社前にはちょっとした公園のようなものがあり、噴水の前のベンチに座り考えていると、

「ねえ、お嬢ちゃん。こんなところで何してるの?」

「まだ授業中だよね」

「いけないなあ……。おじさんが学校へ送ってあげようか?」

 と男達が声を掛けてくる。

 送り狼に変身するのだろう?

 体よく断る。

 しばらくすると、また声を掛けられる。

「ねえ、君、アイドルにならないかい?」

「そうそう、君くらい可愛かったらすぐに人気アイドルになれるよ」

「どう、すぐそこに事務所があるんだ」

 アイドルはアイドルでも、AVアイドルだろうが!

 これも断る。

 フェロモンが効いている目の前の男たちは女子高生に見えているだろうが、実際は筋骨たくましい男なのだ。AVを見ている連中にはフェロモンは効いていない。

 男同士がくんずほずれつしている映像を見せ付けられるわけである。

 お笑い種にもならないな。

 とにもかくにも入れ替わり立ち代わりで次々と男達が誘っていく。

 若い連中は、お茶しようと必ず声を掛けていく。まあ、こいつらは誘いに乗ればめっけもんという軽い気持ちだから執拗には誘わないが、アダルト系の勧誘員とおぼしき連中のしつこさには参る。まあ、それで飯を食っているのだからしようがないのだろうが、こんな奴らの毒牙にかかる女の子もいると思うと悲しくなる。

 さてと今日のところはこんなもんでいいか。

 一応女子高生なるものに姿を見せかけられることが判ったことで良しとしよう。

 まあ、私には女装趣味なるものはないが、あまり深く関わっていると癖になってしまうかも知れない。


 お昼の休憩時間になっているのを確認し、あの二人に会うと問題になるかも知れないしね、こっそり会社に戻って、研究員を捕まえて確認する。

 薬の持続時間を聞いていなかった。

「で、薬の持続時間はどれくらいなんだ?」

「持続時間ですか?」

「そうだ。二時間は経つがまだ効いているみたいだ」

「あの……」

 言いにくそうだった。

 なんか……いやな、予感がした。

 こういう言い方をした時は、決まって……。

「持続時間は……。永久に続きます」

 な、こういうと思った……。


 って、おい!

 今、何と言った!

 永久?

 一生効果が続くということか?

 つまり、女子高生に見られ続けるということじゃないか!

 そういえば言っていたな、

「大丈夫ですよ。他人には女子高生にしか見えないんだし、……その……、万が一効果が切れても元のままなんですから」

 効果が切れると言う直前に、ちょっとした間があったが、こういうことだったのか。

 自分の子供に平気で薬を使う研究員だ。

 効果を確かめるために、嘘をついてでも実験を押し進めることは判っていたじゃないか。

 考えが甘かった。


 その日から、女子高生した男の生活がはじまった。

 街を歩くたびに、女子高生だと思い込んでいる人々から「学校はどうしたの?」と聞かれるし、補導員に捉って学校名を聞かれるし……。会社に行っても、受付嬢の響子たちに「学校へ行きなさいね」と追い出される。

 皆が皆、私を女子高生として見てしまう以上、女子高生として暮らすよりなかった。


 こうして女子高校に編入し、女の子に混じって生活する羽目になった男がひとり。



■ 魔女っ子変身アイドルになれる薬 ■


「社長! また新薬ができました」

 いつもながらのパターンで登場する研究員。

 毎度のことだから、飽きてきたぞ。

「今度は、何を開発したんだ?」

「魔女っ子変身アイドルになれる薬です」

「魔女っ子変身アイドル?」

「はい。前回の女子高生になれる薬は、女子高生だけにしかなれませんでしたが、今度のは……」

「呪文を唱えれば何にでも変身できるか?」

「その通りです。さすが、社長ですね」

「それくらい、誰だって推測はつく」

「ですよね……」

 まあ、いいさ。

 スチュワーデスや看護婦とか、一つしか変身できないよりも何パターンもあったほうが楽しいかもしれない。

 特撮ヒロインもののTV番組に使えそうだが……。

 ごく普通の女の子が、悪の組織に立ち向かうために、魔女っ子変身アイドルとなって戦うという設定で、この薬を使って変身シーンを撮る。そうすれば、特撮じゃないリアルな変身シーンを見せられそうである。

 そうでなくても、女の子の話題性として人気が出そうな感じがする。

 よくコミック・マーケットとかでコスチュームプレーする女の子が多いが、魔女っ子変身アイドルものなら売れるだろう。

「なあ、この薬は、女の子に使っても効果があるのか?」

 まさか男が魔女っ子じゃ、笑い者にしかならないからな。

「いいえ、これは男性専用の薬です。わたしのモットーは、虐げられた男性達に夢を与えるのが、その根本思想ですから」

 おいおい。

 それじゃあ、販売ルートが限られるじゃないか。

 誰にでも使えるような汎用的なものじゃないと。

 まあいいさ。

「どうせまた、実験台として新薬を飲んでくださいと言うのだろう?」

 呪文を唱えなければならないのは……、ちょっと恥ずかしいがな。

「その通りですが……」

「なんだ、何かあるのか?」

「実はこの薬……。意識だけを操作するんじゃなくて、本当に変身しちゃうんです」

「お、おい。冗談だろ?」

「わたしが今まで冗談言ったことありますか?」

「いや、ないが……。本当に変身するのか?」

「はい! ただし薬が効いている間だけです。切れたら元に戻ってしまいます」

「本当に薬は切れるんだろうな、前回では一生女子高生してなきゃならんのかと思ったぞ」

「はい、何とか解毒薬が完成しました。良かったですね」

 ほんとにどうなるかと……。

「じゃあ、早速はじめますか?」

「その前に確認しておくことがある」

「なんでしょうか?」

「副作用はないだろうな」

 そこのところが重要だ。

 とんでもない副作用なら願い下げだ。

「大丈夫です」

 きっぱりと言ったな。

 なら大丈夫だろう。口ごもったりすると何か隠していたりするのだが。

「まあ、いい。はじめてくれ」

「はい」

 研究員は、薬瓶から錠剤を取り出し、水の入ったコップと共にトレーに乗せて差し出した。

「今回は錠剤か……」

 ええい!

 考えていてもしようがない。

 ままよ。

 薬を口の中に放り込み、水で喉の中へ流し込む。


 それから小一時間が経った。

「効かないじゃないか」

「いえ。魔女っ子変身アイドルというくらいですから、この魔法のバトンを振りながら呪文を唱えていただかないと……」

 と言いながら、取り出したのは、可愛らしい装飾のついたまさしくバトンだった。

「そ、そんなことしなきゃならんのか?」

「はい。それが魔女っ子変身アイドルの決まり文句です!」

「そりゃそうかも知れないが……」

「誰しも変身願望というものを潜在意識に持っています。準備体操よろしく、これをすることで潜在意識を掘り起こして、魔女っ子変身アイドルになる準備が整うのです」

 きっぱり!

 と言い放つ研究員だった。

 おい、おい……。

 そりゃないだろ……。

 恥ずかしいこと、この上ないぞ。

 中年の男がするもんじゃない。

「できるわけがないだろ」

「でも、これをやらないとせっかく飲んでいただいた薬の効果が切れてしまいますよ。この試用品を創るだけでも、多種多様な薬剤を何度も何度も試行錯誤で調合しては廃棄し、やっと完成にこぎつけたのです。薬品代とかだけでもかなりの額になりますが、無駄になさるおつもりですか?」

 確かにその通りかも知れない。

 魔法のバトンを見つめながら困惑しきりの私だった。

 ううむ……。

「わ、わかった……。では、具体的にどうすればいいのだ?」

「説明しましょう。そのバトンを貸してください。実際にやってみます」

 私がそのバトンを渡すと、早速にバトンを振り回すようにしながら、

「ペペルマ、パリキュラ、サマルカンドル……。魔女っ子変身アイドルになーれ!」

 と呪文を唱えながら優雅に舞い踊った。

 ま、真似できない……。

 いくらなんでもそこまでは出来ない。

「……とまあ、こんな具合です。わたしは薬を飲んでいないので、変身はしませんが……。さあ、今度は社長の番ですよ」

 バトンを返してよこした。

「ぺ……ペルマ、パリ……」

 舌を噛みそうだった。

「だめですよ。呪文はもっと流暢に唱えなくちゃ」

「恥ずかしくて言えるかよ」

「そんなことでどうするんですか? これをなさなければ薬は完成したとは言えないのですよ」

 おい!

 そこまで言うなら、自分でやれば……。

 って、これは男性用か……。彼女の場合は、やっぱりだめだな。

 いや、待てよ。

 それは口実で、実際には女性にも使えるものかも……。

 あり得るな。

 とはいえ、もう自分が飲んでしまった。

「さあ、どうしたんですか? 続けてください」

 よく言うよ。

「ペペル・マ、パセリ……」

「パセリじゃありません! パリキュラです」

「パリキュラ……」

 しばらく呪文を唱える練習が続いた。

「ああ……。もう、薬の効果が切れる頃ですね」

「そうか……。残念だな」

 薬が切れては、続ける意味がないだろう。

「それじゃあ、また薬ができたら……」

「いえ、予備にもう一錠あるんです」

 げっ!

 いやな奴だ。

 それなら最初から言っておけ。

「でも、今日はこれくらいにしておきましょう。呪文をまともに唱えられないのに、薬を飲んでもしようがありませんから、明日から特訓をしましょう」

「特訓?」

「呪文を間違いなく流暢に唱えられるようになるまで特訓です。さらにバトンを振る練習もしなければなりませんしね」

「おいおい。こんなことずっと続けるのか」

「社長が、どうしてもおいやなら構いませんよ。でも、薬は完成しません。それとも他の社員に命じてやらせますか?」

 できるわけがないだろう!

 こんな人体実験を社員にやらせるわけにはいかない。

「わかったよ。特訓をはじめよう」


 というわけで、翌日から魔女っ子変身アイドルになるための猛特訓がはじまった。

 呪文は何とか覚えることができた。

 しかし、バトンを振りながら優雅に舞い踊る仕草が、思うようにならなかった。

「だめ! もっとしなやかに身体を動かして」

「そうじゃない! 手は大きく右上から左下へ振り下ろすようにしながら……」

「空いている左手は腰に常に置いて……。はい、そこで軽くジャンプして……」

 研究員の厳しい指示が飛び交う。

 しかも身体の動きだけではなかった。

「だめだめ。心がなり切っていない! いいですか? 変身を完成させるには、心底から『自分は魔女っ子アイドルになるんだ』と思わなくちゃだめなんです。少しでも疑惑の心があれば変身はできないのです。もっと潜在意識を掘り起こし、魔女っ子アイドルになりたいと真剣に思ってください」

 そ、そこまでしなきゃならないのか?

 研究員は、手加減なく容赦のない指導を続けている。


 さらに一週間ほど経過した。

 心と身体と両面からの、魔女っ子変身アイドルになるための特訓が続く。

「だいぶよくなってきました。今日は薬を持ってきています。一回リハーサルをしてから、この薬を飲んで本番に臨みましょう」

「そうだな……」

 リハーサル……。

 私は、深呼吸し気を落ち着けながら、強く念じる。


 魔女っ子変身アイドルになる!


 そしてバトンを振り回しながら、

「ペペルマ、パリキュラ、サマルカンドル……。魔女っ子変身アイドルになーれ!」

 と唱えながら優雅に踊った。

 ぱちぱちぱち。

 と研究員が拍手しながら歩み寄ってくる。

「すばらしいです、お見事! 完璧ですよ」

「そ、そうか……」

 ずーっと特訓を続けてきたんだ。

 これでだめと言われたら、めげるぞ。

「それでは、今度は薬を飲んで……」

 と、研究員が言いかけたときだった。

 当然、私の身体が輝き始めたのだ。

「な、なんだ! どうしたというのか?」

「しゃ、社長!」

 か、からだが……。全身が焼け付くように熱い!

 そんな状態がしばらく続いたが、やがて光の消失と同時に元に戻った。

 ふうっ……。

 どうなるかと思ったぞ。

 と、研究員を見ると、硬直したようにぴくりとも動かず唖然としていた。

「おい! どうしたんだ? ぽかんと口を開けて……」

 その言葉に我に返って問い返してくる。

「社長は気が付かないのですか?」

「なにがだ?」

 研究員は、黙って社長室にある姿見を私の前に置いた。

「どうぞ、鏡をご覧下さい」

 研究員の言うとおりに鏡を覗くと……。


 そこには、派手な衣装……まさしく魔女っ子変身アイドルが着るようなコスチューム姿の女の子が映っていたのだ。もちろん身長も体格も完全なる十二歳の女の子そのもの。


「こ、これは!?」

「薬なしで、変身してしまいました」

「う、嘘だろ? この女の子が私と言うのか?」

「社長の目にも、女の子に映って見えるのですね?」

「ああ、可愛いアイドル姿の女の子がね」

「ということは、夢でもなんでもない、正真正銘に変身をしてしまったようです」

「じょ、冗談だろ?」

「真実です。現実を直視しましょう。社長は魔女っ子変身アイドルになれる特技を身に着けてしまったのです」

「おい! これが先日飲んだ薬の副作用じゃないだろうな?」

「そうではない。とは言い切れませんね。多分に可能性はあります」

 なんたることだ……。

 これまでの猛特訓によって、私の中の潜在意識にある変身願望が呼び起こされて、とうとう具現化してしまったのだ。

 薬をわざわざ飲まなくても、強く念じるだけで変身を遂げるという体質に変わってしまったのだ。

 強い信念、岩をも砕く。


 正真正銘の魔女っ子変身アイドルの誕生であった。


 しかも、あろうことか元の姿に戻れなくなってしまったのだ。

 今度の姿は十二歳の女の子。幻想でも夢でもないモノホンの女の子だ。

 こうして中学一年生として編入することになってしまった男が一人。

 そして日夜、完全悪と戦う正義のヒロインとして活躍しているのだ。



■ 性転換ウイルス! ■


「社長! 例の研究が完成しました!」

 試験管を片手に飛び込んできた者がいる。


 おや?

 いつも飛び込んでくる研究員とは違うわね。

 そうなのよ。

 あの研究員の薬の副作用のおかげで、未だに女子中学生のままよ。

 ああ、そうそう。

 女の子として生活しているので当然、女の子らしい言葉使いや仕草をするように心がけているの。そうしないと気がゆるむと男性言葉になってしまうから。

 解毒薬が完成するまでは、ここへ来るなと言ってあるの。

 ふう……。

 ともかく……。

 この女子中学生の姿のおかげで、どんなに苦労したことか。

 私が会社社長だと言っても誰も信じてはくれなかった。

 それが、こうして再び社長の席に戻れたのは、祖母にして副社長の力である。

 何とかなるだろうかと、祖母に相談に行ったところ、私の姿を一目見て、自分や母の若いときに瓜二つだということで、すぐに血液鑑定にはかってくれた。

 とまあそういうわけで、女子中学生ながらも社長業に復帰できたわけ。

 話を戻しましょう。


「あなたは、確か……。バイオテクノロジー研究所の所員ね……」


 思い出したわ。

 例の研究員が開発した「性転換薬その1」の体格や素顔も女性にしてしまう、改良バージョンの薬効成分を作り出す遺伝子を持ったバクテリアの開発をしていたはずだ。このバクテリアを大量増殖させて、薬効成分を取り出せば、性転換薬を安価に大量生産できるというものだった。

 細胞中にあるY染色体に働きかけて、これをX染色体に生まれ変わらせる作用を持っている。つまり XーChange である。

「はい。例の遺伝子操作による性転換薬生産バクテリアの創製に成功しました。この試験管にその『バクテリア XーChangeー1』が入っています」

「ほんとう! ついにやったのね」

「はい。増殖力も通常の百倍以上に強化して生産性を増しています」

「性転換薬の大増産が可能ね。これで誰でも自由に性転換が可能になるし、我が社も儲けさせてもらいましょう」

 その時だった。

 インターフォンが鳴った。

『社長。バイオテクノロジー研究所から連絡です』

「繋いでください」

 バイオテクノロジー研究所からとは珍しいわね。

 だが、その連絡はとんでもないものだった。

『社長! 大変です!』

「どうしたの?」

『バイオハザートが発生しました!』

「何ですって! どういうことですの?」

『バクテリア XーChangー1 の試験棟から、性転換遺伝子を組み込んだスーパーバクテリオファージが漏洩しました』


 スーパーバクテリオファージ(以降SBFと略する)は、当研究所が耐性菌治療のためにバクテリオファージ(以下BFと略する)の開発の中から生まれたものである。

 一般的なBFは、大腸菌をターゲットにするラムダファージのように特定のバクテリアしか捕食しないので、これを上手く利用すれば、耐性黄色ぶどう球菌などの特定病原菌のみを捕食して、他のバクテリアや細胞を破壊しない、つまり副作用のない安全な治療ができるというものだった。

 ところがSBFは、どのようなバクテリアをも捕食する大食性を持つ突然変異種で、しかも細胞内に溶け込んで遺伝子を組み込む能力を持つλ型溶原生BFだった。何でも捕食するということは、バクテリアごとにそれぞれBFを用意する必要がなく、溶原生を利用して遺伝子の運びベクターとして、バイオ研究には最適だった。

 その第一弾の開発研究の中に性転換遺伝子研究があった。

 だが、伝染力がすさまじく取り扱いには厳重管理が必要だった。


 そのSBFが研究所から漏洩した!


「馬鹿な! どうしてそんなことになったの?」

『判りません、原因不明です』

「研究棟を完全閉鎖してください」

『もう遅いです。SBFはすでに研究所外に拡散してしまいました』

「冗談じゃないわ。SBFはものすごい伝染力を持っているのよ』

『は、はい! SBFは、各種の病原性ウイルスに取り付いて突然変異を起こし、性転換遺伝子を持った新たなる病原性ウイルスが次々と誕生しています。性転換遺伝子を持った風邪のウイルスやインフルエンザウイルスも発見されました。もう、手がつけられません』

「なんてこと!」


 もはやどうすることもできなかった。

 すでに全世界にSBFは伝染していった。

 性転換遺伝子を持ったSBFは、この世に存在する男性という男性を女性に性転換していった。

 恋人が突然女性になって最初は笑い転げていた女性達も、やがて事態の重大さに気づいて慌てふためいた。

 この世から男性が消えうせてしまったのである。

 つまり子孫を作り出せなくなってしまう。


 人類最大のピンチ!

 果たしてどうなるのか?

 救世主は現れるか?


 乞うご期待!



 ……って、このシリーズは本来読みきりで、連載じゃないんだけどね……。

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