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魔力ゼロの落ちこぼれ令嬢ですが、魔法帝国の魔帝陛下に寵愛されそうです  作者: いづみ
魔力ゼロの落ちこぼれ令嬢は魔法帝国の魔帝陛下に寵愛されそうです!
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4 幼馴染み達




「おめでとう、ディアナ! 貴女も花を授かったのね!」


「……ありがとう、ソレイユ。貴女の花も、ドレスローブにぴったりで、とっても綺麗ね」


襟元えりもとすそが金糸のレースに縁取られた純白のドレスローブは、シンプルなデザインながらも、まとう者の持つ華やかさを上品に引き立てている。


ピンク色に染まる大輪の薔薇を、ゆるやかに波打つ金蜜色きんいろの髪に挿した天使、または春の女神と見まごう美少女。


ソレイユ・ガブリエラ・ジブリール。


彼女は、私の父アンブローズを筆頭に構成された宮廷魔術師団ソフィストの第二席を父に持つ魔術師貴族アリストクラットの御令嬢だ。


落ちこぼれの私と違って、ソレイユ本人も父譲りの魔術の才を余すことなく受け継いでいる。実技、座学ともに学内屈指の高成績を誇る、宮廷魔術師候補生である。


そして、彼女の側にそっと寄り添う温和な顔つきの美青年は、この学院の副生徒会長、ロベルト・ジーク・アルデハイド。こちらは皇帝陛下直属の魔術戦士団、精霊騎士団ナイツオブラウンドの団長の御子息で、彼自身も優秀な精霊騎士候補生だ。


彼はソレイユのような導衣ではなく、軍服に似たデザインの紺青の制服に身を包んでいる。鳶色の髪に涼しげな空色の瞳。すっと背筋を伸ばした恵まれた体躯と、人当たりの良い優しげな容貌をあわせ持つロベルトは、数多の令嬢達の憧れの的である〝王子様〟だ。


この二人は、〝落ちこぼれ令嬢〟である私が、唯一ゆいいつまともに友人と呼べる幼馴染み達である。


父達の示し合わせからか、幼少期から顔を合わせる機会が多かったことから、自然と仲が良くなった間柄だ。


「ディアナ。今から食事なら、わたし達もご一緒させてもらえないかしら。精霊王様から花をたまわったお祝いにと思ってお菓子を作ったんだけど、いつもの通り、たくさん作りすぎちゃって」


甘い香りのするバスケットを差し出して、ソレイユは笑顔を咲かせる。しかし、次の一瞬、きらめく翠緑の双眸そうぼうを滑らせて、私の陰口を叩いていた令嬢達に、刺すような視線を送ることも忘れなかった。


下らない不敬への牽制けんせい叱責しっせきは、刃を抜き放つかのような一瞥いちべつだけで充分に事足りることを、彼女は知っている。令嬢達は震え上がり、てんでに謝罪を口にしつつ、そそくさと立ち去っていった。


小さく形の良い鼻から、フンっと息を吐くソレイユに、かたわらのロベルトは肩をすくめる。


「相変わらず、ソレイユは怒ると恐いんだから」


にらまれただけで引き下がるような気概きがいなら、最初から言わなければいいのよ」


毅然きぜんと言い放つソレイユに、私は苦笑する。優れた魔術師は、その力を支える精神面の強さも併せ持つ。彼女は、ただ可憐なだけの美少女ではないのだ。綺麗な薔薇には、花を守るしっかりとした棘があり、支える茎があり、咲かせるための根がある。


「ありがとう。私の騎士様は頼もしいわね」


「わたしよりも、ディアナが睨みつけた方が効果があるのに。貴女を愚弄ぐろうすることは、宮廷魔術師長アンブローズ様を愚弄すること。一度、アンブローズ様に訴えてみてはどうかしら。貴女を敵に回すことの意味を、彼女達にしっかり教え込むべきよ!」


いっそ蛙にでも変えてもらえばいいのだと息巻くソレイユは、本気の表情だ。その好戦的な物言いに、私は苦笑した。


「十六歳にもなって、子供の喧嘩に親を引っ張り出すのはみっともないでしょう? ーーそれに、言いつけたところで、お父様は私を助けてなんかくれないわ」


「そんなことないわよ!」


「……ううん。この学院に入学して、はっきり分かったの。お父様は、私のことを嫌ってるーーというより、そもそも私のことなんかに興味がないの。昔から、いくらお願いしても、魔術を教えてもらえたことはないし、実技授業への参加だって、許してもらえたことはないんだから」


「それは……仕方ないんじゃないか?」


ロベルトが、考え込むように口元に手を当てる。


「魔力の無い人間が無理に魔術を行使しようとすれば、体力や、下手をすれば命を削られてしまう。アンブローズ様は、ディアナのことが大切だからこそ、お許しにならないんだろう」


「……私も、初めはそう思ってた。だけど……そうじゃないのかもしれないなって」


「ディアナ……」


「私がいくら困っていても、周りの令嬢達に馬鹿にされていても、お父様が手を差し伸べてくれることはないわ。はげましてくれることも、悩みを聞いてくれることもない。休日に屋敷に戻って顔を合わせても、いつも……ろくに顔を見てもくれない」


思えば、それは今に限った話ではなかった。


普通の親と子なら、当たり前に持っているはずの温かな思い出というものが、私には一つもない。


幼い頃から、いくら追いすがっても、泣きすがっても、父の興味が私に向くことはなかった。


それはきっと、私が彼の愛する人を殺して産まれてきた子供だからだろう。


父アンブローズの最愛の妻、リーリス・ルミナリア・ゾディアーク。


彼女の命を奪って産まれた私を、愛することが出来ないのは、仕方のないことなのかもしれなかった。


心のどこかで、父はずっと私のことを恨んでいるのだ。


だから、だからこそ、私には。


ーー祝福名ミドルネームがない。


「ーーっ」


知らずに俯いていた顔を、ソレイユの美しい掌にそっと包み込まれる。胸を詰まらせる私に、彼女はなにも言わなくていいと言うように首を振った。


「大丈夫。この学院に、座学の成績でディアナの上に立てる生徒はいないわ。それくらい、貴女は優秀なのよ。だからこそ、精霊王様に寵妃候補に選ばれて、花を授かった。アンブローズ様も、きっと認めて下さるわよ」


さあ、庭で昼食とお菓子を食べましょう、とソレイユは私の返事を待たずに手を引いた。


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