僕は人気作が書けない
◆
「アクセス数、たったの5……!」
ゴミか、僕は。
自作小説とはいえ、一日の「PV」つまりアクセス数が「5」なんて、酷すぎやしないだろうか?
ため息をつきながら「更新」ボタンをクリックしてみる。
けれどやっぱりPVは5のまま。ブックマークは連載開始1月で3。当然、評価ポイントも一桁から増えていない。
僕はいわゆるネット小説界の「底辺作家」だという現実を思い知らされていた。
「なんで誰も読んでくれないんだよ……もう!」
クリックを連打して、ため息をついて、椅子の背もたれに身体を預ける。見上げるのは、見慣れた天井。
……悔しい。
こんなはずじゃなかったのに。
小説を公開すれば、あっと言う間に大人気。沢山のブクマと評価を貰って、すぐにランキング入り。いずれは書籍化作家の仲間入り……! なんて。
そんな僕の夢と計画は、もろくも崩れ去った。
今となっては夢を抱いていたなんてことさえ、恥ずかしくて言えやしない。
って、言う相手もいないのだけれど。
ラノベ好きからこじらせて、小説を書くのが好きになった口なのだ。けれど、同じ趣味を持つ友達もいない隠れボッチ作家な日々を送っている。
学校では小説を書いている事は内緒だし、親にだって言っていない。
唯一、秘密を明かしているのが『小説家になるお!』という小説投稿サイトの中だけだ。
『小説家になるお!』は、日本最大の小説投稿サイト。趣味系のサイトとしては世界でも類を見ない巨大さらしい。投稿された作品数は50万作品、会員登録者数は100万人以上にも達するとか。
本気で「小説家を目指す」ひと、または「小説を書くのが好きでたまらない」という愛好家、「思いつきで書いてみた」程度のひと。多くの書き手が集まって作品を公開している。
書き始めた動機は人それぞれだろうけれど、毎日、驚くほどに多くの小説が公開されてゆく。
僕の作品、『幼なじみ大戦・エボリューションズ』もそのひとつ。
サイトを利用している「読者」の皆さんは、面白そうな、気に入った作品を読む。良いと思えば「評価」を付けてくれる。ポイントの累積は、書き手の存在を認め作品の続きを書く原動力にもなってゆく。
ところが。
高校1年の夏休み、貴重な時間を費やして書き上げた渾身の小説は、びっくりするほど人気が無かった。
部屋の書棚には沢山のライトノベルが積まれている。他には本屋で人気の普通のエンタメ小説や、小説の書き方についてのハウツー本だって持っている。
ずっと温めていたアイデアを「小説」という形にして書けば、きっと誰よりも面白いのを書けるはず! 絶対いけると思ったのに……。
「人気作家になりたぃいいいい!」
叫べばこみ上げる悔しさと悲しさ。
『幼なじみ大戦・エボリューションズ』
ジャンルは恋愛。主人公の少年をめぐる、8人の幼なじみたちの戦いを描いた僕の自信作。
ラブコメディに生き残りバトル要素を盛り込んだ、ライトノベル風。
主人公が住む家の左右、向かい側の三軒、裏側の三軒に計8人。それぞれ個性的な美少女の「幼なじみ」が住んでいるという、羨ましい夢のような設定に、特異な能力を持つ幼なじみたちが、主人公と一緒に登校するために激しいバトルを繰り返す。
面白い要素を満載したはずなのに。
勿論、センスや文章力、筆力が足りないせいもあるだろう。それに投稿したジャンルが過疎なのかもしれない。恋愛ジャンルで「バトル要素」を求めている読者が果たしているのだろうか……?
素直に流行りの『異世界転生』『俺TUEEEチート』『VRMMO』要素を入れなかったのが敗因だろうか。
「うーん……異世界転生モノじゃないとダメなのかなぁ」
椅子の背もたれに身体をあずけて、脱力する。
サイトに投稿された小説の人気のバロメータ、「ランキング」には眩しいばかりに輝く人気作家達がズラリと並んでいる。一日数万PVを叩き出す「ランカー」なる神のような書き手もたくさん居る。
人気作品の書き手には、出版社から声がかかるという。
新人賞に応募しなくても、「うちで出版、書籍化しませんか?」と来るのだとか。
書籍化されたら全国で販売され、人気が出たらアニメ化まで……と夢は無限大。
「はぁ……」
でも彼らと比べたら僕なんて有象無象。雑魚以下の存在だ。
くそう……!
誰かに、認められたい。
自分の書いた小説が評価され、人気が出てほしい。そうすればいつかは編集部から声がかかったり、新人賞だって受賞できたりするかもしれない。
書籍化の話が来たらどんなに嬉しいだろう?
書籍化された自分の「本」を手にしたとき、どんなに誇らしくて、悦びに満たされるだろう。
きっと、きっと……!
~ ピロリン♪
――着信、メッセージ1
「ん?」
パソコンの画面に表示されたのは、赤いメッセージの文字。
クリックしてメッセージボックスを開くと見慣れない一文が書かれていた。
『受賞のお知らす ~暗黒魔王出版社~』
「……? んん……!?」
心臓の鼓動が激しくなった。
まさか、まさか!?
でも、まてよ……?
「っていうか、日本語が怪しい……」
僕は落胆し首をひねった。
応募したつもりの無い、しかも聞いたこともないレーベルからのメッセージだったからだ。
何かの間違いか、あるいは立ち上がったばかりのレーベルの編集さんが密かに僕の作品を見ていて誘ってきたとか……。
いやいや!?
そんなことがあるのだろうか?
胡散臭さを感じつつも、右手は勝手にメッセージをクリックしていた。
次の瞬間――。
「う、うぉおおっ!?」
僕の意識は薄らいで、光に包まれた。
◆
「ワンクリック異世界転移……僕は新しいジャンルか!」
<つづく>