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魔力ゼロの落ちこぼれ令嬢ですが、魔法帝国の魔帝陛下に寵愛されそうです  作者: いづみ
精霊王は剣と魔法の異世界でスローライフを満喫したい!
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9 馥郁たる黄金色の蜂蜜酒①




一方その頃、この地の精霊を統べる精霊王ルシウスは、彼の気まぐれにより開店したティーハウス〝月の扉〟にて、火の精霊獣クトゥグァをキッチンの隅にジリジリと追い詰めていた。


『クトゥグァ……どうしても嫌なのかい?』


『……い、やだっつってんだろ! しつこいぞ、ルシウス!』


『強情だね。ーーもう、ここがこんなにはち切れそうになっているのに……?』


『ーーッ!』


ダンッ! ーーと、ルシウスがクトゥグァに覆いかぶさるように、真後ろの棚に両手をつく。同時に、クトゥグァの背中が棚板に当たり、積まれた瓶が硬い音を立ててぶつかった。食品棚に囲まれたくの字型の角に追い込まれたため、もう、逃げ場がない。


金の猫目に動揺を滲ませるクトゥグァに対し、ルシウスは整った唇の端を意地悪くつり上げた。


『ほら……君もよく見てごらん? ーーここにある棚だけじゃない。離宮の食料庫の棚だって、隅から隅まで蜂蜜酒ミード蜂蜜酒ミード蜂蜜酒ミード蜂蜜酒ミードでパンパンにはち切れそうだよ!! こんなに蜂蜜酒だらけじゃ、他の物が全く置けないじゃないか! 作りすぎだよ! 全く!!』


『お前が離宮にいないのをいいことに、勝手に量産しまくったのはハスターだろうが! 俺に八つ当たりしても仕方ねぇだろ!? 怒るならあいつを怒りやがれ!!』


『怒っても、鼻で笑われるだけだよ!! あの子は僕の言うことなんて、ちっとも聞きやしないんだから! だから、彼と仲の良い君に、蜂蜜酒ミード作りをやめるよう説得してくれって頼んでるんだろう!? ーーでも、そんなに嫌なら仕方がない』


ため息一つ、ルシウスは先程までの不穏な気配を引っ込めて、棚に並んだ蜂蜜酒ミードを一瓶、手に取った。


『どうするつもりだ?』


『簡単さ。蜂蜜酒これを使って何か作って売ればいい。そうすれば、蜂蜜酒ミードもなくなるし、この店の宣伝にもなるし、お客さんも来る!』


『客が来ないこと、少しは気にしてたんだな』


天に向かって高々と蜂蜜酒ミードかかげるルシウスに、クトゥグァは呆れた視線を向けた。


現状、開店から数日経つが、初日に来店したアステル以来、店の扉を潜る客はいなかった。ルシウスはさして気にしていない素振りを見せていたが、誰も来ない店の番をするのには、正直なところ飽きていた。


『だから言っただろ? 看板にあんな細工をしたら、来る客も来ねぇって』


『予想はしてたけど、これほどだとは思ってなかったんだよ。まあ、それが分かっただけでも大きな成果なんだけどね』


クトゥグァの言うように、ルシウスは街中に立てたこの店の看板に、ある魔法をかけていた。それは、かの〝精霊王の寵妃〟ディアナのように、精霊を見ることの出来る才能を持った者にのみ、看板が見えるというものだ。特別な才能のように思えるが、昔はほとんどの人間に、精霊の姿を見ることが出来ていた。それが、いつの間にか赤子や一握りの子供にしか残されていない、希有けうな力になってしまった。


真っ直ぐで、純粋な心を持った者。


それが、この学院にはこれほどまでに少ないとは。


人間ひとの心が精霊(僕等)から離れている証拠だ。……流石に、少し悲しいな』


ルシウスがポツリと呟いた時、三時の時鐘が鳴った。ーーと、ほぼ同時のタイミングで、店の扉が勢いよく開く音がして、誰かが中に駆け込んだ。ルシウスとクトゥグァが何事かとキッチンを出ると、汗だくになったアステルが、ぜいはあと肩で息をして立っていた。


「あのっ、ほ、本をっ、貸して頂いて、あ、ありがとうございました……! すごく、面白かったです……! つ、続きを、貸してください……!」


『それはいいけど、顔が真っ赤だよ、アステル。まずは座って、鞄を置いて、ゆっくり涼んで』


『熱いはずだぜ。火の魔力がずいぶんと高まってるな。お嬢ちゃんとは相性がいいと思ったんだ』


クトゥグァは嬉しそうに笑いながら、アステルの頭をぽんぽんと撫でた。


魔力の塊である精霊達に属性があるように、人間の持つ魔力も、属性を持つことがある。


騎士、戦士、格闘家、鍛治師、料理人など、活動的な仕事や火に近い場所で仕事をする人間のもつ魔力は、火の精霊達が好む火の属性の魔力を生み出しやすいと言われている。魔術師の場合、火属性の魔術を良く使用し、得手とする者がこれにあたる。自分の魔力の属性と同じ属性の魔術は行使しやすくなり、また、魔力の増幅も容易なので、結果として魔力量が増えやすいのだ。


「火の魔力……魔力に属性を持つ魔術師は、精霊達と特別な信頼で結ばれているといいます。私、自分の魔力は何の属性も持っていないと思ってました」


『環境によって、人間の魔力は性質が変わるからな。お嬢ちゃんは、その場にいる精霊の力の影響を受けやすいんだと思うぜ。そういやさっき、火の力が急激に高まるのを感じた。火の精霊の召喚訓練とやらは、上手くいったみたいだな?』


「もう、大成功でした! ありがとうございます! クトゥグァさんが励ましてくれたお陰ですよ! ーーあ、そうだ。上位の学級の方に言われたんですけど、焔炎の祝福印というものが、一瞬、右手に浮かび上がって……あれも、クトゥグァさんが精霊に命じて下さったんですか?」


『ーーほお? あの印に気づける人間がいたのか。なかなか見どころあるな。そいつ、なんて奴だ?』


「えっと、ロベルト・ジーク・アデルハイドという、代々精霊騎士団長を務めるアデルハイド家の御令息でーー」


『なんだ、あいつか! あいつは見えて当然だ。なんたって、俺とあいつのじーちゃんのじーちゃんのじーちゃんのじーちゃんのムグッ!?』


おかしな語尾でクトゥグァの言葉が途絶えたのは、ルシウスが黄色い檸檬レモンに似た精霊菓を、クトゥグァの口に思い切りつつっこんだからだ。


『酸っぺえええーーーーっっ!!』


『クトゥグァ? 口が過ぎるし、口が悪いよ? 君はただの魔術師でありウェイターなんだから。かの英雄名家アデルハイド家のご令息を、あいつ呼ばわりしないの。ーーはい、これ。この前みたいに冷やして振り回して、アイスクリームを作ってあげて』


はい、と手渡されたクリーム入りの硝子瓶に、クトゥグァは眉を吊り上げる。


『はあ!? 嫌なこった! 一瓶作るのにどんだけ苦労すると思ってんだよ!』


『アステルが可哀想だろう? 顔が赤いし、汗もかいてる。言っておくけど、君が力加減を誤ったせいだからね。いくらなんでも、祝福しすぎ。このままじゃ、ゆでだこになっちゃうよ?』


『ーーチッ。分かったよ、貸せ!』


クトゥグァは瓶を手にすると、以前にやったように熱を奪い、振り回して、アステルのためにアイスクリームを作った。ルシウスが綺麗に硝子器に盛り付けたものを、不思議そうにスプーンですくったアステルは、一口食べて、眼を輝かせる。


「わあっ! 冷たくて、甘くって、美味しいです! こんなスィーツ、食べたことない……!」


『良かった。食べたくなったらいつでも言ってね。クトゥグァに作らせるから』


『ふざけんな! こんなもん、いちいち面倒臭くてやってられっか! 力使って作るならまだしも……モガガッ!?』


『クトゥグァはよっぽど檸檬が好きなんだねぇ。穴という穴に突っ込んであげようか?』


『やめろーーーーッ!!』


「……これ、容器はただの硝子瓶ですね?」


冷静な呟きに、戯れあっていた二人がふと顔を向けると、アステルが黒い瞳を張り詰めて、アイスクリームの瓶をじっと見つめていた。


「中身を直接凍らせるのではなく、凍らせた硝子瓶に中の液体を接触させることによって、少しずつ凍らせる……振り回す必要があるのは、液体を凍らせる際に空気を含ませながら撹拌するため……クトゥグァさん、さっき、瓶を凍らせるのに氷の術文を使われていませんでしたよね? どうやって凍らせたんですか?」


『ゲホッ! ゴホッ!? ーーああ? 瓶から熱を奪ったんだよ。火の精霊は、熱を司る精霊でもあるからな。熱を与えるんじゃなく、熱を奪うよう頼めばいい』


「……」


『おい、どうした?』


『アステル?』


「その発想はなかったです!!」


パーン! と机を叩いて立ち上がるなり、アステルは鞄の中から筆記用具を取り出し、ノートを開いて猛然と何かを描き始めた。


「火の精霊の力で熱を奪う……! それが可能だとしたら、魔晶石の配列配置を工夫することで、同じ作用が見込めるかもしれません! 氷の魔力を魔晶石に封じるのは難しく、また、安定した状態を保つのが困難ですが、火の魔力の魔晶石は生成しやすい上に一般にも普及しているのでーーうん、いけるかも……いや、いける、絶対いける……!!」


『なんだなんだ? 落書きか?』


『設計図みたいだけど、何だかわからないな。自分の世界に入っちゃったみたいだし、少し、そっとしておこう。それよりも、僕達は蜂蜜酒ミードをどうにかする手を考えないと』


『どうにかって、瓶ごと売っちまえばいいだろうが?』


『あのねぇ。こんな酒精の強いものを生徒達が飲んだら、魂が星間宇宙に飛び出すよ』


ルシウスが呆れまじりに言った時、カラン、カラン、とドアベルが鳴った。


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― 新着の感想 ―
[一言] おっ、これはつまりそういうことですな…? ディアナやルシウスが喜ぶ発明になりそうですなぁ 保管に空調、冷気が作れるってのは大きいからねw
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