『幼なじみ大戦・エボリューションズ』
◆
カーテンを閉めた部屋に朝日が差し込んでくる。
素敵な一日の始まりを告げるかのように、チュンチュンという小鳥のさえずりが聞こえてくる。
「うーん、朝か……」
俺――神拳獅子王は目覚めた。
俺は身長179センチ、体重は秘密。黒髪に黒い瞳の生粋の日本人だ。プロの最強スペシャリスト暗殺者を目指す武論虎学園に通っている。武論虎学園は世界各国の軍隊や秘密組織、あらゆる組織からの暗殺を請け負うプロでスペシャリストな暗殺者を育成する学園だ。
クラスメイトは35人。俺以外は全員女子。暗殺者になる女子は皆、容姿端麗で美少女揃い。
というわけで俺は、授業中も体育の時間も暗殺者訓練の時間もハートを狙われ続けている。
ちなみに20歳の女教師まで俺のハートを狙っている。
まったくもって気が休まる暇がないが、色んな意味でモテモテだ。
ちゅんちゅん♪
小鳥が可愛らしく俺を呼ぶのでカーテンをシャッと開け、窓を開ける。
途端に心地の良い朝の風が吹き込むと同時に、吹き矢が飛んできた。
俺はそれを二本の指で受け止めて、そのまま方向転換。吹き矢を放ってきた相手に投げ返す。
「きゃんっ!?」
「俺にはこんなもの効かねぇぜ!」
吹き矢を放ったのは、右隣の家に住む幼馴染、忍びの志乃だ。
同じ暗殺者養成学園に通っている志乃は黒髪のショートッカットの忍者娘で、俺のハートを狙っている。
吹き矢にはニンジャ伝来の致死量の毒が塗ってあり、触れるだけで像でも即死するという。ちなみに今、吹き矢に触れたがプロだから3秒以内なら大丈夫だ。
投げ返した吹き矢は、志乃の額に命中していた。
「レオくん! おはよ! やるわね……でも、残念! 私も毒に耐性を持っているからね! だからこんな毒なんて効……ぐふっ」
「効いてんじゃねーか」
顔を紫にして口から泡を吐き、ビクンビクンと白目を剥く志乃。
そのまま二階のベランダの手すりに、グッタリと干し布団のように垂れ下がる忍者娘。
全くもって朝から酷い光景だが、いつもの日常風景だから放っておこう。
「……さて、学校に行くか」
顔を洗って髪を整えて、制服に着替えてリビングにいく。
と、そこでは美味しそうな朝食が用意されていた。
清楚な白いエプロン姿の金髪碧眼の美少女が朝食を用意していた。
朝日がキラキラとストレートロングの金髪を輝かせる。
「エミリー……勝手に入るなよ。庭の罠は?」
「あんな罠、ワタクシにはまったく効果ありませんわ」
オホホとと金髪の美少女が上品に笑う。庭を見ると、仕込んでいた落とし穴が暴かれ、横から狙う鉄球ハンマーが壁にめり込んでいた。
暗殺者スキルで避けてガラス窓を割って侵入してきたようだ。後で修理させよう。
エミリーは左隣の家に住む英国貴族の幼馴染。
何故か幼い頃に隣に引っ越してきて、同じ暗殺者妖精学園に通っている。
「さぁ、たんと召し上がれ!」
俺の両肩をガッと押さえて椅子に座らせるエミリー。
ベーコンエッグと焼きたてのパン、コーンスープ。実に美味しそうだ。
新鮮なフレッシュジュースを注ぐエミリーは奥さん気分か。
「ま、せっかくだし頂くか……な!」
と俺はエミリーの胸に手を突っ込んだ。
柔らかくて温かい胸の谷間を遠慮なくグイグイいく。
「あんっ!? レオくんってば朝からこんな、ダメエッ……!」
「黙れ、これをよこせ」
「それはっ!?」
俺はエミリーの胸の谷間に挟んであった小瓶を取り上げた。
そこには「解毒剤」と書かれている。
瓶を開けて飲む。
苦い。
「……英国流毒殺術、モーニングブラッド……。毎朝同じ手は食わねぇぜ!」
「もうっ!」
俺はおいしく朝食をいただき始めた。解毒剤さえ飲めば、コイツの毒入り朝食も美味い朝食に早変わりだ。
ぷくーと可愛らしく頬をふくらませるエミリー。
貴族の間で暗殺を担う一族の末裔がエミリーだ。
「お兄ちゃんおはっよー!」
「……!」
と、今度は後ろから明るい声とともに背中に抱きつてきた小さな身体。
俺はその腕を掴んで、そのまま投げ飛ばして床に叩きつけた。
「ぐはああっ!」
お下げ髪の小柄なランドセルを背負った女の子が叩き付けられた衝撃で口から「カハッ」と血を吐いた。
それは裏の家に住む幼馴染――小野モコだ。
ランドセル妹は偽りの姿。
コイツも暗殺者で、「お兄ちゃん!」と抱きついては相手の首を鋼鉄ワイヤーで切断する殺人術、シスター・スライサーの使い手だ。
「ちいっ……! あと一歩だったのに!」
口の血をぬぐい、ギラギラとした目を向け来るランドセル妹(偽物)。
「うるせぇ! かって入ってくんな! どこから来た!?」
「……そこのガラス窓」
「エミリーが割るからだ!」
「あんっ! こめんねレオン」
金髪エミリーのせいで、変な幼馴染が侵入しやがった。
ってことは……。
「一匹でも暗殺者幼馴染を見つけたら……」
『そうドルルッ! 既にッ! 侵入しているお前のハートにっ!』
ドギュルルル! と音がしたと思った次の瞬間。
冷蔵庫のドアが吹き飛んで、腕にドリルを付けた赤髪の女が襲い掛かってきた。
「しゃらくせぇ!」
俺はエミリーを盾にして避けた。
「キャアアアア!?」
「卑劣なドルルルッ!?」
あんな超硬質金属ドリルをくらったら、流石の俺でもひとたまりもない。
エミリーが心臓を貫けれて悲鳴を上げたが、確か心臓の上には、俺の写真を入れたロケットペンダントがあったはずだ。どうせ生きているだろう。
俺は素早くドリル娘の背後に周り、ジャーマンスープレックスを食らわせる。
「ドルァアアアッ!? ぐはぁ!」
ズゴン! と頭頂部から床にめり込ませて、ようやく止まる。
「……ったく、猪子までいやがったか!」
この暴走ドリル暗器を使う暗殺者は、正面の家に住む幼馴染、猪子だ。
幼稚園の頃は砂場でトンネルホ掘りが上手い女の子だったのに、武論虎学園似通うようになってからはこの調子だ。
「やれやれ、これじゃ遅刻するぜ!」
俺はパンを咥えると、颯爽と家を飛び出した。
修理は、エミリーの家に任せることにする。
◆
しん……。と編集部内が静まり返った。
今日は、大事な「書籍化企画会議」の日。
最高の自信作、『小説家になるお!』で絶賛連載中の小説を、二回目の召喚にあわせて印刷して持ってきたのだ。
編集部の中では、編集長と編集担当が紙の束を読んでいる。「男の娘」疑惑がいまだに晴れないリムルが深い溜息と共に、熱に絆されたような瞳を向けた。
「凄い……! これが異世界ライトノベル……!」
「だが、一行目の『 カーテンを閉めた部屋に眩しい朝日が差し込んでくる』とは、どんな魔法なのだ? カーテンを閉めていたら朝日は入らんと思うのだが……」
編集長のダークエルフのアルファーベットさんが、メガネを指先で持ち上げながら至極全うなツッコミを入れてくる。
「それは、最新のハイテク暗殺者素材、光格子解析・ナノマテリアル製なので光を通すんです。ラノベならこれぐらい常識です」
「…………ちょっと何言っているかわからないが、まぁ魔法なのだな?」
「はい。クールな暗殺者高校生の部屋ですから、防弾素材なんです」
僕は自信たっぷりに答えた。
「ふむふむ、そういうコトね。世界と繋がっていると思い込んでいる思想の裏側に隠された闇を炙り出す、アカデミックな社会派ライトノベルなのね、大体わかったわ」
リムルがふんふん頷く。絶対わかってないなコイツ。
「ところで……なんで幼馴染なんだ?」
「ロマンだからです! 可愛い幼馴染!」
「たまたま隣りに住んでるだけで……?」
「リムル違うんだ、これは運命! 魂の導きというか……!」
「え、えぇ……うん?」
ちょっと引き気味のリムルに僕はとくとくと幼馴染の素晴らしさを解説し続けた。
◇
<つづく>
次回、完結しますw