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女神追放

 神々の住まう場所。神界

 無機質でいて神秘的な景色の世界に似つかわしくないインターホンの音が響く。


「入っていいわよー」


 これまた神界には似つかわしくない間の抜けた声。

 入室の許可が出ているにもかかわらずインターホンの音は鳴りやまない。


「宅配便かしら。全部置き配指定してるのにつっかえないわねー」


 声の主が宅配業者に一言モノ申してやろうとドアを開ける。


「ちょっとあんた! 宅配便はそこのボックスに入れろって書いてあるのが読めないの? こっちはゲームで忙しいんだからさっさと置いて帰りなさい!」


 扉を開けると有能そうな顔をした男と、柔和そうな、それでいて厳かな雰囲気の老人が立っていた。


「なにやら宅配業者と勘違いされているようですが、私たちはアリス様の業務の様子を拝見させていただきに来ただけですよ」


 アリスと呼ばれた神は顔を上げ、まじまじとその男と老人を見る。そして気が付く。自分が何をして、何を口走ってしまったのかを。


「さて、世界の天候を管理する神であるアリス様がゲームですか。では誰が天候を管理しているのでしょうか」


 アリスは顔を引きつらせながら弁明する。


「いっ、いやいや、私は精神誠意世界の天候を管理していますよ。ゲームというのは、あーー、その! ゲームみたいに楽しいなー。みたいな?」


 男は表情を全く変えずに言う。


「そうですか。ではそこまで楽しんでいるのなら大丈夫そうですね」


 何とか誤魔化しきれたとほっとしたアリスは食い気味に


「ええ! 何も問題はありませんよ!」という。


 しかし男はこう付け加えた。


「部屋の様子を見ても」と。


 アリスは動揺する。天候の管理なんて二年前からやらずに部屋に閉じこもりゲームや漫画を読んでいたからだ。


「ええっ! いや、乙女の私室を覗かれるのはちょっと……」


「私室ではなく仕事部屋でしょう」


「実は仕事に熱中しすぎてゴミだらけでして……」


「それなら大丈夫です。清掃業者を手配することが可能ですので」


 アリスは心の中で憤怒する。全く大丈夫じゃないわよ! 大神ゼウス様にさぼってたのがばれたら神界からの追放は必至。何人たりとも私の自堕落生活の邪魔はさせないわ!


「いえいえ、そんなお手を煩わせるなんて私自身が許せません。ですから仕事に熱中してしまった罰として私が部屋の掃除をします」


 おおっ! なんという完璧な言い訳! 私ってやっぱり天才ね。とでも言いたげな顔で男を見るアリス。


「そうですか……「それほど熱中してしまうとは。いやはや今すぐにでも見てみたいなあ」


 大神ゼウスが二人の会話に割って入る。


 一番偉い神にこう言われては断ることができない。

 アリスの顔はみるみると青ざめていく。


「では、そういうことなのでお邪魔させていただきます」


 動揺を隠せないアリスを置いて男とゼウスは部屋に入る。


「あっあの!」


 言葉が出てこないアリス。


 ごみが散乱し、モニターにはGAMEOVERと書かれたゲームの画面が映る。ボウリングのピンの廃棄場かと思うほど散乱した空き瓶。


 神界では唯一のごみ屋敷を目にした男とゼウスは絶句した。

 そしてゼウスは放置していたにしても人間界の天候はしっかりと管理されていたと考え、質問する。


「人間界の天候はどのように管理していたのかい?」


「それは……自動で天候を決められるようなシステムを作って管理してました」


 それを聞きゼウスは感心したようにうなずく。しかし男が口を出す。


「誠心誠意がシステム作りですか?」


 アリスはどう返答すればよいか考える。そして開き直ることにした。


「そうよ! 自分で管理しなくてもいいように自動化して空いた時間でゲームをしてたのよ! どう? 古臭いシステムを再構築してもっと楽に管理できるようにしたの」


「ゼウス様、アリス様は伝統ある天候管理の業務をこんな無機質なやり方で壊しています。もっと気持ちを込めた伝統的な方法をとるべきだと具申します」


「何よあんた! 私が有能だからって嫉妬して蹴落とそうとしているのね!」


「神に嫉妬などございません。いいですか天候の管理とは神と人間のコミュニケーションです。それを軽視するなど言語道断。これまで苦労して管理していた神々に失礼だと思わないのですか?」


「話にならないわね!」


「話にならないのはあなたです。2年間もさぼっておいて開き直る気ですか?」


 痛いところを突かれたアリスは押し黙ってしまう。

 男はそれを見て


「あなたの処罰はこちらで決めさせていただきます。神界からの追放もあり得るのでそのおつもりで」


 と突き放す。


「ちょっ! いやいや、追放はさすがに……」


 男は表情を変えずに言う。


「それを言っていいのは許す側の人間ではないですか?」


「あぅ……」


 この瞬間アリスの追放が決定的になった。




 仕事をサボっていたことがばれてからアリスは追放の詳細が決まるまでの間、自宅謹慎となり茫然自失とした生活を送った。


 大神ゼウスは厳かな声で罪状を読み上げる。


「神アリス。そなたは人々の手本となるべき存在にもかかわらず日々の業務を怠り、しまいにはゲーム三昧、漫画三昧の生活を送っていた。この罪は決して軽いものではない。そなたの更生を図るため人間界への無期限追放とする。神界へ帰る条件は人間界で悪逆の限りを尽くしている魔王の討伐じゃ」


「そ、そんなぁーー」


 がっくりとうなだれるアリス。その表情はうかがい知れない。



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