58 エピローグ 夢の向こう側
まさか、この私が、異世界転生令嬢の上、ループ転生令嬢でもあっただなんて。
しかも、その死亡フラグと破滅フラグを全力回避してくれていたのが、私を憎んでいたと思っていたお父様だったなんて。
もう一つの運命の記憶はほとんどないし、時を巻き戻された実感なんてまるでないのだけれど、実際そうなのだから受け入れるしかない。
かつて、父に愛され甘やかされ、ベッタベタに溺愛された結果、帝国最強の悪役令嬢兼魔王に育ってしまったという一周目の私。
魔族に唆され、ディートリウス陛下の魔力を奪うため、恋人を偽り彼を誑した挙げ句、その心を深く傷つけたという……自分で言うのもなんだが、なんてとんでもない悪女なのだ。
別の運命のこととはいえ、そんな私のしたことを、陛下は怒っていないのだろうか。
とある夜の、就寝前。
閨に入ろうとする彼に恐るおそる尋ねてみたら、こんな答えが返ってきた。
『怒ってはいない。だが、不満には思っているな』
「不満……ですか?」
『そうだ。そなたと月の離宮で逢瀬をした夜のことを覚えているか? その時、夢の中の私は優しいと言っていただろう。私のことを夢で見たのだな? 私の腕に抱かれ、熱いくちづけを交わす夢を……』
「な……っ!? ど、どどどうしてそのことを……!?」
『私も同じ夢を見たからだ。おそらく、あれはただの夢ではなく、一度目の運命を辿った私達の記憶なのだろう。前の運命のそなたはあれほど情熱的に私を愛してくれたのに、そなたはまだ、くちづけすら許してくれない。これを不満に思わずにいられようか』
「真面目な顔でとんでもないことを平然と言うのはやめて下さいっ!! し、仕方ないじゃないですか……! 〝精霊王の寵妃〟にはなりましたけど、魔術学院の現役学生という立場の私は、陛下の婚約者という扱いなんですから! 百歩譲って添い寝することは了承したんですから、我慢して下さい!」
ーーというか、夢の内容が微妙に違っているのは気のせいだろうか。
首を捻っていたら、ひょい、とその腕に抱き上げられた。
ドサッと、落とされた先は寝台の上だ。
『ディアナは本当につれないな。夢の私には何をされても良いくせに、こうしてそなたの前にいる現実の私には、愛されたくはないと言うのか……?』
「ーーっ!? そ、そういう聞き方はズルイと思います……っ!」
顔を真っ赤に抗議すると、仮面の向こうから楽しげな笑い声が零れた。
『愛している。ディアナ、私の寵妃』
「私もですよ。愛しています……ディートリウス陛下」
仮面が外され、彼の笑顔が間近に現れる。
手を伸ばし、その頬に触れて。
私はただただ幸せな気持ちで、優しいキスを受け止めたのだった。
《完》
イア!イア!クトゥルフ・フタグン!
ここまで読み続けて下さり、ありがとうございました。
娘の出産後、すぐに急性肝炎になってしまい、二週間の入院期間中に書き始めたお話でした。
会いたくても会えない、抱き上げたくても叶わない、そんな父と娘の切ないファンタジーを書き始めたはずなのに……イアイアしてしまって、すみません。
完全に趣味です。
お話を書き進めている間、温かいご感想、評価を下さり、本当にありがとうございました! こんなに長いお話を書き上げられたのは、そのお言葉のおかげです!
言葉は力、動力源です!
最後に。
これからの続編執筆と後学のために、ご感想、レビュー、その他諸々、是非ともお願い致します。
気に入ったキャラクター、もっと読んでみたいお話など、教えて頂ければ幸いです。
あと、クトゥルフ好きだ、愛してる、この邪神も擬人化して欲しいという方、教えて頂ければ幸いです!
応募のために一度完結させて頂きますが、まだまだこの世界で遊びたいなと思っております。
次作予定『ナイアルラトホテップは剣と魔法の異世界でスローライフを満喫したい!(仮)』妄想中です。
しばしお待ちください。
それでは、このあたりで。




