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魔力ゼロの落ちこぼれ令嬢ですが、魔法帝国の魔帝陛下に寵愛されそうです  作者: いづみ
魔力ゼロの落ちこぼれ令嬢は魔法帝国の魔帝陛下に寵愛されそうです!
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56 父と娘




「ーーお父様!!」


魔龍の翼をはためかせ、陛下は私を、その場に倒れ込んだ父の傍に下ろしてくれた。抱き起こすが、意識がない。


「お父様、しっかりして下さい……! ルシ……ナイアルラトホテップ、お父様は大丈夫なの……?」


〝ナイアルラトホテップ〟。


ナイアーラトテップ、ニャルラトホテプなどとも呼ばれるこの邪神は、かおがない故に、千もの異なる顕現を持つ外なる神(アウターゴッド)の一柱。世界に狂気と混乱をもたらすために暗躍する最強最悪のトリックスターだ。


這い寄る混沌、無貌の神、暗黒神、闇に棲むもの、大いなる使者、月に吠ゆるもの、赤の女王、血塗れの舌の神ーーこうした千の異なる顕現(化身)は同時に存在することが可能であり、中には普通に人間として暮らしている者も少なくないという。


中でも最も有名な、這い寄る混沌と呼ばれる姿は、触腕、鉤爪、手が自在に伸縮する無定形の胴体と、咆哮する貌のない円錐形の頭部を持つ。


彼によってもたらされた魔術や道具によって身を滅ぼした人間は数知れず。人間を破滅に追いやり精神を崩壊させるーーしかも、その目的は破滅していく過程を眺めて楽しむためだという。


そんな、頭に流れ込んでくる情報を再認識しながら、ほんの少しだけ名付けを後悔しはじめた時、ナイアルラトホテップとして顕現した精霊王が、鞭のような手足をくねらせながら、ルシウスだった時の姿に戻っていった。


怯えた顔の私に近づいて、にっこりと笑う。


『大丈夫。君の望み通り、時の呪縛はくつがえした。アンブローズは無事だよ。ーー本当に、面白い愛名だ。存在は矛盾していて混沌そのもの。故に、いかなる矛盾も僕の力を阻むことは出来ない。かつてルシウスという存在だった僕も、無貌の神の持つ無数の貌の一つに包括されたみたいだね』


「だ、大丈夫、なの……? 本当に、貴方は私が知っているルシウスなのよね? 僕が死と破滅の運命そのものだ! とか言って、世界を滅ぼしたりしないわよね?」


『まさか! むしろ、人間の死や世界の破滅なんて見飽きたから、剣と魔法の異世界で、のんびりほのぼのスローライフしたいなって思ってるよ! 他の〝僕〟達も賛成してる。今までのどの〝僕〟もしたことのない経験だしね』


茶目っ気たっぷりに彼が言った時、気を失った父の唇から息が漏れ、その瞼が開いた。


「……精霊王、今の話、本当だろうな」


『相変わらず、お前は疑い深いな。〝かつてあり、いまあり、将来あると人間が考えるものはすべて、同時に存在する。〟今この瞬間にも、あらゆる次元にあらゆる君や僕がいるんだ。無限に重なる運命の一頁くらい、都合が良いように書き換えたっていいじゃないか。ーーって、今の僕は思ってるし、その力もあるんだよ』


まだ分からないのか、とルシウスは言った。


『アンブローズ。これが、君の娘が君のためにたぐり寄せた運命(結果)だ。受け入れろ、友よ』


「……」


父の眼が私を向いた。冴えた蒼い瞳の中に、泣き出しそうな顔の私が映り込んでいる。


父の眼は優しかった。


まるで、眩しいものを見るかのように細まったその眦から、透明な涙が流れ落ちていく。


そっと、頬に触れた父の掌は、想像していたよりもずっと、柔らかく、温かかった。


ディアナ、と彼は呼んだ。


生まれて初めて父の口から聞く、私の名前だった。


「ーーずっとお前に、渡したかったものがある。お前から奪ってしまった、本当の名前だ。受け取ってくれるか。〝ディアナ・リーリス・ゾディアーク〟……愛しい、俺達の娘」


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― 新着の感想 ―
[一言] やっっっっっっったぜ …申し訳ない、振り切れた感情値が語彙力と肩組んで歓喜の記念旅行に行ったもんで…他の言葉が出てこない
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