折れた剣
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木剣がぶつかり合う小気味の良い音がスタジアムのあちこちから聞こえる。演習の授業は打ち合いからはじまっていた。
騎士は騎士同士で木剣を使用した打ち合い、魔道士は的のついたカカシに向かって魔法を放っていた。目についたことがあれば、担任のハジ先生が騎士に、魔導教諭のハリ先生が魔導士アドバイスをしていた。
赤髪が目の前で揺れている。俺は、グレンと打ち合いをしていた。グレンの一振り一振りは洗練されていて、綺麗な太刀筋だった。
グレンは額に汗を浮かべながら、片手剣を振っている。その動きに呼応するように、俺も木剣をぶつけた。そこから、一振り一振りの応酬。実戦ではないので、相手の動きを見て合わせるのが大切になる。逆に言えば、相手をしっかり見れるようになれば、裏を取ることもたやすくなるだろう。
「よし、あと一通りやったら、休憩にしよう」
「ああ」
間合いを嫌ったのか、後ろに飛び退いたグレンが言う。そういえば、他のクラスメイトはちょくちょく休憩を挟んでいたな。打ち合いの最中にちらちらとみると談笑している姿をよく見た。
この学園の生徒たちは、ハーンベルクの生徒に比べればまだまだだ。技も早さも力も全然足りない。ハーンベルクが強いのか、はたまた、ミュータインがレベルが低いだけなのかはわからない。
(でも、可能性を見れば、何人かはハーンベルクを軽く凌駕するんじゃないか?)
一気に距離を詰めてきていたグレンの剣を返しながら思う。グレンは荒削りなのだが、光るものがある。生まれ持った素質なら、相当なレベルになるだろう。
(まぁ、ここで出会ったのも何かの縁だ。グレンの未来のために力を貸してもいいな)
グレンは根がいい奴だ。話せば付いてきてくれるだろう。しかし、それじゃダメだ。どこか、こいつに付いて行ってやるかと言う思いがあるから。付いて行ってやるじゃなくて、付いていきたいと思わせなければ。そっちの方が、吸収の早さも格段に早くなる。
グレンは一撃一撃丁寧に、素早く斬撃を入れてくる。今までは、これを返すだけだった。だが、今回は違う。
グレンの剣に少し違った形で自らの剣をぶつけた。すると、グレンは違和感を感じたような顔をしたが、気のせいだと割り切ったのか、無理やり軌道修正して、剣を振ってきた。そのわずかな違いが実際の戦闘だと勝敗を分けることもある。
タイミングとしてはコンマ何秒の世界だろう。しかし、それは、俺にとっては十分すぎる時間だった。意識的には、数瞬剣の早さを早くする。俺の場合はこれによって、剣の早さと威力が変化する。それを根拠とするように、グレンの木剣はクルクルと回りながら後方に飛んでいった。
「はは、俺の負けだよ、リューク」
少し引きつった笑みを浮かべながら、グレンが歩み寄ってくる。
更衣室で耳にしたのだが、グレンは学年でも指折りの騎士だそうだ。おそらく、負け慣れていない。しかし、何処の馬の骨だかわからない転校生に負けたのだ。引き攣るのも仕方ないだろう。
「グレンもいい剣だった」
見せかけの言葉をかける。そして、グレンの脇を通って、刺さっている木剣のところに行くと、それを引っこ抜いた。それを持って、再び、グレンの目の前に行く。
「ほい」
ぽいっと木剣を投げる。それを、グレンは「ありがとう」と言いながら掴む。
「いやー、ひさびさに負けたよ。リュークって……」
話しながら、軽く木剣を振った時だった。木剣の先端がぽとりと地面に落ちた。それにグレンは唖然とした。一連の流れを見ていたクラスメイトもざわついている。
剣が折れる。それが何を示しているか。それがただの劣化だったらまだいい。剣は使えば使うほど劣化して脆くなるものだから。
しかし、ぽっきりと折れた場所は最後の俺の斬撃を受けた場所だった。
打ち合いの時も、実戦と同じように、能力向上をかけ、それに加えて、魔力を武器にも掛けてコーティングしている。剣が折れると言うことは、圧倒的な差があると言うことを示しているのだ。
「なぁ、グレン。いいのか。そんなぬるま湯に浸かってて」
言葉の真意。だから、俺みたいなひよっこにまけるんだ。
小声だったが、グレンにはしっかりと届いていたようだ。おそらく、彼の中では、思考が巡り巡っていることだろう。
彼はどう出るのか。俺は楽しみだ。素質を持ったモノがそれを無駄にするなんて、はっと笑い飛ばしたくなる。
さぁ、グレン。お前はこの敗北から何を得る?
グレンとリュークの友情は芽生えるのだろうか(ノープロット)