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16/21

15.思っていた以上に、懐かれていた

 その日の夜、『GFN』のイベントクエスト中にメッセージが入った。ブルーム、藤塚からだ。


 ブルーム:明日の放課後いこ!


 驚きつつも、嬉しくて顔がにやける。こんなに早く、二人で話せるなんて。


 俺はクエストをさくっと終わらせて、了解、とメッセージを送った。



 ⭐︎



「内海くん、あのさ……ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 絵画教室アトリエ兼カフェ『La toile』にはいって窓際の席に案内され、向かい合って座ってすぐ藤塚は目を少し泳がせながら言った。


「うん。俺も、藤塚に聞いてほしいことがあるんだ」


 バイト決まったんだってことと、そのバイト先がここのカフェだってこと。びっくりするかな。


 あと、もし聞くタイミングがあったらあだ名のこと。あーでも、これは少し聞くのが怖いな。


「えっ、あ……そうなんだ。わかった。じゃあ、先に私からでいいかな?」


「どうぞ」


 急ぐ内容ではないので先を譲る。藤塚は頷き、俺の目を真っ直ぐに見すえたかと思ったらさっと目線を斜め下にさげた。


 言いにくいことなのだろうか。


 藤塚の頬は、微かに赤く染まっている。手を胸に当て、ふう、と一呼吸おいてから彼女の目が再び俺をとらえた。


「……単刀直入に聞くね。美優といつのまに仲良くなったの?」


 美優、とは根室のことだ。


 なるほど。友達の根室と、今まで根室と会話した事がほとんどないであろう俺が、朝会話していたことが疑問なんだろう。


 でも、別に仲良いってほどの関係ではない。


 単なる依頼者と、それを実行し感謝されている者、ビジネス的な関係だ。しかもそこには嘘があって、俺は感謝される資格はないのだが。


 疑問を持たれても、そんな関係に至った経緯を説明するのは気が引ける。


 仮にぼかして、とある人物の好きな人を根室のかわりに聞いて教えた、と伝えたら、根室の友達である藤塚はとある人物(イコール)二階堂新太だとすぐに察するだろう。


 新太は本当は藤塚が好きなのだ。でも根室は新太に好きな人はいないと思っている。藤塚は根室と友達。これはいわゆる三角関係ってやつじゃないか? ややこしいことになってほしくない。


「……えっと、な、なんか成り行きで、なんとなく?」


 とりあえず誤魔化すことにした。


 俺の回答を聞いた藤塚は見るからに不満そうだ。腕を組んで、眉間にしわがよってしまっている。


「なんとなく、って……」


 なんで彼女はそんなことを聞くのだろう、と考えて一つの結論に至る。


 ソシャゲの秘密を、俺が話していないか不安なんだ! 根室と仲良くなったのは自分の話題がきっかけなんじゃないかと気になったわけか。なるほど。ちょっとは信用したもらいたいものだ。これでも口は硬い方だと自負している。


「安心してくれ。俺は根室にソシャゲのことは言っていない。本当だ」


 しっかりと目を見て答える。


 これで藤塚の顔も元に戻るだろうと踏んだが、さらに表情は険しくなった。


「なっ! ちょっ、違う! 内海くんのことを疑ってるんじゃないよ! 私、内海くんのこと信頼してるし。そうじゃなくって……」


 必死さを感じる否定の後、藤塚は言葉を詰まらせて顔を下に向けた。


 そして、絞り出すようにして、


「……うっちー」


 と根室がつけたあだ名を口にした。


「え?」


 なんでここで俺のあだ名がでてくるんだ? と不思議に思っていると、藤塚はキッと俺を睨んだ。


 睨んだ顔も可愛いな、と口にしたら怒られそうな台詞が頭に浮かぶ。


「うっちーとか、あだ名で呼ぶなんてずるい。私の方が、美優よりずっと内海くんと仲良しなのにっ」


 そう言うと、藤塚はぷいっとそっぽを向いてしまった。耳が赤い。俺の顔もつられてかぁーっと熱くなる。


「あ、あだ名は、根室が勝手に……」


「……でも内海くん、なんか嬉しそうだった」


「それは、髪型を褒められたからで」


 なんか、この会話、そして藤塚の反応……。


 もしかしてだけど、焼きもちってやつじゃないか? まずい。自惚れてしまいそうになる。


「えっ、じゃあ昨日今日で髪が前よりモサモサしてないのって美優のアドバイスなの!?」


「う、うん」


 榎本のアドバイスでもあるけど、きっかけは根室なので頷く。藤塚も皆と同様に俺の髪がモサモサしてる、って思ってたことに少しショックを受けた。


「何それ! 前髪だってちょっと切ったよね? それも?」


 藤塚の声のボリュームが大きくなっていく。


「うん。根室と、あと榎本が指摘してくれたんだ。だけど、前髪切ったのを気づいてくれたのは藤塚だけだよ」


 ちょっとしか切らなかったけど、藤塚は俺の小さな変化に気付いてくれていたんだ、と嬉しくなった。


 俺の言葉を聞いた藤塚は、口をぽかんと開け、さっきより頬を赤らめた。


「えっ……ま、まぁね! それくらい気づいて当然だよっ! 私の方が内海くんと仲良いから。……そうだよね?」


 最後のそうだよね? だけが、少し自信なさげに聞こえる。


 なんなんだよ、この藤塚の反応は!


 正直、思っていた以上に俺は藤塚に懐かれていたみたいだ。友達として、だけど。


「そ、そうだよ。女子で一番仲良いのは藤塚だよ」


 照れ臭いけど、本当のことを伝える。二番、三番なんていないけど。


「そ、そうだよねぇ。……えへへ」


 藤塚は、安心したらしく身を乗り出していた体を椅子に委ねた。

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