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ケモ耳イラストレーター少女、チャイ


「チャイ……さんは絵師なんだね! どんな絵を描くの?」


 僕は好奇心で尋ねてみた。

 近づくと噛まれそうなので、適度に間合いを取る。


「うーん。殿方に見せる程のものデハー」


 ちょっと照れたようにはにかむと、耳を伏せ気味にする。


 ショートボブ風の黄色い髪の上から耳が二本ぴょんと出ている。けれど、それがカチューシャじゃない証拠に、音のする方に向きを変えたり先端が動いたりする。


 半獣人、コボルドの女の子……!


 噛み付くのは本能(?)だから仕方ないけれど、見ている分には子犬みたいな感じで実に可愛らしい。少なくとも「男の娘」疑惑が晴れていない自称・編集担当(メインヒロイン)のリムルよりは。


「ひゃ!?」

「チャイ、ワタルに画集を見せてやれば?」

 いつの間にか背後に立っていたリムルが、僕の両肩に親しげに手をのせて言う。

 チャイはこくりと頷いた。

 どうでもいいけど、何か背後に当たっているのは何? 胸? 胸にしては位置が低いような……。


 色んな意味で僕を「食べたがる」二人に挟まれていると、前門の虎に後門の狼と言った感じがする。いや、今は前門の(コボルド)、後門の……いやなんでもない。


「えーと、これなんだナー」

 チャイは近くの机をガソゴソと漁り、スケッチブックを取り出した。

 机の上には色々な資料らしい本や、紙。描きかけの線画のようなもの。画材などが載っている。きっとチャイの仕事机なのだろう。


 少し恥ずかしそうに、ぱっと広げて見せてくれたスケッチブック。


「わ……! 凄い!?」

 そこには、可愛い女の子が描かれていた。

 栗毛の女の子が手には剣を持って、ビキニアーマーを着て戦っているシーンだった。ブタのような醜い怪物に囲まれている……という構図の絵。

 負けたらきっと捕まってブヒブヒと酷いエロ同人のような展開になるんじゃ……? と、思わずにはいられない緊迫感が伝わってくる。


「これ、近所の精肉店『肉の満腹屋』の宣伝用チラシ、ラフ絵なんだヨー」

「肉屋!? 方向性それでいいの!?」


 確かに下の方には異世界文字で『新鮮な肉あります』と書いてある。

 今から肉を狩るとか生々しすぎるだろ……。


 でも、イラストに関しては正直驚くほどのクオリティだ。

 異世界だからてっきり「中世の書物」に描かれている挿絵みたいな、カキカキとした描写かと思っていたけれど、そんなことはない。現代日本で見かける萌え絵を少し古くした程度の……寧ろ骨太の描写が新鮮な、そんな絵柄だった。


「本当に凄い……! 想像してたよりもずっとラノベのイラストしてるね!」


 率直に言えば、魅力的なイラストだと思った。

 僕に絵心はないけれど、ラノベの挿絵なら美術館で見た絵よりも遥かに多く眺めて来たのだから間違いない。売れるイラストというやつだ。うん。


「ラフ絵なのでお恥ずかしいナー」


 チャイが照れたように耳を掻く。


「すごい上手! 可愛いし……」


「ま、ウチの専属絵師だかんな!」


 なぜかドヤ顔のリムル。どうでもいいけれど男子口調に戻ってるぞ。


 あれ……でも。


「耳と尻尾があるんだね」

「そりゃ、あるんだナー」


 さも当然、という顔で次のページをめくる。

 

 次の紙には、イケメンの騎士風の男性と、お姫様が見つめ合っているイラストが描かれていた。出会いのシーンだろうか? ほんわかと乙女チックな雰囲気の絵だ。


「これは『冒険者ギルド・剛力舎』用の募集ポスターラフだニー」

「方向性、方向性がッ!」


 でもやっぱり耳がある。構図的にお姫様のお尻にはフサフサの尻尾も描かれている。


「あの……普通の人間の絵はないの?」


()の絵かニー?」

「いや!? エサじゃなくて、人間!」


「あー! 描いてるとお腹が空くんだナー♪」

 ニコニコと無邪気にそんな事を言いながら、スケッチブックをめくる。


 描かれていた人物にはどれも耳と尻尾があった。

 チャイにとってはそれが「普通」なのだろう。


 人間は……想像したくないけれど、エサ扱い?


 ぶるっと背筋が寒くなる。


「と、いうわけでだワタル。君の受賞作を書籍化するにあたり、チャイにイラストを頼む事になるのだが……問題はあるかな?」


 編集長のアル・ファーベットさんが、ぽんとチャイの肩に手を乗せる。

 嬉しそうにチャイは茶色の尻尾をフサフサと左右に振る。


「あの、その……絵はすごくいいと思います。でも問題っていうかその……僕の小説、人間しか出てこないんです……」


 拙作『幼なじみ大戦・エボリューションズ(仮題)』は、1人の少年と8人の美少女が織りなすハーレムラブコメバトル通学ノベルである。


「えっマジで?」

「僕の作品読んでないんかい!?」

 驚くリムルにズビシ! とツッこみを入れると、瞬時に人格が少女モードになる。


「だ、だって受賞作(・・・)を選んだのアルさんだしぃ」

「編集担当ならてっきり読んでくれているのかと……。それと腕に絡みつかないでください」

「あんっ、もう」


 振りほどくと女の子みたいな可愛い声を出す。


「まぁまぁワタル。私の魔法()に狂いが無ければ、君の小説はきっと素晴らしいはずだ。……読んでないけど」


編集長(マスター)まで!?」

 軽くショックだ。てっきり読んでくれて気に入ってくれたから僕を異世界の編集部に召喚してくれたのだとばかり。


「ワタル。少し勘違いしてるようだが言っておく。私の魔法は時空間を飛翔する、自律亜空間自動検索……お前たちの世界の言葉に置き換えると……ボットというか検索ロボというか……そういうものだから」


「益々ショックですけど」


 僕は文字通り「orz」の体勢で床に崩れ落ちた。


 でも、編集長は優しく俺の背中に手を添え、こうも言った。


「だが、有象無象、無数に散らばっていた塵芥(ちりあくた)の文字列とは違い、ワタルの小説には確かに『力』があった。私の魔法はそれに反応した。闇の中でくすぶる『炎』のような情熱……リビドーにパトス。私はそれを確かに感じ取ったんだよ」


編集長(マスター)……」


「だから、自分の力を信じて、私たちに小説を読ませてはくれないか?」


 さらさらと長い黒髪が床のうえで渦を巻く。ダークエルフの編集長は厳しく恐ろしい人だけれど、こんな優しさも持っているんだ。


「まだ私も読んでないからな」

「……そうでしたね」

 

 いや、優しくない。


<つづく>


ついにベールを脱ぐワタルの「小説家になるお!」作品。


次回、『幼なじみ大戦・エボリューションズ(仮題)』w!

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