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魔力ゼロの落ちこぼれ令嬢ですが、魔法帝国の魔帝陛下に寵愛されそうです  作者: いづみ
精霊王は剣と魔法の異世界でスローライフを満喫したい!
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27 鋼鉄の王子




「……っ! 貴方達は……」


人数は十人程度。彼等の顔ぶれには見覚えがあった。アステルと同じ、グランマーレ帝國からの留学生達だ。帝國の高位貴族や、高名な魔工士の令息令嬢である彼等は、アステルと違い留学当初から頭角を現し、五ツ星学級(スピカ)六ツ星学級(ヒヤデス)に所属していた。


そんな彼等が、敵意を剥き出しにアステルを睨み、周囲を囲んでいく。あっという間に逃げ道を絶たれ、アステルは動揺のあまり、ただただ腕の中の機体を強く抱きしめた。


集団の中の一人が声高に言い放つ。


「アステル・リュクス・ベルクシュタイン!! 我らが君主、レアンドロス皇太子殿下をたぶらかし、卑怯な手段で七ツ星学校(プレアデス)に昇級したばかりか、御方の聖域である研究室にまで立ち入るとは、はなはだ許し難い!!」


「そ、そんな……! 違います、私は不正な真似などしていません! レアンドロス皇太子殿下は、理由わけあって、魔術具の製作にご助力下さっただけでーー」


「黙れ!! どのような理由であろうと、あの御方は落ちぶれた家の出のお前が近づいて良い方ではないのだ!!」


「その通りだ! 本来ならば、二ツ星学級(ダブル)に配属された時点で国に送り返されるべきだったのだ! 落第者の上に不正を働くなどもっての他だ!」


「恥知らずの狼藉者ろうぜきものめ!! 覚悟するがいい! 我らの手で制裁を加えてくれるっ!!」


彼等は口々にアステルを罵倒しながら、同時に杖を掲げて魔力を高めていく。魔力とともに空気が渦巻き、周囲の温度が急激に下がった。水の帝國、グランマーレの高位貴族である彼等は、強い水の魔力を持ち、水の魔術を得手とする。そんな彼等が十人がかりで、明らかに高位と思われる魔術を行使しようとしている。悪意と敵意の矛先をつきつけられ、恐怖に震えるアステルの足元に、蒼い魔術紋が浮かび上がった。


「冷厳なる水の精霊達よ! 汝らの寵児にあだなす罪人を、深き水の牢獄に繋ぎ捕らえたまえ!!」


「ーーッ!?」


ズ……ッ! と、アステルの身体が地面に沈む。


それまで地面だった場所が、足の先すら届かない水の深淵と化したのだ。水は凍てつくばかりに冷たく、一瞬で体温と思考を奪われた。泳ぎは苦手ではないが、この水温と、両腕に金属の塊を抱えたままでは話にならない。それでもなんとか、魔術の効果範囲の外へと手を伸ばそうともがくが、魔術で生み出された水の鎖が腕に絡みつき、力づくで水底へ引きずり込もうとする。


溺れまいと必死で抗うアステルの耳に、馬鹿笑いをする彼等の声が響いた。


ーー信じられなかった。


彼等は皆、この状況を見て喜んでいるのだ。


レアンドロスへの不敬を咎めたいわけでも何でもない。彼等にとって、これはただの娯楽。自分達の下らない自尊心を満足させるために、精霊の力を使うだなんて……!!


それまで心の中を埋めていた悔しさと悲しさが、深い怒りに変わったその瞬間ーー水の鎖に捕われたアステルの右手が、暖かな熱と金色の光に包まれた。金の唐草模様がはっきりと浮き出し、模様はつるを伸ばすように、アステルの腕を彩っていく。


『ーー助けてやる。だから、望め!』


頭の中にハッキリと、誰かの声が響いた。


「助け……っ!!」


口を開いた拍子に、多量の水を飲み込んだ。しかし、アステルが溺れずに済んだのは、叫ぶと同時に右手から吹き出した光炎がアステルの身体を包み、周囲の水を一瞬で消し飛ばしてしまったからだ。


一滴の水どころか、水煙さえも残らなかった。


「今の声……クトゥグァ、さん……?」


水の檻から解放されたアステルは、暖かな風と、それに踊る光炎に包まれたまま、ふわりと地面に降り立った。最後まで手放さなかった機体を左腕に抱え、髪も、服も、靴の先まで全て乾いている。


その様子を見た留学生達は、慌てふためいた。


「ひ、火の精霊の祝福印だと……!?」


「お、おのれ! 落ちぶれ貴族が生意気な! 本気で痛い目を見せてやる!! ーー冷厳なる水精よ、我が敵を射抜き貫け!!」


ーー攻撃魔術。


まさか、最も厳禁とされているそれを、人に向けて行使するとは。鋭く研ぎ澄まされた水の切っ先が、獲物を捕らえる蛇のような素早さでアステルに迫る。愕然がくぜんとするあまり反応が送れたアステルは、術を行使した生徒の手元から吹き出した水撃の槍を、避けることが出来なかった。


深い燕脂の軍服に身を包んだ、見たこともない銀髪の青年が現れたのは、その時だ。


「ーーたけ鋼鐡精アイアンノーツ!! 強固なる鋼盾となりて、仇なす刃を退けよ!!」


「え……っ?」


雄々しい声とともに、鋼の巨盾がそびえ立つ。驚きに眼を見開くアステルの前で、水撃は弾かれ、青年は喉を逸らして爽快に笑った。


「ハッハッハッ!! ぬるい! ぬるすぎるぞ!! それでもお前達はグランマーレの魔術師か? そんな水鉄砲では、我が盾に傷一つつけられん! ーーこの俺と戦り合いたいなら、せめてこれくらいの武器ものを使うのだな?」


青年が指を鳴らすと、盾はたちまちその姿を変え、普通の槍の三倍はあろう、巨大な槍となって空中に浮かんだ。グランマーレの留学生達は、それを見て蒼白になる。


「ま、まさか、ヴィルヘルム王子……っ!?」


「お、おおお許しを……っ!!」


「許さん!! 乙女一人に寄って集って集団魔術を行使した挙句、攻撃魔術を放つとは魔術師の恥さらしめ! これでも喰らって悔い改めるがいい!」


ビュン! と巨槍が留学生達に向かって飛んでいく。彼等は面白いように慌てふためき、恥も外聞もかなぐり捨てて逃げ出した。槍先にお尻を突かれながら、悲鳴を上げて逃げていく彼等の姿は、なかなかに痛快だった。


銀髪の青年は楽しげに笑い、彼等の背中を見届けてから、くるりとアステルを振り向く。男性的に整った精悍な容姿。鷹のように鋭い双眸は、燃え盛る焔炎の真紅だ。


襟元に輝く級章の星の数は七つーーしかし、学年を示す線は三年生のアステルよりも二本多かった。


「助けが遅れて、すまなかったな。アステル・リュクス・ベルクシュタイン。我が名はヴィルヘルム・ヴァンクール・アイアンノーツ! 焔炎の祝福印を授かりし乙女よ。会えて光栄だ!」


「アイアンノーツ……、ーーっ!? 北の鉱業大国アイアンノーツ王国の、王太子殿下ですか!?」


「ハッハッハッ! よせよせ、殿下などという柄ではない。親しみを込めてヴィルと呼んでくれてもかまわないぞ? アステル嬢」


「そ、そんな恐れ多い! あの、危ないところを助けて頂いて、ありがとうございました……!」


鋼鐡の王子こと、ヴィルヘルム・ヴァンクール・アイアンノーツ。


アイアンノーツ王国は、ほむらの谷と呼ばれる巨大な亀裂に沿うように広がっており、古くから鉱業が盛んだ。焔炎の技と大地の恵みに支えられてきたこの国には、火や地の魔術を得意とする魔術師や魔工技士が数多く住んでいる。


雪と氷に閉ざされた極寒の地にありながら、かの国の人々が陽に焼けたような赤銅の肌をしているのは、火の精霊の厚い加護によるものだと信じられている。服越しにも分かるほどの、ヴィルヘルムの鍛え抜かれた肉体もまた、美しい褐色の肌をしていた。彼の容姿や溌剌とした口調は、焔炎の魔術師クトゥグァを連想させる。


もしかしたら、彼もアイアンノーツの出身なのかもしれない。そんな勘ぐりをしながら、アステルは深く下げていた首を上げた。


ヴィルヘルムは、興味深そうな眼でアステルを見つめていた。


「気にするな。乙女の危機を救うのは男の務めだ。それよりも、尋ねたいことがある。学院を騒がせているレモネードについてだ。あれに使われていた冷却基盤の作り手は、かの氷の皇太子ではなく君ではないのか? もし、脅されて、権利を横取りされたのであれば、取り戻すのに力を貸そうと思ってな!」


「い、いいえ! レアンドロス皇太子殿下は、私を護るためにお名前をお貸し下さっているんです。あの、確かに仰る通り、冷却基盤の作り手は私なのですが、どうしてそのことを?」


「君のお爺様であるベルクシュタイン博士とは、素材マテリアルを通じて我が国とも親交が深くてな。俺もよく珍しい玩具を作ってもらったものだ。博士の作る魔工基盤は、合理的で計算され尽くした、他に類を見ないほど美しい物だった。だから、あの基盤を見てまさかと思い、調べたのだ。そうしたら、グランマーレからの留学生の中に君の名を見つけた。博士の孫娘とこうして会うことが出来て、とても嬉しく思う」


ヴィルヘルムの真紅の瞳が優しげに細められる。彼はアステルの右手を取ると、ひざまづいて、口づけを落とした。


「ああああの、あの、あの!?」


「ーーどうした? ああ、すまない。グランマーレではこういった挨拶はあまりしないのだったな。だが、照れた顔もなかなか可愛らしいぞ」


楽しげに笑われてしまい、アステルはますます真っ赤になる。手の甲への口づけが、他国では淑女への正式な挨拶なのだということは知っていた。しかし、落ちぶれ貴族令嬢のアステルには、社交の場で男性と触れ合う経験がないに等しく、免疫がろくにないのである。


ヴィルヘルムはひとしきり笑って、そうだ、と思い出すように言った。


「レモネードと言えば、今日はまた一層面白い物を売り出していたな! 鉱泉水のようだが、シュワシュワとして爽やかで、酸味のある檸檬と非常に良く合っていた。一体、あの飲み物はなんなのだ?」


「鉱泉水……ですか? すみません、私は別のものを作っていたので、新しい飲み物のことはよく知らないんです。〝月の扉〟の店主のルシウスさんに聞けば、分かると思うんですが」


「〝月の扉〟の場所を知っているのか?」


ふむ、としばし考えた後、彼は真剣な眼差しをアステルに向けた。


「ーーアステル嬢、頼みがある。俺をその店に連れて行ってくれないだろうか?」


「ヴィルヘルム様を? そ、それは勿論、かまいませんが……」


「感謝する!! 実を言うと、俺は冷たい物に目がなくてな。俺の国は外は寒いが、反対に、城の中は暖かすぎて暑いくらいなのだ。是非、あの飲み物を我が国にも持ち帰りたい。店主にかけあえるよう、是非、頼む!」


「分かりました。では、ご案内致します」


アステルはうなずいて、ヴィルヘルムとともに〝月の扉〟へ向かうことにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] ほう、アイアンノーツの王太子殿下も見参か ナイスタイミングですな しかしまぁレアンドロス殿下をたぶらかすて…できると思ってんのかね? レアンドロス殿下の内心は兎も角、端から見てそんな簡単に靡…
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