教会
アリスの処遇が決まる数日前 人間界:聖都
魔族と人間で楕円の大陸を二分している世界。統一国家唯一の宗教の聖域。聖都エルスマホ。聖都最大にして最古の教会の最奥。そこで五人の老人が円卓を囲んでいた。
「さて、今日の神託だが」
そう前置きをして話し出すのは教皇。
「神界から追放される神がこの世界にやってくるそうです。その神様の処遇ですが、どうしましょうか」
別の老人が声を上げる。
「アリス様とおっしゃいましたか。そのお方は大神の罰によりこの世界にやってくるんですよね。その扱いはとても難しいのでは?」
「ええ、恐れ多い神を指導することはできません。しかし追放を受けた神に導いていただくというもの信徒に示しがつきません。それをふまえまして何か良いご意見は?」
鋭い目つきをした老人が意見する。
「追放されたという事実を隠し、現世に顕現した神ということにすればよいのでは?」
「神を傀儡にするということですか」
「ええ」
「神を恐れぬあなたらしい意見ですね。ただ、それだとアリス様はこの世界にずっといらっしゃることになるのではありませんか? それだとボロが出てしまう可能性が大きいと思われます」
「確かにそうですね」
それから3時間ほど良い意見が出てこないまま時間だけが過ぎていく。
「一ついいですか?」
それまでなにも声をあげなかった老婆が意見をする。
「破戒僧ジャックの世話を見ていただくのはどうでしょうか」
「破戒僧ですか!」 「さすがにそれはまずいのでは?」 「破戒僧ですよ破戒僧!」
口々に反対意見を言われる。しかしうろたえることなく老婆は淡々という。
「破戒僧の改心を促すことでアリス様の成長を促す。それでゼウス様の目的は叶います。そして持て余している彼を有効に使うことができますわ」
「あのジャックを改心させるなど……」
「できるはずないと?」
「っ! そういうわけではありません」
黙って聞いていた教皇が口を出す。
「あまり良い意見とは言い切れませんが……双方メリットのある意見ではないでしょうか?」
「これ以上話し合ってもよい意見は出そうにありませんなぁ」
「では、アリス様の対応はジャックに一任することでよいですね?」
教皇の呼びかけに全員が首肯した。