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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人類が滅びた吸血鬼の世界

作者: しゅん

ドラキュ皇国――。


吸血鬼の吸血鬼による吸血鬼のための国である。

吸血鬼は人間の血を食料にする。例外を除き人間以外の血は飲むことができない。

当然それを人間が許容することはない。


この世界では文明というものが生まれるよりも前の時代から吸血鬼と人類は争い続けていた。


吸血鬼は強靭な肉体と不死の力、そして血を操る能力により捕食対象である人間を狩る。

しかし人間も吸血鬼に比べ圧倒的に多い人口と魔法や兵器の開発、そして突然変異によって生まれる英雄の存在により対抗し力は互いに拮抗していた。


 しかし、数千年に及ぶ人間との戦争はついに吸血鬼の勝利に終わった。生存する人間は全て家畜として飼われ、吸血鬼にとって理想の世界を作り上げた。


 だが、それも長くは続かなかった。いくら交配させても子供を産まない人間が増えてきたのだ。何が原因かはわからない、だが確実に人間の数は減っていく。

 そして人間にだけ感染する疫病の発生がとどめとなり、少ない人間を多くの吸血鬼が奪い合う悲惨な状況となった。

当然一人の人間が死なずに出せる血の量は限られる。過剰な吸血により死んでいく人間も急速に増えていき――人間は完全に滅亡した。



「はぁーおなかすいたなぁー」


鮮血で染めたようなドレスで着飾り、たくさんの装飾品を身にまとった12歳の少女は、日中だというのに厚い雲に覆われ日が差しこまない空を城の窓から眺めていた。


「クローブ、お食事ができましたよ」


隣の部屋からか細い母の声が聞こえる。弱弱しいが壁を挟んでいてもよく通る声だ。


「わーい!やったー!」


ベットに座っていた皇女クローブは母の声があった隣の部屋に走った。


部屋に入ると日に日に目に見えてやせ衰えていく母がいた。クローブの幼いころの記憶、そして城の至る所にある母の美しく血色のよい写真や絵画とは別人のように感じる。


その横にクローブが4人すっぽり入るぐらいの大きな容器にたっぷりと血が入っていた。


 人間が滅びて15年、食料がなくなった吸血鬼はどんどん数を減らしていった。

クローブが小さいころにいた召使や、広間で謁見しているときに並んでいた勇壮な兵士たちもいつの間にか消え去ってしまった。餓死したのか人間を求めて旅だったのか、クローブにはわからなかった。


「お母さんありがとぅ!いただきまーす!」


 クローブが元気よく声を出すと血の入った容器に顔ごと突っ込みまるで水中ポンプのように血を啜っていく。母はクローブが部屋に入った時と同じ位置で娘が血を飲む姿を見つめている。


「はぁ~おいしかった!お母さん最高!」


 大量にあった血を一滴残らず平らげたクローブは母にお礼を言う


『ふふふ‥‥あなたはわれら吸血鬼唯一の希望なのです。明日も血を用意しますからよく飲みなさいね‥‥』


‥‥いつも血を飲んだ後はそう言いながら微笑んでいた母は今日はなぜか何も言わない。不気味なほどに動かない。


「‥‥お、おかあさん?どうしたの?」


 変に思ったクローブは母に近づき揺らす。

立っていた母をクローブはおそるおそる揺らしてみる。まるでスカスカの人形のように軽くなった母を揺らしても全く反応がない。


 怖くなりクローブの揺らす強さが大きくなる。するとバランスを崩し床に倒れ落ちた母は床に落ちた衝撃で上半身が粉になった。


「うわぁぁぁぁああああ、お母さん!お母さんが!!!誰か!!お父さん!!」


 静かな城の中をクローブは駆け回る。しかし、どこにも誰もいない。謁見の間や警備がいるはずの各所の門にさえも、いやな予感がクローブの中に込み上げてくる。


 この2年間クローブは城の中も歩き回るのを母に禁止されており、ずっと寝室と食事の部屋ばかりにいた。その間召使どころか皇帝である父すら見ていない。毎日母だけが大量の食事を持ってきてくれた――。


「誰か!お願いでてきて!誰かいないの!?」


 もはや母のことよりも自分の今の状況を考えうる最悪な状況ではないことを証明するために誰かいないか走り回る。そして今まで考えてこなかった、いや考えたくなかったことを思い返していく。


私は15年前に滅びた人間の血をなぜ毎日大量に飲めていたのか

なぜ2年前から召使や兵士たち、父と会わなくなったのか

なぜ母はやせ衰えてしまったのか


「‥‥私が食べたの‥‥?全て‥‥」


――こうして吸血鬼も滅びた。全吸血鬼の血を飲み全吸血鬼の力を得た歴代最強の吸血鬼を除いて。




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