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魔力ゼロの落ちこぼれ令嬢ですが、魔法帝国の魔帝陛下に寵愛されそうです  作者: いづみ
精霊王は剣と魔法の異世界でスローライフを満喫したい!
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7 焔炎の祝福①


 


数日後、火属性の召喚実技訓練が行われ、アステルはふたたび演習場に立っていた。訓練と名がついているが、座学で得た知識が体得出来ているかを示す場だ。この場での出来不出来が、成績に大きく影響する。


魔力、成績順に七つの学級クラスに振り分けられるうち、アステルが所属している学級クラスは下から二番目の二ツ星学級(ダブル)だ。


今日の訓練は、二つの学級が同時に訓練を行う合同実技訓練だと聞かされていたが、どの学級クラスと訓練を行うのかは事前に知らされていなかった。おそらく、ひとつ上の三ツ星学級(トリニティ)か、最下位学級の一ツ星学級(ダスト)だろう。誰もがそう思い、気にもとめていなかったのだがーー


「プ、七ツ星学級(プレアデス)……!?」


「嘘だろ……? 最高位学級と合同実技訓練だなんて聞いてないぞ!?」


演習場に現れた生徒達の顔触れに、アステルは……いや、アステルだけではなく、二ツ星学級(ダブル)の生徒達は全員、困惑の表情のまま固まった。


先頭を行くのは、陽の光を集めたような金蜜色の髪、意志の強そうな翡翠色の瞳を持つ絶世の美少女ーー学年首席、宮廷魔術師候補生のソレイユ・ガブリエラ・ジブリール。彼女のかたわらに寄り添う、鳶色の髪の精悍な美青年は、次席にして精霊騎士候補生のロベルト・ジーク・アデルハイドだ。その他にも高位の魔術師貴族アリストクラットの子息令嬢等、錚々(そうそう)たるメンバーが、威風堂々とした足取りで後に続く。


二ツ星学級(ダブル)の生徒達の騒めきには、悲痛な叫びが混じっていた。なぜなら、七ツ星学級(プレアデス)と呼ばれる最高位学級に所属する生徒達は、産まれながらにして魔術の才能に恵まれ、二ツ星学級(ダブル)の自分達とは比べ物にならないほどの魔力量を有しているからだ。同時に召喚術を行使した場合、魔力の乏しい方が圧倒的に不利になるのは、火を見るよりも明らかだった。


蒼白になる生徒達の列の後ろで、アステルもまた、物も言えずに茫然としていた。この前の、二ツ星学級(ダブル)単独の実技訓練でもあの大失敗だったのだ。それなのに、七ツ星学級(プレアデス)の生徒達と共に訓練だなんて、上手くいくはずがない。


恐怖と焦りのあまり、全身から血の気が引いていく。


ーーこのままでは、本当にグランマーレ帝國に送り返されてしまうかもしれない。


そう思った時、アステルは不思議なことに気がついた。数日前までは、それでもいいと考えていたのだ。


けれど、今はこの国を離れることが素直に悲しい、嫌だと感じている。


「……私、もっとこの国にいたいと思ってるんだわ」


それは間違いなく、偶然見つけたあの不思議なティーハウスと、そこに勤める二人の青年達のおかげだった。


また、彼等に会いに行きたいとアステルは思う。あの日以来、失っていたやる気を取り戻したアステルは、この学院に入学してから今まで学んだ魔術学を基礎からみっちり復習し、猛勉強に明け暮れた。もっと、魔術にーー精霊達に対する理解を深めたかった。あの魔術師クトゥグァのように、精霊達の思いを自分のことのように感じ取り、心で通じ合えたなら。魔術はアステルにとって、もっと楽しく、素晴らしいものになると思えたからだ。


演習場では、七ツ星学級(プレアデス)との合同実技訓練が始められていた。


両学級、一名ずつ名を呼ばれては前に進み出、床に張られた防御系魔術紋の中で魔力を集め、術文を詠唱。火属性の精霊を召喚するという流れだ。


「紅き焔炎の精霊達よ、我が呼びかけにこたえて来れ!」


「熱き炎の精霊達よ、今ここに現れ出でよ!」


七ツ星学級(プレアデス)の生徒達が術文を詠唱する度に、真紅の焔炎が燃え上がり、獅子や、猩々、蜥蜴の姿をした火属性の精霊達が次々と顕現あらわれ、生徒達からは大きなどよめきの声が上がった。アステルもまた、彼等のわざに見入った。必要な魔力を正確に集めるスピード、術文を詠唱するタイミング……術を行使するまでの全ての流れが完璧で淀みなく、最初に呼ばれた二ツ星(ダブル)の生徒がやっと召喚を終える頃には、七ツ星(プレアデス)の生徒は五人以上入れ替わっているという、悲惨な結果になっていた。


しかし、七ツ星学級(プレアデス)の生徒達は他の上位学級の生徒達とは違って、アステル達の訓練の様子を見て冷笑したり、侮蔑の視線を向けたりすることは一切なかった。


彼等が注目しているのは、同じ学級クラスの生徒のみ。隣でどんなに酷い失敗をしていても、彼等がその視線を逸らすことはない。


アステルは身震いした。


彼等には下位である自分達のことなど、初めから眼中になく、興味すら抱いていないのだ。


ただ、一心に、自身の力の向上にのみ眼を向けている。


その毅然とした姿勢の、なんと美しいことか。


そんな彼等の横顔に、かつての祖父の姿が重なって見えた気がした。帝国最高とまで讃えられた、最高位の魔術具技工師ーー今は亡き、宮廷魔工技士だった祖父。アステルの親族達が、彼の築いた地位に慢心さえしていなければ、何もかもが違っていたのかもしれない。


「勇猛なる焔炎の精霊よ、我が呼びかけに応えて来れ!」


ひときわ大きな黄色い歓声が上がるとともに、演習場全体が真紅に染まった。現れたのは焔炎の翼を生やした巨大な獅子だ。防御壁越しにも伝わってくる魔力の波動は凄まじく、間違いなく上級の火精霊であることが知れた。召喚者である鳶色の髪の青年は、かのアデルハイド家の令息、ロベルト・ジーク・アデルハイド。学内でも屈指の女性人気を誇る王子様的存在である彼の名前は有名で、留学生であるアステルでも知っていた。


代々、精霊騎士団の長を務めるアデルハイド家は、火属性の精霊の厚い加護を受けている。その血統に産まれた者の魔力は、火属性の精霊達に特に好まれるという。


今回のような、術文の詠唱のみで行われる精霊召喚は、召喚術の中では最も簡易な方法だ。召喚出来る精霊は下級や中級の精霊に限られる。にも関わらず、ロベルトはいとも簡単に上級の精霊を呼び出してみせた。


これには七ツ星学級の生徒達はおろか、教授達も驚いた様子を隠せずにいる。


ーーそして、ロベルトの次に名を呼ばれた金蜜色の髪の女生徒が、さらなるどよめきと喝采を巻き起こした。


「勇猛なる焔炎の精霊よ、我が呼びかけに応えて来れ!」


同じ術文をあえて選んだのは、ロベルトに対する挑戦であるーーそう豪語するかのように、翡翠色の双眸に宿る光は好戦的だ。


宮廷魔術師副師長の令嬢、ソレイユ・ガブリエラ・ジブリール。先日行われた〝精霊王の寵妃〟選びでは見事候補に選ばれた帝国屈指の才女。惜しくもその座を逃したものの、彼の精霊王の御力に触れたことで、彼女の魔力量は以前よりも格段に増加したのだという。


そのことを証明するかのように、ソレイユの召喚術は素晴らしかった。


「わあ……っ!?」


現れたのは大輪の薔薇の花だ。真紅に燃える焔炎の花弁を持つ無数の薔薇の花が、金の蔓を伸ばして彼女を包み、燦然と咲き誇る。


立て続けに召喚される火の上位精霊の姿に、二ツ星学級の生徒達はすっかり萎縮してしまった。怖れの気持ちは術にも影響する。ソレイユの隣で術を行使しようとしていた二ツ星の生徒は、術文を唱えても火精が現れようとせず、失敗に終わった。


「アステル・リュクス・ベルクシュタイン。前へ出なさい!」


教授に名を呼ばれ、アステルは飛び上がった。


あんな上位精霊達が現れた後で、火の精霊達はアステルの呼びかけに応えてくれるのだろうか。


不安と緊張で震え出す手を、ーーその時、誰かにぎゅっと握りしめられた。


「ーーっ!?」


ハッ、として隣を見るが、誰もいない。だが、不思議と恐怖を感じなかったのは、その手の感触に覚えがあったからだ。


大きくて、温かく、力強い掌。


「……そうだ。クトゥグァさんが言ってた。火の精霊達は人間が好きなんだって。呼んでも現れなかったのは、怖がっていたから」


もう一度、教授に名を呼ばれ、アステルは慌てて前に出た。この間の失態を知っている同学級の生徒達から、クスクスと嘲笑い声が聞こえたが、今のアステルには然程さほども気にならなかった。


杖を持つ右手の火傷の痕が、ドクドクと脈打っている。痛みではなく、クトゥグァが焔炎の祝福を贈ってくれた時、彼の掌から流れ込んできた温かな力が、確かにアステルの右手に宿っているのだと思えた。


深呼吸して、魔力を集める。


胸の中に湧き上がる熱い気持を、術文ことばに乗せて詠唱する……!


「人を愛し、人に愛されし焔炎ほむらびの精霊よ。我が呼びかけに応えて来れ……!!」


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