7.メッセージ
弁当を食べ終え、榎本は小説を読み始めたので、俺もスマホで『GFN』を開く。食後は各々好きなことをする時間にしているのだ。
すると新着メッセージが入っている。
ブルーム:ありがとー(*^o^*)撮影もイベントも頑張るよー!
藤塚からの返信に、思わず頬が緩む。気づいてくれた、そのことがただ嬉しくて。俺は忘れないうちにフレンド支援で、藤塚ことブルームの体力を回復させた。
今頃、藤塚は撮影をしているんだろうか。今日撮影した写真は、来月発売の『AiMeR』に掲載されるのだろうか。ちょっと買って読んでみようかな、と密かに思う。きもいかな? いや、でも別に応援的な意味で買うだけだし大丈夫だろう。
イベントクエストを何回かこなし、体力がなくなったので『GFN』を閉じ、かわりにSNSを開く。
新太に、教科書のお礼はフライドポテトの奢りで。とメッセージを送った。
するとすぐに、OKというスタンプと合わせて、今日の放課後はどうだ? と返事が来た。
部活は大丈夫なのか? と聞き返すと、今日はミーティングだけなんだ、とのこと。
今日は藤塚もいないし、俺も暇なので、今日の放課後に決定する。ただ、ミーティングが終わるまで待つ必要があるので、俺は教室で待つことにした。
早々にミッションクリアできそうで安心する。俺はしなくてはいけないことを先延ばしにするのが嫌なのだ。落ち着かないから。
待っている間、俺はスマホでぼんやりバイト求人サイトを見ていた。高校生OK、未経験歓迎、アットホームな職場ですといった見出し。基本飲食系が多い。どれも似たような内容だ。本屋の求人は通える範囲ではヒットしなかった。
成績が良いわけではないので、テスト勉強に差し障りがあると困る。あまり長時間のバイトはできそうにない。結構、バイト探すのって難しいんだな。
ため息が漏れる。でも、自分でお金を稼ぐ藤塚は、やっぱり俺よりも大人びていて、しっかり先を見据えていて、遠い存在だと感じる。
俺も自分で稼ぐことができるようになったら、もう少し自信が持てるんじゃないかって思う。
「晃太。おまたせっ」
新太が少し息を切らせながら、俺を呼びにきた。
「新太、ミーティングお疲れ様」
俺はそう声をかけながら、スマホをしまい、立ち上がる。
「思ったより長引いてさー、今度の練習試合結構強いとこなんだよなぁ」
「へぇ……」
隣を歩いていると、よりはっきりとわかる。新太は男の俺から見てもかっこいい。顔やスタイルが良いだけじゃない。なんだろう、きっと藤塚と同様に人を惹きつけるカリスマ的魅力があるんだ。流石星5。最高レアは違うな。
……羨ましい。
俺が新太だったら、藤塚の隣に並んでも恥ずかしくない。秘密を拠り所とせず、堂々と話しかけることだって出来るかもしれないのに。
「ポテト、駅前のとこでいいか?」
「……ん、あ、ああ」
「なんか元気なくね? どした?」
「別に。それより早く行こーぜ。腹減った」
「おう!」
新太は性格も良い。もし、好きな人を聞いて、藤塚咲良、と答えられたらどうしよう。でも藤塚は新太のことをよく知らない、と言っていた。
知ったら、好きになるかもしれない。
そんな不安を振り払うように、俺は新太を急かした。
新太は俺にポテトのLサイズを奢ってくれた。こんな食えない、と言うとじゃあシェアしようということになり、お互いにジュースを頼む。新太はさらにハンバーガーを追加した。流石運動部、胃袋の大きさが違う。
「さぁ食ってくれ!」
にこにこの笑顔でポテトをすすめられる。
「なんか、悪いな。教科書のお礼ってだけで奢ってもらっちゃって」
「いや、助かったから、ほんと。それに、久しぶりに晃太と話したかったから。小中高同じなの、晃太ぐらいだし、これからも仲良くしようや!」
「……ああ」
屈託のない昔と変わらない笑顔に、安心する。それと同時に小学生の頃は、背丈も同じくらいで、こんなに大きな差はなかったのにな、なんて少し寂しい気持ちになる。まぁ身長だけの話で、新太は元から人気者だったけど。
おっと、感傷に浸っている場合ではなかった。根室からのミッションをクリアしないと。
「あー、あのさ、新太って……」
「ん?」
ハンバーガーを頬張りながら、新太が俺を見つめる。
「その……気になる子とかって、いたりする?」
口にしてみて、聞き方下手くそすぎだろ! と自分にツッコミを入れたくなった。
直球すぎる。せめて、部活の話をして、そこからマネージャーとか、応援に来る女子とか、そういった子で気になる子いる? みたいな段階をふんで聞くべきだろ!
これじゃ不自然すぎる。どうしよう、と思った時だった。
「気になるって、恋愛的な意味で?」
冷静な声のトーンで聞き返されたので、驚きつつ頷く。新太は、短い髪を軽く掻いた後、口を開いた。
「うーん……いる……にはいるんだけど、晃太、言いふらしたりしないよな?」
どきり、とした。これ、聞いて良いのか?
根室に伝えたら、絶対に他の女子にも話は広がるだろう。それに、てっきり俺は、新太には気になる子なんていないと思っていた。
部活で忙しいし、そんな余裕ねーよとか、いないよ、と言われるだろうと思い込んでいた。
俺が黙りこくっているのを見て、新太は、ははっと笑った。
「その顔は、誰かに頼まれたんだな? 聞いてこいって」
見透かされている。こうなっては、もう正直に言ったほうがいいだろうと思い、クラスの女子に頼まれた、と素直に白状する。
やっぱりな、と新太はまた笑った。そして今度は真剣な面持ちになって、
「うーん、それじゃあ、誰にも言わないって晃太が誓うなら、教える」
と告げた。