○○しないと出られない部屋2 後編
○○しないと出られない部屋2 後編
「なるほど、「全員がポッキーゲームで親睦を深める」か、これって一対一でやるのよ」
「昶は「ポッキーゲーム」が何か知ってるの?」
「うん、「ポッキー」はあたしが転生する前の世界じゃごく普通に買えるお菓子だったから」
「でもその肝心のポッキーはどうすればいいのかしら」
「「「「「あ……………」」」」」
ビアンカのもっともな疑問に一同が悩む。
唐突にピンポーン!と音がした。
「ん?」
ビアンカが振り向くとそこには人数分、六個のポッキーの箱が転がっていた。
「これで材料は揃ったけどさ、どうするの?」
「どうするって何を?」
「組み合わせだよ、誰と誰がポッキーゲームをそれぞれするのか」
「あー……確かにおねーさんとユキやヒロちゃんがやって親睦を深めても今更だもんねえ」
「それ以前にポッキーゲームのルールを私達知らないわよ」
「それなんだけどそのルールって実は……」
昶がポッキーゲームの説明をすると若干一名、ビアンカが固まった。
「そ、それってキスになるんじゃ……」
「まあそうなる場合あるよ、うん」
「うう……キス部屋であんな事あったのに……」
「え?」
聞き捨てならない言葉にアユーシが反応した。
「ビアンカちゃんが以前閉じこめられたのってここから出る条件キスだったん?!」
「え?あ、いえ、それは……」
「まあそれはともかく、実際どうする?」
思わず口ごもるビアンカに何かを察した昶がそれとなく話題をそらす。
「はいっ、おねーさんは亜耶ちゃんとやりたいですっ!」
「私と?」
「そーそー、なんか他人に思えんし」
「それは構いませんが……昶はどうするんです?」
「よし、ビアンカちゃん、あたしとやろう!」
「えっ?私とですか?」
「んー……嫌?やはり彼氏のヒロ君がいい?」
「え?え?え?か、彼氏?!」
「あれ?違うの?」
「……なんか微妙に傷つくんだけど」
ビアンカの反応に少し落ち込むヒロ。
「とにかくやってみるしかないだろう、ポッキーゲームとやらが条件ならば何らかの反応がある筈だ」
「よし、じゃあ亜耶ちゃんやろう!!」
「はっ、はい」
アユーシの勢いに押されるように頷く亜耶。
「じゃあ対戦始めー!」
昶の合図でお互いにポッキーを咥えるとぽりぽりと食べ進める。
そしてあと少しとなった時、アユーシは亜耶の背中に手をまわした。
「ん??」
一瞬、うふっとアユーシが微笑んだように亜耶は感じた。
僅かに残っていたポッキーを全部かじるとそのままぎゅうっと亜耶を抱きしめる。
ちゅううううううっ!
「んー!んー!んーっ!」
じたばたじたばたじたばた。
めっちゃ濃いキスになって慌てる亜耶。
ちゅぱっと音をたてて亜耶とアユーシが離れた。
「ふああ……」
「んん〜、キスで蕩け顔の亜耶ちゃん可愛い〜♪」
「うー………」
亜耶が耳まで真っ赤になって俯く。
ピンポーン!
チャイム音が鳴るとまた何処からか声が聞こえてきた。
『一組目の終了を確認しました』
「どうやらこれで正しいみたいね」
「次はあたし達だね」
「うう……仕方ないのかしら」
「はいっ!今度はビアンカちゃんと昶ちゃん、よーい……はじめっ!」
今度はアユーシの合図でビアンカと昶の組み合わせでポッキーゲームが始まった。
お互いぽりぽりと少しずつ食べ進む。
残りあと少しとなった時、ビアンカはどうしても気になってほんの少し薄目を開けた。
こういった事に免疫のないビアンカは思ったよりもお互いの顔が近い事にぴきっと固まる。
「……ん?」
昶はビアンカの変化に気づきわざとポッキーを折った。
「え?」
「じっとしてて」
次の瞬間、ビアンカの頬に柔らかいものがちゅっと触れる。
昶はビアンカの頬に軽くキスをした。
再びピンポーン!と音がした。
『二組目の終了を確認しました』
「え?どうして?最後までしなかったのに」
「それは紙に書かれていたルールのせいだと思うよ」
「どういう事?」
ちょこんと首を傾げるビアンカ。
「んー♪ビアンカちゃん尊い♪可愛い♪」
すりすりすり。ビアンカを抱きしめてその色白の頬に頬ずりする。
「ふえええええええ、そ、それよりもルールって?」
「あの紙にはポッキーゲームで親睦を深めるって書いてあったけど「最後までやる」とは書いてなかったでしょ?だからこれでも大丈夫じゃないかなって思ったの」
「えっ、じゃあ私のさっきのキスは……」
「ま、まあクリアは出来たしあれはあれでいいんじゃないかな」
「うう……」
「それにしてもまだ出口が開かないな」
「変ね、あたしも亜耶もやったのに」
「うーん……そういえば昶さん?」
「ん?」
「さっきペナルティが来た時にそれを知っていたようですけど……?」
「うん、以前この部屋に閉じこめられた事あってペナルティ喰らってね、その時は「キスをしないと出られない部屋」だったの」
「ええっ?昶さんも?」
「昶さん「も」って事はやはりビアンカちゃんも「キス部屋」に閉じこめられたのね?」
「はい……」
それを聞いたアユーシが再び反応してビアンカに詰め寄った。
「そういやビアンカちゃんキス部屋の時は誰と閉じこめられたん?やはりヒロちゃん?おねーさんに話してみ?」
「え、それは……」
ちらりとヒロを見たのを昶は見逃さなかった。
「あれ?さっきはヒロ君は彼氏とは違うって感じだったけど?」
「んんー?じゃあどういう風にキスされたん?」
「……え……その……油断したらされちゃって………」
「「ほほおおおおおおおおう」」
それを聞いてヒロを見るアユーシと昶の二人。
「え?ちょっと?アユーシも昶もちょっと顔が怖いんだけど!?」
昶とアユーシは顔を見合わせるとにやりと笑う。
「……昶が悪い顔してる……」
「あの、亜耶さんあれって……」
「ああいう表情する時の昶って何かろくでもない事考えてるんですよ」
「えぇ〜っ………」
ひそひそと話している亜耶とビアンカをよそに昶がまず口を開いた。
「そういえばまだこの部屋の出口が開いてないわよねえ」
「そうやねえ、なんでかなあ?まだポッキーゲームやってない人が二人ばかりおるせいかなあ」
「ちょっと?!まさかアユーシ?!」
「ヒロ君?」
「昶?表情がちょっと怖いよ?!」
「「そこに正座」」
「え?え?え?」
ヒロを正座させると昶はポッキーを手渡した。
「はいポッキー、ユキ君も」
「俺も!?!?」
「だっておねーさん達女性陣はもうポッキーゲームすませちゃったし?」
「それに未だに出口が開かないのはルールにある「全員で」ってのを満たしてないからだと思うのよねえ」
「ヒロさん、やりますよね?」
「えぇー………」
「……亜耶?」
「はい」
昶の一言を察した亜耶の周囲に1ダース程の魔法陣がぽんぽんぽんっと出現し魔力の粒子が収束し始める。
「わああっ!ちょっと?!わかったからっ!!」
「ちょっと待ておい!俺の意見は!?!?」
〜〜〜〜〜しばらくお待ちください〜〜〜〜〜
そして。
壁にむかって膝を抱えて座り込み、背景におどろ線をのたくらせて落ち込む男二人。
それを見て「うわぁ………」という表情をしているビアンカ。
「うう………なんで僕が……」
「泣きてえのは俺の方だ……何が悲しくて男同士で………」
ピンポーン!
三度目の音がして壁の一部が開いた。
『三組目の終了を確認しました、ドアが開きます、ご注意下さい』
「よかった……これでみんな元の世界に戻れるのね」
「そうですね」
「やれやれ、ほっとしたよ」
「そうだヒロ君、これあげる」
「これってさっき昶が使ってたナイフじゃないか」
「さっきあたしが銃で弾いた時にソードブレイカーを欠けさせて駄目にしちゃったでしょ?だからあげる」
「あ、それならちょっと貸してください」
亜耶はサバイバルナイフを持つとそれに軽く手をあてる。
すると一瞬だけサバイバルナイフが淡く輝いた。
「ナイフに魔法処理をしましたから魔族と戦闘になった時に役に立つ筈ですよ」
「昶も亜耶もありがとう……魔法のかかった武器は貴重なんだ、大切にするよ……ちょっとまって」
「?」
ヒロは自分の荷物から紙袋を出した。
「これうちの「オヴェリア連邦艦隊」で作ったシャツなんだけど二枚あるから二人で使ってよ」
「ありがと、使わせてもらうね……みんな元気でね」
「亜耶ちゃんも昶ちゃんも元気でなー!」
「ビアンカさんもヒロさんも魔力に飲まれないよう気を付けてくださいね」
「はい、昶さんも亜耶さんもお元気で」
「傭兵じゃ危険な仕事も多いだろうけど死ぬなよ」
「ありがとう、ユキ君もね」
昶と亜耶、ビアンカにヒロ、アユーシとユキは部屋から出るとお別れをすませて元の世界へと戻ったのである。
「ヒロ、おはよう」
「ビアンカもう起きてたの、おはよう」
「ニライ・カナイ」から港へと戻る航行船の船室で目をさましたビアンカはヒロの所へと朝食のパンとスープ、紅茶を持ってきた。
朝食のトレーをテーブルに置いたビアンカはヒロのベッドの枕元にあるものに気が付いた。
「ビアンカ?どうしたの?」
「枕元のあれって……」
ビアンカが指さす方を見るとヒロの表情が驚きに変わった。
「これ……!」
ヒロが慌てて枕元にあったケース入りのサバイバルナイフを抜くとその刀身には「A・WAKASA」の文字と剣を持った女神の傭兵部隊のマークが刻印されていた。
「……大切にしなきゃね」
「うん、大事にするよ」
ヒロはサバイバルナイフをケースに戻すと嬉しそうに微笑んだ。
「昶、起きて下さいってば」
「何よ〜、今日は非番だったんじゃ……」
「これを見て下さい昶」
「その紙袋って……!」
「出してみますね」
「うん」
がさごそと紙袋からそれを出す。
「Tシャツですね」
「うわぁ……このデザインセンスって………」
白いTシャツなのだがそこには大型の帆船と「連邦艦隊一致団結」の文字がでかでかとプリントされていた。
後日、空中強襲揚陸艦「アトロポス」の艦内で妙なTシャツを着ている昶と亜耶が目撃されたのである。
◯◯しないと出られない部屋2 〜完〜
那周ノン様の小説
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「片翼の鳥~出会いと別れの物語~」
からビアンカやヒロ君達が2回目の登場です(作者様の了解済み)
後編となります
作中のTシャツはTwitterでの那周さんとのやり取りで出てきたネタだったりします。