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第28話 ミレニアム帰省

 既に単独戦闘は1時間を越えようとしていた。


 ティルテの加護もとうに切れて、今は自分の魔力だけが頼りだ。

 夏に授かったダーナの加護によって、俺の持つ全ての力は大幅に強くなった。しかし多勢に無勢。


 相手が大きすぎて飛翔魔術なしでは勝負にならないところ、その分剣に込める魔力を減らさざるを得ず、一切りで倒せる魔物の数がかなり減ってきた。


 相変わらず魔物の塊はそこにあり、多少嵩を減らしたようにも見えるが、旺盛な勢いで結界障壁に取り付いたままだ。

 南の塊に至っては最初よりもさらに膨れあがっているようにも見える。

 時折魔物の周囲に稲妻が走り、その度に障壁自体も部分的に明滅している。もしかすると障壁外殻はそろそろ突破されるのかも知れなかった。


「ダーナ様!障壁はあとどれくらい持つかわかりますか!?」


 俺は叫んだ。だが。



 ……返事が来ない。おそらくダーナも障壁維持に必死になっているのだろう。



 とにかくやれることを続けるしかないと言い聞かせ、剣を構えて再び塊に突っ込もうとした。

 その時、視界の片隅に何者かのシルエットが見えた。


 思わずその方向に目線を走らせる。


 シルエットは良く見ると3つあった。


(2つではなく、3つ?)


 3つのシルエットは真っ直ぐこちらへ向かって飛んでくる。

 人影にも見えるそれらに、俺は新たな敵かと考えてそちらに意識を向け身構えた


「亮輔ーーーーーーっ!!」


 ――人影の方向から聞き覚えのある声がした。

 見えてきた先頭は、ティルテだ、そして――あれは――まさか?


 2人目は母さんだ、そして母さんの後には、なんと槍を抱えた父さんの姿があった。


 良く見ると、母さんの容姿もいつもと違う。髪の色がいつもよりずっと明るく黄色っぽい。

 ティルテと母さんと父さん、3人が俺の前に集まる。


「亮ちゃん、がんばってる? お父さんも来たわよ?」


「母さん、父さん……」


「困ったなら力を貸すと前に言っただろう亮輔?」


「ああ、確かに言われたけど、さ。今かよ? それに母さん、その髪の色は……」


「これ? 私の本当の髪の色はこれなのよ。目の色もね」


 確かに目の色も良く見ると青っぽい。



「力の封印は解いてきたわ、この色はその証。さぁ亮ちゃん、私たちは何をすれば良いのかしら?」


 俺はこれまでの状況を手短に両親に説明した。そして指示を出す。


「とにかくこっちの魔物はここまで削ったので、引き続き俺が全力で削りきろうと思う。その間、父さんと母さんには南側の魔物共を障壁から少しでも引き剥がして時間を稼いで欲しい。もちろん削っても良いし、細かい所は任せても良いかな?」


「分かったわ」


「任された」


「こっちを削りきったらすぐに母さんの方へ向かうよ。どうかそれまで無事で」


 話は終わり、両親は南へ向かった。


「亮輔、魔力は足りてる? 訳ないわよね」


「見ての通り不足気味だ、変換お願いできるか?」


「ええもちろん。急速チャージで行くわよ?」


 そう言うが早いがティルテが俺の背中に取り付いて、神力変換で魔力を注入してくる。

 以前とは比べものにならない太い魔力の流れが背中を突き刺してきた。そして間髪を入れずに補助神術も掛け直される。


「さあ、行ってらっしゃい」


「ああ、ちょっと大技で一気にやって来る」


 俺は魔物の上空に陣取り、風の結界障壁を纏う。さらに風の攻撃魔術と光の攻撃魔術を帯びて、剣を先頭に構えて魔物に向かって急降下する。


 一気に魔物の塊の中心部へ突入し、そこでさらに風魔術を用いて塊を引き裂いていく。


 一度、二度。


 三度目の剣戟で、ついに魔物の塊が障壁から剥がれた。


 俺は剥がれた塊を障壁から遠ざけるように、風を纏ったまま飛び回る。



 そして――塊をすっぽり覆うように、天頂に届く光柱が現れた。


 ティルテが繰り出したのは初めて目の当たりにする神術。おそらく浄化聖域術だ。


 強烈な光の放射が辺りを包み、目を開けているのも難しい。

 そして光が止むと、魔物の塊は完全に消え失せていた。


 だが浄化聖域は神力を大半持って行かれるはずだ。俺はティルテを目で探す。


 しかし、先ほどまでと寸分変わらない空中にティルテは立っていた。



「ティルテ!動けるのか!?」


「亮輔!私は大丈夫!!」


「よし、それじゃ南の敵を消しに行くぞ。俺に掴まれ!」


 俺は空中でティルテを捕まえて、そのまま全速で南の魔物に向かって飛ぶ。

 見ると南の塊は北の塊よりも明らかに巨大化していて、障壁からの引き剥がしもあまり進んでいないようだった。


「ティルテ、俺はこのままさっきと同じように塊を剥がしにかかる。こっちも浄化聖域でなんとかなりそうか?」


「もう少し小さい方が確実だと思う」


「わかった、それじゃ前と同じように削っていくから、聖域のタイミングについてはティルテに任せる」


 先ほどと同じように魔力が充填され、補助神術がかけ直される。


 彼女が俺の元から離れた。


 俺は障壁と魔物の間に入り込むコースで飛ぶ。

 最高速度の飛翔術の勢いを使って、塊を一気に引きはがす。


 そこへ父さんの槍がさらに食い込み、魔物を消しながら剥がしていく。


 俺は体勢を立て直してさらにアタックを重ねる。今回は削るよりも剥がす方を主眼にして攻撃を加えていった。


 魔物から放たれる稲妻はそこら中に飛び、障壁の明滅も激しさを増してきた。もうあまり時間は残されていない。


 必死に繰り返した数回のアタックののち、障壁から塊が完全に剥がれた。それでもなお触手を障壁に伸ばすように蠢く塊は、未だ北の塊の最期よりも巨大だ。それを父さんと2人がかりでなんとか押しやっていると、ひときわ太い光柱が現れた。


 光に包まれていく魔物の塊。そして最後の魔物まで完全に消え失せた。



(やった)



 魔物の消え去った場所の空中で集まる4人。お互いにねぎらいの言葉を掛け合う。


 改めて両親に礼を述べる、俺とティルテ。

 すると父さんが俺の肩に手を掛けてきて、言った。


「いやそれにしても亮輔、強いな」


「お父さんが勇者していた時より強いんじゃありません?」


 母さんが会話に乗ってくる。


「相手が違うとは言え、あれだけの数の敵を一撫ででバッサリ消し去ってたからな。勇者を越えてるな」


「父さん、それはいくらなんでも誉めすぎだよ。この剣が強いんだよ、剣が。それにティルテが凄いんだ」


 俺は誉められすぎてちょっと恥ずかしくなって来た。


「まあもっと自信持て。おまえはかなり強い、それは確かだ」


 そんな会話で始まって、父さんまで参戦した成り行きの話を聞いていると、ダーナの声がした。



『リョウ、それにティルテよ、ご苦労だった』


『それから、ブリジットとケイ、本当に久しぶりだ。1500年経ってケイはやや老けたが、そうも変わらぬな』


『今こちらに呼ぶ。一度我に顔を見せてくれぬか?』


 そう聞こえるや否や、4人まとめて光に包まれた。


 視界が開けると、そこは夏に訪れたファリアス神殿の前だった。



 夏とは違い、4人の目の前にリアファルを背にしてダーナが立っていた。

 ダーナが動き、両腕を広げて母さんの方へ真っ直ぐに歩み寄る。そしてそのまま母さんの事をしっかりと抱きしめた。


 それを見ている父さんの顔はやや複雑そうだ。


 俺とティルテは動けずに見ているだけ。


 そして母さんはダーナを抱き返し、その目には少し光の粒が浮かんでいるように見えた。



§



 1人、2人、2人で三角形になるように着席した5人。ダーナと母さんのおしゃべりが続いていた。

 残る3人のうち、ティルテは時々合いの手を入れたりして会話に参加していたが、俺と父さんの男性陣は全くの蚊帳の外だ。


 父さんが俺に耳打ちをする。


「なあ亮輔、奥にいるのが女神ダーナだろ? 母さんはなんであんなに親しげなんだ?」


「なんでって言われても……」


 どうやら母さんは父さんに自らの正体をまだ暴露していないらしい。


「気になるんなら素直に聞いてみたらどう?」


 俺がそう言うと、父さんは腕組みをして俯いてしまった。俺は隣にいるティルテに耳打ちする。


「父さんがさ、母さんがダーナ様と馴れ馴れしいから心配してるんだけどさ」


 それを聞いてすぐにティルテが母さんに耳打ち。そして――


「あらお父さん、私も久しぶりに実家に帰省したんですから、もう少しお話しさせて下さいな?」


 それを聞いた瞬間、父さんが完全に固まった。



 俺も一瞬なにが起きたのか分からなかったが、それは紛れもなく母さんのカミングアウトだった。

 父さんが辛うじて声を出す。驚きのあまり、その目の開き方が半端ない事になっている。


「て、照美? 今、実家に帰省って言ったか?」


「ええ、言いましたよ?」


「実家って、ここがか?」


 父さんが顔を上げて、母さんに食いかかりそうだ。


「ええ。そうですよ」


「おまえさん、神様だったのかよ?」


「そういえば、人だとも神だとも言ってなかったですね。隠していたわけじゃなかったのだけど……」


 母さんが父さんに向き直る。


「ごめんなさい啓亮(けいすけ)さん。一緒に戦っていたあの時からずっと、大事な事を伝えていなかったわね」


 そう言うと、母さんは父さんに向かって深々と頭を下げる。


「黙っていたのは申し訳ないと思っています。でも、騙すつもりもなかった事は信じて欲しいの」



「……照美……」



 父さんの右手が母さんの頬に伸びて、優しく撫でる。



「正直驚いた。まあ、伝える機会を逃してただけだろ? 気にするな」


「――おまえが神だろうがなんだろうが、俺の気持ちは変わりはしないさ。照美もそうだろう?」


 俺は父さんの度量の大きさに改めて感心し、母さんの誠実さに心打たれた。

 ティルテもなにか感動しているようで、少し瞳が潤んでいる。


「ブリジットとケイは、お互い良い連れ合いを持ったな」


 ダーナが目を細めて言った。


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