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11.レベルを上げよう

 日曜日はあっという間に過ぎて、月曜日になった。休日って、時間の流れが平日とは全然違う気がする。


 教室に入った俺は、根室にどのタイミングで新太のことを伝えようか悩んでいた。


 教室では既に藤塚と根室、その他女子がいつものように輪を作っていた。


 女子が固まっているところに、声を掛けに行くのは結構勇気がいる。根室の方から声をかけてくるのを待つ方がいいかな。


 そう思い、俺は席に着く。一時間目は現代文なので、教科書とノートを机に出しておく。ホームルーム開始まで時間があるので、スマホを取り出した時だった。


「うーつみくん。おはよっ」


「うぉっ」


 急に頭上から挨拶をされ、肩が跳ね上がる。声の主は根室だった。完全に油断していた。


「なにその声、うけるね」


 うけてたまるか。驚かせやがって、と心の中でつい悪態をついてしまう。


「ね、二階堂くんに聞いてくれた?」


「あー……」


 さっそく、質問された。俺は何度も心の中で練習した言葉を口にする。


「聞いたよ。いないって」


 どうだ? かなり自然に言えたと思うんだが。


「ふーん……そっかぁ。いないんだ。……よかったぁ」


 相手の様子を見る限り、信じてくれているようだ。それどころか、心から安堵しているような、柔らかい表情をしている。


 ずきり、と良心が痛む。嘘をついてしまった。そしてその嘘に対して喜んでいる人間がいる。


 ごめん、と心の中で謝る。


「聞いてくれてありがとー! うっちー超いい奴じゃん。仕事早いし、髪型変えたらきっとモテるよ!」


「う、うっちー……?」


「内海くんって長いし、うっちーでよくない? なんかゆるキャラっぽくて可愛いし。じゃね!」


 そう言い放ち、根室は藤塚たちのグループへと戻っていった。


 感謝されてしまい、ますます罪悪感が募る。


 でも、髪型変えたらモテるよ、ってどういうことだよ。今の髪型、そんな変かな? あと、うっちーって……。リア充というか陽キャの距離感すげぇ……。


 なんだか、一瞬でどっと疲れてしまったけれど、とりあえず、ミッションコンプリートってことで良しとする。小さな罪悪感は見ないふりをして。



 ⭐︎



 昼休みになって、俺は榎本にバイトが決まったことを伝えた。


「おー、良かったな」


 という、シンプルな反応。実に榎本らしい。


「榎本は本屋とかでバイトする予定とかないの?」


「俺はないな。部活もあるし」


「あー、弓道部だよな。練習きつい?」


「……いや、割とゆるい。でも俺委員会もあるから」


 榎本は図書委員だ。部活に委員会と、俺なんかよりよっぽど忙しい。俺は部活にも入っていないし、委員会も選挙管理委員なので、年に二回しか仕事はなく、この時期は暇だ。


 バイトすることにして正解だった。俺ももっと汗水をたらして、青春するべきだな、と今までの特に何もしてなかった自分を反省する。


「なぁ、ちょっと聞きたいんだけど、俺の髪型ってどう?」


 いきなり、突拍子もない質問に榎本がぽかんとしている。朝、根室に言われた言葉がずっと引っかかっていたのだ。


「……どうって言われても」


「客観的に見て、変かな? 変じゃなくても、気になる点とか、何でもいい。正直に言ってくれ」


 榎本は拳を口元にあてて、考え込んでしまった。


 あれ? この沈黙は、やっぱり変なのかな? と不安になっていると、目の前の無表情な友人は、思いついたように口を開いた。


「量が多くてモサモサしてる。あと前髪が長い」


 さらりとした返答は思いの外鋭く、俺の胸に刺さった。漫画だったらガーン、って効果音とともに衝撃を受けてるところだ。


 たしかに、俺は髪の毛の量が多い。今は梅雨だし、湿気が多くモサモサしている自覚はある。美容院にもしばらくというか、長いこと行っていない。


 正直言うと、美容院が苦手なのだ。話しかけられるとめちゃくちゃ気を使うから。


 それと前髪は、長い方が落ち着くのと、昔姉に切られて、超短いパッツン(金太郎みたいだった)にされたトラウマがあるから、少し長めにしていた。


 でも、そうか。客観的に見て、俺の髪型は、改善の余地があるのか。気づけて良かった。


 俺は榎本の肩をガシッとつかんで、お礼の言葉を口にする。


「ありがとう。はっきり言ってくれて」


「ん……おう」


 榎本は、俺の真剣な眼差しに少し驚いたようだったがまたすぐに手元の本に目を移した。


 さて、俺もスマホで『GFN』を起動させつつ、考える。まずバイトで、精神とか、接客スキルを磨きつつ、お金を稼ぐ大変さを身を持って学ぶ。


 次に、その金の使い道だ。前だったら、ソシャゲの課金とか、新しいゲームに使っていただろうけど、俺は自分磨きに使いたいな、と思った。


 俺は今までの人生で、自分の見た目を、あまり気にしないようにしてきた。


 キモイとか、ブサイクとかそういった言葉を直接言われたことはないけど、カッコイイとかイケメンと言われたこともなかった。


 平々凡々、地味な男。それが今までの俺。


 でも、ちょっと外見を良くしたらさらに自信がつく気がする。髪型なら、割とすぐに変えられるし。


 レベルを上げるんだ。


 星1のキャラだって、レベルを上げれば星5には届かなくても、星3とか星4に匹敵するくらい強くなれる場合がある。


 それを証明してみたいと思った。

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