神様ですか?
「待て!!」
思わず大きな声を出してしまった。
ちなみにもし街などで暴力事件の現場に出くわした場合など、一番推奨される対応は、もしもしお巡りさんコール。つまり通報である。そもそも、暴力なんて慣れてもいないし、慣れたいとも思わないので、まず関わらない。ちなみに海外では、発砲音がした場合、周りを見渡し状況判断をして冷静に逃げ出す!!なんて対応はNGだ。まず臥せる。安全確保が第一、それから状況判断でも遅くない。
つまり、今回の大声で制止するなんてのは、最もやってはいけない対応である。身の安全を守るためだから、テストに出なくても肝に銘じておくように!!
ここまでの思考はおそらく声を出してから0.1秒もかからなかったと思う。
俺は流れるような動作でその場に両手両ひざを地面につきつつ体制を整える。いわゆる土下座の体制に移ったのだ。だって、俺の装備寝間着オンリーの上に、チート能力もないんだよ。
地面に唐突に土下座をした俺と、ゴブリンたちのとの距離は10mもない。彼らの運動神経のほどはわからないが、現代の一般的な日本人よりは立派な筋肉をしているように見える。身長はそれほど高くないようだが。それにしても、その気になれば俺など瞬殺されるであろう野生の雰囲気は満点だった。
「すみませんでしたーー!!!」
ゴブリンが振り返りざま、言ってやった。言葉が通じるかはわからないが・・・
「「「GAAAA---!!!!」」」
「キャー!!!」
ゴブリンたちの大声と、なぜか女の子の悲鳴が重なって聞こえた。
激昂したゴブリンたちに殴られるかと思い、殴られる前には跳ね起きて華麗な逃げ足を見せてやろうかと身構え顔を上げつつ腰も上げたところ、ゴブリンと女の子が両目を抑えて地面を転がりまわっている。
「ん、これどういう状況だ?」
ゴブリンたちはこん棒も投げ捨て、まるで催涙ガスでも浴びたように両目を抑えゴロゴロ転がりまわりつつ、その中心で追い込まれていた女の子も同じように目を抑えてうずくまっている。
なんにしても、今なら女の子を助けられそうなので、ゴブリンたちに当たらないように気を付けて女の子を引き起こした。
「あ、あなたは神様なんですか?」
あ、日本語だ。
最初の感想がそれか?という感じだが、女の子は日本語を話していた。
「いや、違うと思うけどここは離れたほうがいいよね?」
俺がそういうと、女の子がこくこくとうなづいたのを確認して、ひとまず、ゴブリンの輪の中から連れ出した。
そのまま振り返りながら街道を少し外れて草原のほうに入る。こっちなら丈は低いとはいえ、草むらに伏せてしまえば見えないはずだ。
目が見えないであろう女の子を連れて長距離は逃げられないとの判断でここに逃げ込んだが、結論から言うと、ゴブリンはすぐに俺たちに気が付いたようだ。目が見えるようになったのか、仲間とギャーギャー言っていたと思ったら、そのうちの一匹が俺たちのほうを振り返り、再び両目を押さえて倒れこんだ。この時点で気が付かれたと思うのだが、それを見た残りのゴブリンが一斉に背を向けると森のほうに走っていってしまった。
残されたゴブリンもしばらくすると目が見えるようになったのか、こちらのほうを振り返ることなく、つまづきながら森へ入っていった。
「逃げ切れたみたいだね」
俺は女の子にそういった。
女の子は震えながら俺の隣にうずくまっている。
「大丈夫?どこか痛いところはない?」
俺がそういうと、女の子は震える声で
「あ、ありがとうございます、神様、大丈夫です」
と言ってきた。
「あの、俺は神様じゃないんだけど」
「そんな、見ることもできないほどの魔力光をまとわれた方が、何をおっしゃるのですか」
と、のたまわる。
「へ?魔力光?」
「神様のご尊顔を直接見たら、目がつぶれるって、長老が言っていた意味が分かりました」
さて、彼女やおそらく先ほどのゴブリンたちには、俺が光って見えているらしい。それも視認するのがつらいほどの光のようだ。当然、自分で自分を見てみるが、全く光ってはいない。発光現象が起きるような面白体質であった記憶もない。
「あの、いま魔力?が何とか言ってましたが、魔力が光で見えるんですか?」
「無意識でこれほどの魔力光を出されているのですか?草原の悪魔を避けるためでは?」
「いや、森よりも草原のほうが安全なのかと思って。こっちから来たし」
「魔の草原を歩いてきたんですか!!ていうか、ここ草原の中なのですか?!」
女の子はひどく慌てた様子で立ち上がろうとして、周りの草の感触で自分が草むらに伏せていることに気が付いたようだ。
「草原て、やばいの?」
目をきつく閉じたまま、女の子は言う。
「おそらく、神様の魔力光で悪魔も寄り付けないと思いますが、草原からやってくるなんて、さすが神様です」
「その、ここは危険だとすれば道にもどってからでいいんだけど、その魔力光って制御できるものなの?」
俺の質問に女の子は驚愕する。
「魔力光を制御ですか?!通常精いっぱいの発光で魔物を遠ざけるものですので、弱くする方法は存じません」
とのこと、とはいえこのままでは俺はずっと目を閉じた人としか会話が出来ないのではないかと思い、街道に戻ってから制御を習うことにしたが、女の子の手を引いて街道まで戻ろうとしたとき、問題が発覚した。この子、足の骨が折れていた。ゴブリンが逃げないように真っ先に足をつぶしに来たらしく、足首の骨が解放骨折状態だった。どうしよう・・・
ひとまず、魔の草原?にいるのは落ち着かないという事なので、女の子を背負って街道まで下りた。だれか通りかかればよいのだが、それは難しいと思うと女の子は言う。
女の子は病気の母親のために薬草を摘みに来たところで、ゴブリンに襲われたという事。ふつうは薬草などを集めてくれる人がいるらしいのだが、最近はゴブリンが異常発生しており、仕事で発生する利益と危険度が釣り合わなくなっているため、急激に価格が高騰しているらしい。あと少しで治るところまで母親は治ってきていたが、最後の一押しの薬草が尽きてしまい、多少高くても購入しようとしても、そもそも物がない。という事で、門番に無理を言って街を出てきたという事のようだ。
ひとまず、彼女の骨の状態を見ないと何もできない。さっき、ゴブリンから逃げる時にはあまりの目の痛みと、恐怖から足の痛みは感じなかったという事だが、今は顔色も真っ青になっている。
許可をもらい、女の子の薬草採取用のナイフを借りると、ズボンを脛のあたりまで切り裂いて具合を調べる。ゴブリンのこん棒で力任せに叩き潰されて、足首の骨は粉砕され一部が皮膚を突き破った状態だ。幸い血管に傷はついていないようだが、このままでは遠からず傷がつくだろうし、手術しようにも道具が足りない。女の子の服装や持ち物、借りたナイフなどから判断して、少なくともこの世界の文化レベルは現代日本には遠く及ばない。という事は、いまここでできること以上の治療が望めないという事だ。
「神様、ありがとうございます。助けていただいた上に、ご迷惑をおかけします」
女の子はそういうが、このままでは一生元のようには歩けない。神様なんて呼ばれているが、理由もわからずただ光っているだけの男だ。医学の知識や資格、もろもろの資格があっても、使えなければ意味がない。活かす道具がなければ何もできない。そう思ったら胸が熱くなってきた。
そうじゃない。出来ないんじゃない、やり方を考えろ。資格や知識はその仕事をするための準備をした証、仕事はそのうえですることだ。
資格や免許にこだわっていた父さんがいつも俺に言っていたこと。母さんが死んでから、男手一つで俺を育ててくれた父さんが、これだけは覚えておきなさいと言っていたこと。
資格や免許は入り口だ。それを使う仕事に熟練して初めて価値があるのだ。だがその仕事に就くために資格がいるというのなら、それを用意するだけのこと。なりたい自分になれるように、取れる資格は全部取ってやる。俺に言い聞かせながら、父さんは自分にも言い聞かせていたのだろう。
何を真面目に悩んでるんだ。これは夢だろ。もうすぐ目も覚める・・・この期に及んで俺の中の常識が邪魔をする。だが、俺にはもう一つ常識が存在する。困っている人、助けを求める人を自分が救えるのなら、全力で助ける。この瞬間、俺はこれまでに見た異世界転生もののアニメなどの常識、ファンタジーからSF、あらゆるジャンルのメタ情報から、女の子に問いかけた。
「つらい時にすまない。1つ教えて欲しい」
女の子は徐々に痛みが増しすでに激痛になっているであろうに、真っ白な顔を向けてうなずいた。
「この世界に、魔法はあるか?」