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13.攻略サイトなんてない(2)

「嘘をついてしまった、それはもう終わったこと。過去を変えることなんて、タイムマシンでもない限りできないんだから終わったことをくよくよ後悔したって、何にも始まらないじゃない。もっと建設的なことに目を向けたほうがいいと思わない?」


「……」


 姉の言うことは正論だ。その通りだと思う。だから、何も言えない。


「黙ってないで、何か言いなさい。晃太はどうしたいの? まさか、そのモテるお友達にお願いして、その依頼してきた女の子に好きな人を教える許可でも貰うつもりだった?」


「……っ」


 その方法も一応考えたには考えた。実行できる気はしなかったけど。手汗がでてきた。スマホを落とさないよう握る手に力が入る。


「……馬鹿ね。そんなことしたら、お友達の信用を失うし、女の子には一度嘘をついたことがバレる上に、彼女にとってはとっても残酷な真実を突きつけることになるだけよ」


 我が弟ながらほんと呆れた、とため息まじりに呟かれた。


 姉の声は、スマホから聞こえているはずなのに、まるで目の前にいて、俺は正座をさせられ説き伏せられている気分だった。


 いつの間にか、ノワールは俺の部屋からいなくなっていた。部屋のドアが少し空いている。その隙間から出て行ったのだろう。


 なんだか心細くなる。姉の声は最初の頃とは打って変わって冷静だ。


「あんたはね、"自分のため"に"嘘をついたことをなかったことにしたい"って考えてる。そうでしょう?」


 ごくりと唾を飲み込む。言葉はナイフだ。するりと入り込んできて心をえぐる。完全に図星だった。


 藤塚に見合う男になりたくて、でも秀でているところなんて何もないからせめて性格くらいは良くありたくて、だからこんな嘘つきで最低な自分が許せない。


 そんな理由で、嘘をなかったことにしたいと思ってる。


 俺の本音だった。


 流石は実姉、なんでもお見通しってわけかよ。


「楽になろうと思わないで、背負うことも覚えなさい」


 背負う。


 つまり今は罪悪感を抱き続けることが俺にとっての贖罪で、必要なことなのかもしれない。


「それとね。晃太は昔私に、人付き合いが上手くていいよな、どうしたら正解がわかるんだよ、って言ってきたことがあったでしょ。私はね、人付き合いに正解も不正解もないと思ってる。あんたの好きなゲーム的に言えば、人付き合いに攻略サイトなんてないのよ」


「攻略サイトって……」


 いきなり何を言い出すんだ、と俺がうろたえているのも無視して姉は続ける。


「そうよ、とあるゲームのためだけに作られた、クリアするため、もしくは勝つための攻略サイト。一番効率の良いキャラの育て方、高レアなアイテムのゲット方法、難易度の高いクエストをクリアするのに必要なアイテムはどれか、とかがいろいろ紹介されているでしょう?」


「……まぁ、うん」


「攻略サイト通りにやれば大抵うまくいく。失敗しないで済む。時間を無駄にしないで済む」


「……」


 確かにその通りだ。俺も攻略サイトの情報には何度もお世話になっている。


「そのゲームの攻略サイト内容を晃太の人付き合いに置き換えた場合、そうね……晃太が誰にも迷惑をかけずに生きる術とか、晃太が誰からも嫌われない方法、晃太が好きな人と絶対両思いになる秘訣とか、そんな感じかしら? そんな方法があると思う?」


「……そんなの、ないだろ」


 迷惑なんてかけたりかけられたりの連続だ。それに万人に好かれるってのも不可能だろう。超有名で大人気な芸能人とかだってアンチがいるっていうのに。


 あと、好きな人と絶対両思いになれる方法? ありえない。そんなのあったら最高だけど……喉から手が出るほど欲しいけどさ。


「そうよ。ない。でもあんた私に言ったわよね? 人付き合いの正解がどうしてわかるんだ、って。私がまるでその方法を知ってるかのような口ぶりじゃない? もちろん、人付き合いのためのハウツー本とかそういった情報は世の中に沢山あるわね。でも、それが晃太にとって有益なものとは限らない。晃太の周りの人達に通用するかはわからないの。だって、みんなまったく異なる思考をもった生き物だから」


「うん」


「まぁ、だから何が言いたいかっていうと、あんたはきっと自分が人付き合いが苦手で選択を誤ったから嘘をつく羽目になったんだーなんて考えてるんでしょうけど、その考えは捨てなさい。何が最善だったか、正解だったかなんて、誰にもわからないんだから」


 優しい、諭すような口調。姉が俺に伝えたいことが、なんとなくだけどわかった。


 急にゲームの攻略サイトとか言われてビビったけど、要は、俺が選択したことをいちいち後悔してうじうじして、自分を責めるのをやめろと言っているのだ。つまり、心配してくれている。


 俺は昔から何か不都合があると自分を責める傾向にある。それを理解してくれているのだ。


 人付き合いに正解も不正解もない。嘘をつくことが、不正解だったとは限らない。そうかも、しれない。


「私から言えるのは、このくらい。ちょっと説教くさかったわね。ごめんね」


 図星をさされまくって気落ちしたものの、不思議と悪くない気分だった。話を聞いてもらえるのって、すごくありがたいことだと改めて実感する。


 とりあえず素直に感謝の言葉を伝えよう。真剣モードの姉は尊敬できる。けっこう……いや、とても頼りになるのだ。


「……ありがとう、姉貴」


「どういたしまして……って、ちょっと、お姉ちゃんって呼んでよ!」


 俺の素直な礼に対し、不満そうな大きな声が返ってきた。お姉ちゃんって、高校生にもなってそんな呼び方するかよ、と心の中で反論しておく。


「じゃあもう切るから」


「えー、ちょっ」


 通話終了。俺はスマホをベッドに軽く放り投げ、再度寝転ぶ。


 仰向けで横になっていたら、お腹にずしり、と重みを感じた。薄目を開けてみると、黒いふわふわの塊。ノワールだ。


 じんわりと暖かくそれほど苦しくもなかったため、俺はそのまま目を瞑り、眠ってしまった。

サブタイトル、修正しました。色々不備があり申し訳ございません。シリアス続きなので、そろそろほのぼの甘い展開になるかと。

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