俺は騎士です
終わらせ方が謎です
「まったく……。お前の頭に、学習という言葉はないのか?」
「いや……今回の根本的な問題って、先生が案内してくれなかったじゃ」
「何か言ったか?」
「いえ……」
あれから、俺たちは急いで教室に向かった。少女が「あそこですわ」といった時は、怒られなくて済むぞと光明が見えたものだが、あろうことか、少女が先に教室に入っていったタイミングで、廊下の曲がり角から、俺に長ったらしい説教をした教師がやってきたのだ。目があったら最後。俺は呼び止められ、小言を言われた。
「まぁいい。とりあえず、私が先に教室に入り、話をするから、呼ばれたら入ってこい」
「了解しました」
それを確認した教師が教室の中に先に入っていった。もしかして、あの人、担任なのか? うわー、絶対めんどくせぇ。
中から、教師が話している声がする。そこから、この教師の名前が、ハジということを知った。ハジ先生は、淡々と今日の予定について話している。あれ、これ、俺も聞かないとダメなやつじゃね? もしかして、俺のこと忘れてる?
「ああ、忘れてた、今日から転校生がこのクラスに来るんだ。はいれ」
「やっぱ、忘れてたんかい!」
思わずつっこみながら思い切り、教室の扉を開けた。当然、クラスの中にいた生徒の視線はすべて集まる。講堂のようになっている教室の前方の扉から入ったのだから仕方ない。
「とりあえず、早く自己紹介したまえ」
「いろいろ手順とかそこら辺がおかしくなってるのはもとはといえばあなたの責任でしょう」
「そんなことどうでもいいから、早くしてくれ」
理不尽だろ。しかし、これ以上、憎まれ口を吐たらまた説教されそうなので、目を前に向けて、クラスメイトになる生徒たちに話し始める。
「ハーンベルク魔法学園から転校してきた、リューク=アルスタインといいます」
ハーンベルク魔法学園の名前が出ただけで、教室がざわめいた。まぁ、いったんその魔法学園に入ったら転校なんてふつうあり得ないからな。それに、ハーンベルク魔法学園の生徒の強さは、他の追随を許さないからな。強い=かっこいいの等式は成り立つしざわめくのは仕方ないか。でもね、ごめん。期待には沿えないんだ。
「皆さん、ハーンベルク魔法学園出身ってことに期待したかもしれないですが、すみません」
突然頭を下げた俺にクラスメイト達はざわめきを止めた。
「俺の固有スキルは、騎士です」
騎士です。そう言った瞬間、雰囲気が変わった。あざけるような、ばかにするような雰囲気。こそこそと何かを話している様子も所々で見受けられる。固有スキル 騎士。クラスメイト達が笑うのも仕方ない。だって、それは、この剣士という固有スキルはこの世に生まれたものが発現する最初のスキルだから。
この世界に生まれた人は、幼いうちに「騎士」と「魔導士」というスキルが発現する。つまり適正。それによって、進む世界が決まる。そこから、固有スキルは、その人が最初から持っているスキル終着まで、決められた道をたどって成長していく。その成長上限は個人差があり、騎士などのまま終わってしまう人がいれば、次の段階である第二段階、第三段階、第四段階そして、最上位の名前持ちと呼ばれるこの世界でたった一つのスキルを持つレベルまでたどり着く人もいる。ちなみに、第三段階、四段階は、近衛騎士団レベルだ。名前持ちまで成長したら、歴史に名を遺す騎士になる。まぁ、何十年に一人だが。
この2-Aは、ミュータイン魔法学園の2年生のなかでも優秀な生徒が集められたクラスだと説教中に言われた気がする。
だから、このクラスはほぼ全員が第二階級まで達しているはずだ。だから、その中で赤ちゃんのような騎士の固有スキルを持っていますと宣言したら見下されるのは普通だろう。実力主義なんてそんなもんだ。
「まぁ、ということで、よろしくお願いします」
誰も聞いていないはずだが、とりあえず頭を下げておく。ハジ先生が何か言いたげにこちらを見ていたが、目でそれを制した。
「それでは、リュークと仲良くしてやれ」
「ちょっと待ってくださいまし」
話を終わらせようとしたハジ先生が話終わる前に、がたっと立ち上がる音が聞こえたかと思えば、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「ここは学年の顔となるクラスですわ。実力がともなっていないものがこのクラスに入ることは、クラスの品格を落とすことになりますわ」
「ほう」
ハジ先生が息をついた。おそらく、今の言葉は、クラスの総意といっても過言ではないだろう。空気がそれを物語っている。
「つまり、リュークは弱いからこのクラスにいさせたくないと。そうだな? カナ=マルシア」
「そうですわ」
クラスに殺伐とした空気が流れ始めた。意見が真っ向から対立しているのが分かる。ハジ先生はおそらく、俺の本当の力について知っているのだろう。それよりも、あの子の名前初めて聞いたな。
沈黙がクラスを支配する。正直言って、やばいほどいにくい。あー、早く終われよ。その時、あわただしい足音が聞こえたかと思ったら、ばんと勢いよく教室の扉が開かれた。
「すみません! リューネ=マリアナ! 遅刻しました……って、あれ?」
亜麻色髪の少女が急いでやってきた。なるほど、制服がきれいになっているということは、着替えてきたのか。額に汗は浮かんでるし、髪の毛が少し乱れている。だいぶ急いできたのだろう。
彼女は、俺を見つけると笑顔を向けてきた。この子、すごいな。この雰囲気の中そんな振る舞いができるなんて。
「全く、リューネ。早く席に着き給え」
「は、はい」
亜麻色髪の少女ーーリューネーーは自分の席にとてとてと走っていった。まぁ、彼女の登場で空気が弛緩した。その点、ナイスタイミングだろう。
「全く、なんなんですか。騎士と魔導士の分際で」
不機嫌そうなカナつぶやきはリューネの登場で巻き起こった喧噪の中に消えていった。ちなみに、その声は俺にははっきり届いていた。
お付き合いありがとうございました。今後とも、よろしくお願いいたします。