表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/21

20.宿題

 藤塚とは駅で別れた。


 会話が弾み、なんとなしに送る形になったのだ。送るよ、の一言がなかなか口に出せなかったあの時がまるで昔のことのように感じる。


 ホームで改札を通り抜け、手を降りつつ小さくなっていく藤塚を見送ると俺は踵を返してふたたび帰路に着く。


 さて、宿題をしなくてはならない。


 宿題というのは勉強のことではない。先程藤塚から出された"水族館以外に行きたいところを考えてきて"という難題。時は十分ほど前に遡る。夏休みに遊びに行くところについて、俺は藤塚が行きたいところならどこでもいいよ、と言ったのだがそれを聞いた藤塚は即座に俺の意見を却下した。


「ダメ!」


「え? 行きたいとこたくさんあるって言ってたじゃん」


 あまりにも早い否定に少し面食らった。すかさず反論する。というか、本音はどこに行ったらいいかわからないからできれば藤塚に喜んでもらえる確実な場所、すなわち藤塚の行きたいところに行きたい、なのだが。


「それはそうなんだけど、でもそれじゃダメだよ。やっぱり」


 彼女の意思は固い。どうして? と聞くと俺の顔をちらりとみやり、ふう、と小さなため息をついた。


「……ノワくんはなんていうか欲がないよね。そりゃあ私のこと優先してくれるのはありがたいし嬉しいよ? でも私の要望ばっかり聞いてもらうんじゃさ、フェアじゃないもん」


 いや、欲はあります。隠してるけど。そもそも藤塚と出かけられるならどこでも最高なんだよな、と頭の中で呟く。


 でもそうか、公平性の問題なんだな。確かに藤塚は律儀なところがあるから、自分の行きたいところばかりにしてしまうと、俺を連れ回して振り回すことになるのでは? と危惧してるんだろう。


 なんかもう、本当に真面目というか、性格までいいんだから参ってしまう。これ以上好きにさせないでくれ、なんてくさいセリフが脳裏に浮かんで消えた。


「ノワくんが行きたいとこ、ちゃんと考えて。明日までの宿題だからね!」


 そう告げて、彼女は駅の中へとかけて行ったのだ。


 さて、どうしたものか。俺は男女で出かける場所なんて全然わからないのだ。彼女いない年数が年齢で、女友達と呼べる相手も生まれてこの方ゼロ。


 頼れるのはそう、ネットだ。俺は信号待ちの間にスマホで検索をすることにした。"男女" "でかける" "場所" を入力するとトップに"おすすめデートスポット"という文字が現れた。


 デートスポット。デート。


 ぼっ、と頭が沸騰したみたいに熱くなった。そうか、男女が二人で出かけるのって、デートって言えなくもないのか。現実は悲しいかな、彼氏彼女の関係ではなくゲーム友達なんだけど。でも、側から見たら親密な関係だと思われることは間違いない。


 やばい、緊張してきた。俺は緊張を振り払うようにして検索結果をスクロールしていく。参考になりそうな記事を開いたところで信号が青に変わった。


 家に着いたあと、俺はそそくさと夕食を終え風呂に入り自室のベッドに寝っころがりながらスマホをタップした。読み途中の記事が表示される。


 なんでも、デートをするなら待ち時間が長い遊園地や移動時間が長くなる遠方は避けたほうがいいらしい。確かに、遊園地は夏休み混みそうだし、遠方はお金と時間がかかって大変だ。そして気まずくなる可能性があるとのこと。結構勉強になる。


 いくつかの記事やサイトをみて、定番は映画だということがわかった。映画の後カフェやファミレスに入って感想を言い合うのだとか。話題に困らず、近場で済むうえにそんなにお金もかからない。学生にはぴったりだ。


 そういえば映画館も随分と行っていない。最近はもっぱら月額の配信サイトで見放題のを見ているから。いつかは家で二人で映画を見るのもいいよなぁ……なんてつい想像してしまって、流石に自分がキモくて苦笑してしまう。恋ってこわい。


 とりあえず、映画にしよう。次は何を見るかだ。駅前の映画館のサイトで公開予定の作品一覧を見る。


 藤塚はどんな映画が好きなんだろう。女子といえばなんとなくだけど、恋愛ものだろうか。意外とアクションとか? いや、ホラーが好きな可能性もあるよな。ちょっと子供っぽいところがあるしゲーム好きならアニメとか? 邦画と洋画だったらどっち派なんだ?


 映画って、何見たらいいのかわからん。


 スマホをベッドに放り投げ大の字になる。そしてふと藤塚の言葉を思い出した。


「ノワくんが行きたいとこ、ちゃんと考えて」


 俺は藤塚が好きなものを想像して、予想して、それを選ぼうとしていた。でもそれでは藤塚の望みと相反しているじゃないか。


 俺が、見たいものじゃないと。


 俺は再びスマホを手に取る。俺が興味がある映画、好きなジャンル、そうだな、邦画より洋画の方が好きかも。ジャンルは、ヒューマンドラマ系かな。でもホラーも結構見る。邦画のホラーは現実味があるというか、自分の身に降りかかるかもという恐怖があるけど、洋画のホラーは遠い場所の出来事、ある種ファンタジーのような感覚で楽しめるんだよな。


 アニメ系もいいよな。国民的アニメの毎年やる劇場版。なんだかんだ見ちゃうもんな。笑えるだけじゃなくて結構泣けるし。


 迷う。でも決めないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ