表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

 アンズの通う高校にはある噂があった。


 【りゅーちゃんは、高校3年の春に呪われる。呪いを解きたければ、粗塩屋に連絡すると良い。】


 アンズはその噂話が嫌いだった。誰が言い始めたかもわからない癖に、幼なじみのりゅーちゃんを怖がらせるから。

 本名で呼んだら呪われないのかもしれない。けれど、噂の為に変化させるのは、2人の関係を壊されるような不快感がある。呼び名には魂が宿るというのがアンズの持論だ。

 これまでの関係がギュッと詰まった呼び名を変えるなら、2人の関係が変わる時が良い。……例えば、幼なじみから恋人になる、とか。

 アンズは自分の考えが急に恥ずかしくなって、足をばたつかせた。そうして、ケータイを取り出す。慣れた手つきで操作すると、メール作成画面を開いた。


 『りゅーちゃん、粗塩屋のアドレス、送っとくね。これで怖がらなくても、大丈夫だから』

 アンズはりゅーちゃんに送る文を打ち込んだ。文面を見つめて思案するように頬をトントンと叩く。キュッと結ばれたくちびるが、迷う心を現していた。ゆっくりと目を閉じ、決心したように大きく息を吐くと『明日、2人でよく遊んだ思い出の公園で待ってる』と書き加える。

 完成した文章を何度も読み返し、アンズは「よしっ!」っと気合いを入れるように言って、送信ボタンを押す。

 「どうか、約束の日に、ちゃんと来てくれますように……」

 祈るような気持ちを呟いて、アンズは送信画面を見送った。


 桜の花びら舞う季節、アンズとりゅーちゃんの進学先は別々だ。離れ離れになってしまう前にせめて想いを伝えたいとアンズは思っていた。


 アンズはそわそわと返事をしばらく待ってみたが、りゅーちゃんからの返事は無い。


 「きっと来てくれる」


 アンズは自分の不安を打ち消すように力強く言葉を紡ぎ、目を閉じた。

 次々と溢れてくるりゅーちゃんへの気持ちに身を任せる。


 お化けが怖いりゅーちゃん。だけど、お化け屋敷に行ったときは私の手をギュッと握ってリードしてくれる。

 優しいりゅーちゃん。アンズが凹んでいたら、何も言わなくても察してくれて頭を撫でてくれる。

 格好良いりゅーちゃん。足が早くて、体育祭ではいつもヒーローだ。

 楽しいりゅーちゃん。話がうまくて、りゅーちゃんの周囲にはいつも笑顔が溢れてる。

 真面目なりゅーちゃん。勉強はちょびっと苦手だけど、テスト前には遅くまで勉強してる。


 アンズは、閉じた瞼から涙がこぼれそうなぐらい胸がいっぱいになって目を開いた。


 「どうか明日、この想いをあますことなく伝えられますように」

 アンズは胸の前で手を組み、祈るようにしてそう言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ