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魔力ゼロの落ちこぼれ令嬢ですが、魔法帝国の魔帝陛下に寵愛されそうです  作者: いづみ
魔力ゼロの落ちこぼれ令嬢は魔法帝国の魔帝陛下に寵愛されそうです!
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13 転生令嬢の嗜み




「ーーふ。十六年の永劫ながきに渡り、この右眼に封印ふうじられし我が力が、ついに解き放たれてしまったようね……!」


朝食後の私は、俄然がぜん張り切っていた。


右眼にだけ精霊の姿が見えるーーそんな、ファンタジー好きなら垂涎すいぜんの的である邪気眼を宿したせいで、無駄に気分が高揚しているというのもある。


大半は、昨夜、父に言われた言葉を吹き飛ばしたいだけの空元気からげんきだ。でも、空でもなんでも、沈み込んでいるよりはいい。


それに、私には忘れてはいけない設定がある。


何を隠そう、私は前世の記憶を持つ転生令嬢なのだ。


転生令嬢たるもの、お妃候補としてお城に招かれたからには、以下のことをすべきである。


①今は使われていない辺鄙へんぴな離宮に住む。


②そこをピカピカに掃除する。


③ひょっこり現れる(かもしれない)恋のお相手の胃袋を鷲掴みにするため、美味しい料理やお菓子を作る。


④畑を作る。


①は済みだし、②と③は、すでにルシウスがやってしまった。


残っているものはただ一つだ。


「やっぱり、ここは先人にならって作るべきよね!! 庭に!! 畑を!!」


そして、今まで数多の転生令嬢達が数多のライトノベルの中でそうしてきたように、野菜やら珍しい薬草やらを育ててみるべきなのだ。


畑作りは、転生令嬢として当然のたしなみみである!!


『……え、どうして畑?』


「理由は分からないけれど、とにかく畑なのよ!」


首を傾げるルシウスに見守られる中。


謎の使命感に駆られるままに、見様見真似みようみまねで土をたがやし、石を取り除いて、うねを作りーーというのをやってみたのだが、あまりのぎこちなさを見かねたのか、宮内にいた精霊達がのそのそと集まって、手伝ってくれた。


……もとい、大半は彼等がやってくれた。


精霊達の中には身体の大きいのから小さいのまでいて、大きい精霊は魔法が使えるようだった。話しかけても、彼等の言葉はただの風や川のせせらぎ、楽器の音のように聞こえて意味は分からない。


でも、こうしたいのだと伝えると、魔法を使ったり、小さい精霊達に指示を出したりして、私の言った通りに仕事をこなしてくれるのだ。


本当に申し訳ない……後で、みんなに何かお礼をしないと。


そんなことがあって、丸一日かかると見込んでいた畑作りは、ほんの一、二時間ほどで終わってしまった。


しかも、収穫しやすいよう、うねの周りを木製の柵で囲って土を盛り上げた、英国風のお洒落な造りだ。


「あ、しまった。畑を作ったはいいけれど、植える種がないや」


何も考えていなかったと悩んでいたら、くい、とドレスローブの裾を引かれた。金と緑柱石ベリルで出来た亀の甲羅に白い象の頭をした大きな精霊が、鼻の先に摘んだものを手渡してくれる。


大粒の翡翠のような、ドングリだった。


「綺麗な種……宝石みたい」


気がつけば、同じように種を手にした精霊達が、ずらりと行列を作っていた。


「皇宮内の植物から集めてきてくれたのかな……? ありがとう! 植えてみるね。なにが育つか楽しみだな」


精霊達から種を受け取り、穴を掘って埋めるーーそんな作業を延々と繰り返していたら、それまで離宮にいた精霊達とは異なる様子の精霊が三匹、草むらから飛び出すなり、私の足元に絡みついてきた。ドレスローブの裾を咥えて、引っ張ってくる。


三匹とも灰紫の、煙のような毛並みをした犬達だ。


「ーーわっ!? な、なに?」


『何か、君に伝えたいことがあるみたいだね。……ふぅん、それはまた……なるほど?』


ルシウスがしゃがんで、犬達の顔をじっと見つめながら、やりとりするように相槌を繰り返す。


「ルシウス、この子達の言葉が分かるの?」


『うん。なんでも、皇宮内に急に現れた大きな精霊が大暴れしているせいで、傷ついて動けなくなっている精霊なかまがいるそうだよ。彼等は、君に助けを求めているみたいだけど……どうする?』


「私に……?」


意思が伝わって安心したのか、犬達は大人しく並んで座り、私の顔を見上げた。その毅然きぜんとしたたたずまいに、何故だか、父の姿が重なった。


「……私に、助けられるのかな。魔力もないのに、精霊と戦うことになったらーーねぇ、どうやって戦えばいいと思う?」


『助けに行く気満々なんじゃないか。大丈夫。僕は君の守護精霊ガーディアンだ。危ない時には、助けに行く』


「わかったわ。ーー行ってくる! えっと……わんこ達、怪我した精霊のところまで、案内してもらってもいいかな?」


犬達はすっと立ち上がり、足音も立てずに走り出していく。私も、彼等の後を追いかけた。


『お昼ごはんの前には戻るんだよー』


お母さんじみたルシウスの声が、なんだか妙に板についていて可笑おかしかった。


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